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輪廻周回者

 



=====

 地上生活、二百二日目。

 午前七時一分

=====


 俺達は城から何度か転移を繰り返し旅館に戻っていた。

 事務室では各部門の代表者達が集まり朝礼が行われている。

 ここでコチョウの処遇について話し合いが始まった。

 皆にはすでに城での出来事と知り得た情報を伝えてある。

 セルフィナが俺にコチョウの処遇をどうするか聞いてきた。


「それで、ユラリ様。コチョウさんをどうされるおつもりですか?」


「そうだな。さっき尋問したけどオウカを殺そうとした事以外、俺達に対しては何も危害を加えてないんだよな。皆はコチョウをどうするべきだと思う?」


「わたくしはコチョウさんにここで働いて頂いても構わないと思います。この旅館内ならばユラリ様の支配者スキルの効果で悪い事はできませんから」


 ペティとファンタが自分たちの意見を述べる。


「わ、私もセルフィナさんの意見に賛成です。ご主人様に襲いかからない人なら大丈夫だと思います!」


「わたくしは仲居の仕事に差し支えがないのでしたらどっちでもよろしくてよ」


 イチゴは胸の位置で腕を組み少し考えてから話しはじめた。


「あたしは少し不安だわ。コチョウを雇ったアル・アトラーン王国の宰相が、このまま任務を失敗したコチョウを放っておくとは思えない」


 確かに遅かれ早かれコチョウの事を始末しに暗殺者が差し向けられるだろう。

 暗殺に失敗したコチョウを生かしておくだけで、依頼人にとって不都合な情報が他者へ渡る可能性が残るんだからな。

 カエデとモミジも意見を言う。


「あたいはよく分りません。でも旅館を今以上繁盛させるにはコチョウさんの情景を見せる唱歌スキルは必要になると思います」


「あたしはいつでもカエデ姉の意見に賛成よ。なんとかなるんじゃない?」


 イナンナが自信満々に発言する。


「もう二度と旅館に悪い奴は侵入させない。その為に対策も万全」


 警備に関しては心配していない。

 この前はニゲレナの転移で容易に侵入を許したけど、イナンナはバンジーと協力して転移対策をしてくれたらしい。

 元から完璧だった警備をさらに強化したんなら大丈夫だろう。

 アサハナとマコトも話に加わる。


「おいらも大丈夫だと思うっす。なんせユラリさんの支配者スキルは反則みたいな効果があるっすからね」


「ぼくは大賛成ですよ! コチョウさん程の能力を持つ芸子さんは他にいませんからね! コチョウさんがここで働いてくれるなら旅館の知名度が上昇気流ですよ絶対っ!」


 確かにコチョウの歌を聞いた時は驚いた。

 まるで歌われている世界の中に実際にいるかのような感覚を覚えた。

 芸子であるコチョウをここで働かせる事は今後大きな益になるに違いない。


 ヒラガとストレットは興味なさげだ。


「我が輩は研究さえできればどちらでも良い」


「私はマスターヒラガに従う」


 俺はギンコに向き直り質問した。


「ギンコはコチョウと知り合いだったんだろ? お前はどう考える?」


「我は師匠の考えに従います。ですが我の我がままが許されるのであれば、コチョウをここで働かせてもらえないでしょうか。我ら二人は輪廻周回者。命のことわりを廻る呪いを受けし者」


「ギンコはん!? それを言うたらあきまへんっ!」


「コチョウ。師匠なら大丈夫だ。師匠はその事を知った上で我を弟子にしたのだから」


 え、なんの事だ?

 確かにギンコの称号には輪廻周回者ってあったけど、それがどうしたんだ?

 セルフィナが少し驚いている。


「ギンコさん? あなたが輪廻周回者だというのは本当なのですか? 前にあなたの能力を【鑑定】した時には、そのような称号はありませんでしたけれど」


「輪廻周回者の称号は【鑑定】では見る事はできぬ特殊な称号なのだ。だが師匠はそれを見る事ができ、知った上で我を弟子にしてくださったのです。そうよね師匠?」


 い、いや、俺は輪廻周回者については何も知らないぞ。

 セルフィナも驚く程の称号だったのか?

 実は意味を知らなかったなんて今更言えない雰囲気だ。


「と、当然だろ。お前達が輪廻周回者だろうと何だろうと俺は構わない」


 あ〜つい見栄をはってしまった。

 アウレナ先生、輪廻周回者ってなんですか?


 =====

 ◆輪廻周回者:狐人族に稀に現れる古代呪詛の一種。死んでも記憶を維持したまま再び狐人族として生まれ変わる事ができるが、決まって輪廻周回者と強い結びつきのある者は不幸な境遇にさらされる。その称号は輪廻を百周すると消える。

 =====


 まじか。これ呪いじゃないか。

 つまりギンコやコチョウと仲良くなると俺は不幸になる呪いという事だ。

 知らなかった……。


 知っていたとしてもギンコは雇っていただろうけどな。

 俺呪いなんか怖くないし。

 そもそも俺のシークレットスキルにトラブル体質がある時点で、もう呪いでも何でもいらっしゃいって感じだ。

 ペティが尊敬の眼差しで俺を見つめている。


「やっぱりご主人様はすごいですっ! この世界で有名な三大古代呪詛のひとつを全く気にしないなんて!」


「え? 有名? ま、まあな! 当然だろ!」


 コチョウも驚いているのか目を見開いている。


「旦那様はほんに大物どすな。うちらは今迄数百年と輪廻してきたんやけど、輪廻周回者と聞いて怖がらないお人は初めてどす」


「そ、そんな事は俺にとっては些細な事だ」


 あ〜他の妻達も俺の事を熱い眼差しで見つめてる。

 この世界ではそんなに恐れられている呪いだったのか。

 今更ギンコを遠ざけるつもりは毛頭ないから構わないけどさ。

 もう不幸や問題が起きるのには慣れたし、もし新たな問題が起きたとしてもそれを解決すればいいだけだ。


 皆の意見をまとめてみよう。

 多少の不安はあるがコチョウがここで働く事には賛成のようだな。

 俺もコチョウを手放すのは惜しい。

 問題はコチョウにオウカ暗殺を依頼したというアル・アトラーンの宰相への対処だな。


 まあ、それも問題ないか。

 オウカをアフヨウ依存症にして死の奴隷紋を刻んで操り、その結果俺や妻達の命が何度も危険に曝された。

 近いうちに報復として宰相やその仲間を始末するのは決めてある。


 俺としてもコチョウをこの旅館で雇い入れる事に異論は無い。

 その前にコチョウ自身の意思も確認しておかないとな。


「俺もコチョウをここで雇いたいと思っている。お前はどうしたい?」


「依頼主であるアル・アトラーンの宰相の事もばらしてしもたから、うちはもう何処にも行き場所はおへん。うちを殺そうと刺客が送られて来るのは目に見えとる。ここで働けるんやったらうちからお願いしたいどす」


 ギンコはコチョウの隣に跪き頭を下げる。


「我からもお願いします師匠! 我ら二人は忍びの仕事を請け負いつつ、ずっと真の主を探しておりました。今迄師匠からは多くの事を学ばせていただき、その英知と戦闘力、そして全てを包み込む懐の大きさを持つお方であると確信できました。我らの真の主は師匠以外にはいないでしょう」


「ギンコはんがそこまで言うお人なら間違いあらしまへんね」


「そうか。それなら採用決定だ。これからよろしく頼むぞコチョウ」


「おおきに。よろしゅうお頼み申します。うちの旦那様」


「ああ。こちらこそだ。あ、そうだ、お前の知り合いで他に銀糸を使う忍者を知らないか? イワクラや白虎会の親分を襲った奴が銀糸を使っていたんだが」


「そ、それは本当どすか?」


「ああ、イワクラを殺した忍者は確かにお前と同じ銀糸を操っていた」


「まさか……うちの師匠かもしれへん」


「お前の師匠だって?」


 ギンコも何か知っているようで話に加わってきた。


「もしやビャクレン殿か!?」


「うち、銀糸使いの忍者は他に知りまへん」


 トラキチ親分が襲撃されたのは犯人への手がかりとなる根付を拾ったからだと思っていたけど、俺がその根付を持っていてもビャクレンに襲ってこなかった。

 つまり、トラキチ親分を襲撃したのは俺に根付を渡す為?


 根付を手がかりにイワクラを追いかけオウカが犯人だと気づいたけど、それ自体がその忍者の狙いだったとしたら?

 俺にオウカの罪を暴かせ、あわよくば殺させようとした奴が他にいるんじゃないだろうか。

 俺の考え過ぎだろうか。


 オウカを始末したい奴といえば誰だ?

 思いつくのはこの国を乗っ取ろうとし失敗したディナク率いる反乱軍。

 さらに言うならディナクとも関係がありそうな『堕ち人の宴』。


 飛躍しすぎだろうか。

 証拠は何も無いから考え過ぎなのかもしれない。

 でも何か繋がりがあるような気がする。


 カジを殺されトラキチ親分が瀕死にならなければ、俺はあんなにも早くアフヨウ密輸の犯人であるオウカに辿り着けなかったのも確かだ。

 あの爆発騒ぎで急いで城から逃げてきたけど、後でオウカに銀糸を使う忍者について知らないか話を聞きに行かないとな。


 俺の大事なものに手を出した奴は絶対に許しはしない。

 時間はかかるかもしれないが必ず後悔させてやる。


 今日の朝礼を終わらせた俺は早速アル・アトラーンの宰相への報復計画を練るために総支配人室に入った。




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