変態さんの手記
※ユラリ視点。
俺はアフヨウ事件の真の黒幕であるオウカを睨みつける。
俺達を囲むように突如として黒装束の忍者が五人現れ、今にも襲いかかりそうに殺気立つ。
こいつらはたぶんオウカ直属の護衛だろう。
オウカは俺達を前にしても全く動じた様子はない。
就寝用の薄手の着物を身に着け布団の上に正座しているオウカは、俺から視線を外さずにその忍者達へ一言指示を出す。
「よい。妾の客じゃ」
その一言で五人の忍者は殺気を納め、その場に片膝をついて待機した。
「ユラリよ今何時だと思っておるのじゃ。それに女子の寝所に忍び込むというのも感心せんの」
「ちょっと今の俺は逃亡中で急いでるんだ。それに俺を殺そうとした奴に気を使うなんてまっぴら御免だ」
「何を言っておるのじゃ? ユラリよ。とうとう気でも狂ったのか?」
「俺はまともだがいつまで怒りを抑えていられるか分らない」
「まあ、立ち話もなんじゃから、ゆっくり座って話をせんか?」
俺はオウカから座るように勧められたがそれを無視し、俺の背後に立つペティとファンタに声をかけた。
「もうスキルを止めていいぞ」
「はい。ご主人様……うぅ〜」
ペティがオウカの過去の記憶を見て泣いていた。
「ぺ、ペティ!? あれくらいで泣くだなんて、ううっ……仲居としてはまだまだですわね!」
「そういうファンタちゃんだって泣いてるよ?」
「え? こ、これはアレルギーですわ! 悲しい出来事を見ると涙がでてくる悲しみアレルギーですわ!」
ファンタも泣いていたようだ。
どうしてこの場所にこの二人を連れてきたのかというと、二人にしか使用できないスキルがあったからだ。
そのスキルは【追憶の残滓】といって、ファンタとペティが二人がかりで発動する合成術。
記憶の世界の扉を開くスキルだ。
簡単にいうと対象者の心に強く焼き付けられた記憶を見る事ができる。
それで見た記憶がオウカの母親が亡くなった瞬間というわけだ。
「うえぇぇぇぇぇぇぇん! ピョン子、こういう悲しい話に弱いんです〜、うえぇぇぇぇんえんえんっ!」
オウカの寝所に一瞬で転移するために連れてきたピョン子は、畳に座り込み号泣してしまっている。
「突然現れたのには驚いたのじゃ。妾からの依頼は達成できたのか?」
「いいや。イワクラとかいう男を捕えたまではいいが、犯罪組織の情報を聞き出す前にそいつは殺された」
「そうじゃったか。それは困ったのう」
「困る事は何もない」
「ん? どうしてじゃ?」
「だって黒幕は俺の目の前にいるんだから」
「何を言うておる」
「この国にアフヨウを密輸して売りさばいていたのはイワクラじゃない。お前だオウカ」
「頭でも打ったのかユラリよ。 お主にアフヨウをなんとかしてくれと頼んだのは妾であろう? もしも妾がアフヨウを密輸していたとすれば、どうしてそんな事をお主に頼むのじゃ?」
「その理由は邪魔なイワクラを俺に始末させたかったのと、俺をアフヨウ密輸の犯人に仕立て上げ奉行所の捜査の目を自分から遠ざけるためだ」
「ユラリよ、お主かなり疲れておるのじゃ。旅館に帰って早く休むとよい」
「もっと言うなら犯人にされた俺が獄門で処刑されれば、付加刑として旅館という財産は国に没収される。そうすれば立ち直りつつある旅館を苦もなく自分のものにできるからか?」
「ユラリはなかなか想像力が豊かなのじゃな。そもそも妾がアフヨウ密輸の黒幕というなら証拠がないではないか?」
「証拠ならここにあるぜ」
俺は懐から花の紋様が刻まれた根付と、桃色の表紙に『オウカちゃんの記録』と書かれた冊子を取り出す。
「その根付と冊子がなんじゃというんじゃ?」
「この根付はイワクラがある人に送る為に作らせたものだ」
「ある人とな?」
「それはお前だよ、オウカ」
「しかし妾はそのような根付は知らんな」
「それはおかしいな、先週イワクラがお前に手渡したと、この冊子に書いてあるんだがな」
「なに!?」
「おいおい、知らなかったのか? イワクラは北町では有名なお前の熱狂的な信者なんだぜ? 奴は人や術具などを駆使してお前の行動を逐一観察して追跡し、事細かに記録して愉悦に浸る変態さんだけどな」
「わ、妾の行動がずっと見られていたじゃとっ!?」
俺はその後イワクラのしようとしていた事を説明した。
ストーカーのイワクラがオウカの行動を観察していたある日、奴はオウカがアフヨウの密輸に関わっていると気づく。
そして、密輸を止めさせるために内々にオウカを説得しようと考えた。
お忍びで城の外に出かけたオウカの後を付けたイワクラは、吸血族達が使っていた犯罪組織のアジトを見つけた。
イワクラはアジトに入りオウカの説得を試みたが、その最中にトラキチ親分とカジがやってきた事で、すぐにアジトから逃げ出す事になり説得は中断された。
オウカは慌てて逃げた際に根付を落としてしまったが、逆にそれを利用して俺とリンドウをアフヨウの倉庫まで誘導し、また会って話がしたいと倉庫に呼び出しておいたイワクラにアフヨウ密輸の罪を着せようと考えたんだろう。
どうしてイワクラはすぐに奉行所に訴え出ないで、自分だけでオウカの説得を試みたのかというと、オウカの立場を悪くさせない為だ。
この国の姫であるオウカがアフヨウを密輸していたと世間に知られたら、この国の信用が失墜するだけでなく、この前のように再び反乱が起きるかもしれない大問題になるからな。
「そ、そんな根付は知らぬ」




