表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/184

何から何まで、まあまあだな




 それから俺は露天風呂から上がり、浴衣を着てから自分の部屋に戻った。

 ちょうど部屋の前に到着したとき、客室に夕食を運び終えたペティと出くわした。


「あ、お客様。湯加減はいかがでしたか?」


「ああ、良かったよ。体の芯から暖まった」


「それは良かったです。お食事はすでにお部屋にご用意できておりますので、当旅館自慢の料理をお楽しみくださいね!」


「頂くよ」


 そのとき突然ペティの表情が歪み、痛みに耐えるようにその場にうずくまった。


「うっ!!」


「お、おい、どうした? 具合でも悪いのか?」


 ペティは冷や汗をかきつつ笑顔を浮かべ、ふらつきながら立ち上がる。


「だ、だい、じょうぶ、です。慣れてますから。副支配人に呼ばれているようなので、行きますね」


「いや、大丈夫に見えないぞ。それに呼ばれているってなんでわかるんだよ」


 オウカにもらった通信機能付きの印籠のような道具でもあるのか?

 いや、それはないか。この印籠は貴重なものだとオウカも言っていたし、ただの仲居が持っているのも変だよな。


「そ、それでは失礼、しますね」


「お、おい!」


 ペティは可愛い顔を苦痛に歪めつつ、急いでロビーの方向に走って行った。

 俺は釈然としなかったが、本人が大丈夫だと言う以上何もできない。


 部屋に入ると足付きのお盆が三つ置かれていて、様々な種類の料理が所狭しと並んでいた。

 肉や刺身、天ぷらや煮物など多種多様な料理の香りが、俺の食欲を掻き立てる。


 日本の料理と見た目はそんなに大きな差はないようだな。

 この料理も彼女一人で運んできたんだろうか。

 一人で運ぶにしては多いと思うんだけど。


 仲居として働いているのはペティだけじゃないだろうな。

 明日になれば分るか。

 では、さっそく料理を頂くとしよう。


 俺はそれから料理を一皿ずつ食べ始め全て平らげた。


 料理の味の感想を簡潔に言うと。

 まあまあだ。

 まずくはないが、とびきり旨いわけでもない。

 なんかこの旅館ってそういう中途半端な評価が多い気がするな。


 良くも悪くもない。

 悪い評価よりは幾らかましだが、こういう中途半端な評価は人の記憶に残らないんだよな。

 そういえば旅館の若女将だった死んだ母さんが言っていたな。


『いかに良い印象をお客様の心に残すか。それが接客の第一歩なのよ』


 俺が食事を済ませ部屋の中でくつろいでいると、ペティがやってきて食べ終わった食器を片付けていった。

 見た所具合は悪くないようで安心した。


 その後、食器を片付け終えたペティは再び俺の部屋にやってきて、一人で一生懸命布団を押し入れから出そうとしている。


「俺も手伝うよ」


 俺は一生懸命働くのは嫌だけど、可愛い女の子が苦労してるのを見てるだけっていうのはもっと嫌だ。


「いえっ! お客様にそんな事させられません!」


 ペティが布団を持ち上げたタイミングで俺が声をかけたのがいけなかったのか、彼女は体勢を崩し倒れそうになった。


「あっ!」


 俺は小柄なペティの背後から抱きつくようにして重い布団を支える。


「あ、あの、ありがとう、ございます……」


 俺はペティから布団を取り上げゆっくりと床に置く。


「こちらこそ、一人で俺の世話をしてくれて感謝してるよ」


「い、いえ、わ、私の仕事ですからっ」


 ペティの頬が少し赤くなっているな。

 少しくっついただけで赤くなるなんて愛い奴じゃのう。


 だけど、何でもペティ一人にやらせていて彼女が可哀想に思えてきた。

 いくら経営難とはいえ必要最低限の人員というものはあるだろうに。

 受付にいた副支配人の指示らしいけど問題あるよな。

 というかペティが可哀想。


「おかげさまで布団を無事に敷き終わりました! 手伝わせてしまって申し訳ございません!」


「いいって、気にするなよ」


「本当にありがとうございますっ! よ、良い夢が見れるといいですねっ!」


 かなりの重労働のはずなのにペティはすごく可愛い自然な笑顔を見せる。


「ああ、ありがとう」


 俺も思わず微笑んでしまった。

 俺がこの旅館で一番良いと思ったのは、温泉や料理なんかじゃなく、この娘の献身的な態度と輝く笑顔だな。

 花まるを二つあげよう!


 明日から忙しくなる。

 俺は明日に備えて地下生活で覚えたスキルを使う。


「この日乃光旅館内を俺の物にする! 【縄張り指定テリトリー】!!」


 このスキルは俺が所有している空間を俺のテリトリーにするスキルだ。

 どういう効果なのかは明日の朝になれば分るさ。

 俺はペティが敷いてくれたふかふかの布団に入り、三十年ぶりの心地良い眠りに落ちた。




※※※




※ペティ視点。




 ど、どど、どうしよう!?

 お客様に後ろから抱きつかれて、恥ずかしくなって逃げるように出てきちゃった。


 変な娘だと思われたかな。

 あぅ。

 また失敗しちゃった。

 いつまで経っても私ってダメダメな仲居だな。


 顔がまだ熱いなぁ。

 恥ずかしくて頬が赤くなってるのかも。

 あんなふうに男の人に優しくされるなんて何年ぶりだろう。

 

 それにあの旅人さんと話していると不思議と心が落ち着くのはどうしてかな?

 見た目は若いんだけど、すごく大人びた雰囲気を感じる。


 この世界には見た目で年齢を判別できない人もいっぱいいるから、あの旅人さんも実は私よりずっと年上だったりして。

 そんなことはないか。

 考え過ぎだよね。


 あの人が私の旦那様になったらすごく幸せな毎日が送れそう……。

 

 なっ、何を考えてるんだろ私!

 いつもの妄想癖がでちゃった。

 仕事に集中しないと。


 あの旅人さんは遠くから一人で旅をしてきたようだけど、この日乃光の国以外の国はどういう所なんだろう。

 私もいろんな国を見て廻りたいな。


 あの人に頼んだら連れて行ってもらえるかな?

 ……なんてね。

 そんなことできないのは分ってる。


 だって私はこの旅館から逃げることはできないから……。


 確かあの旅人さんは一日だけの宿泊。

 明日の朝は元気よく挨拶してあげよう。

 そして気持ちよく旅立ってもらおう。

 うん、そうしたら喜んでくれるよね、きっと。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ