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彼女が出した答え

 



 俺が黒幕の正体に気付いた日の深夜。

 牢の中で横になっていると物音がした。

 そして少ししてからリンドウが小さな声で俺を呼ぶ。


「ユラリ殿、起きているでござるか?」


「え、リンドウか? どうしたこんな夜更けに」


「某、ユラリ殿を助けにきたでござるよ」


「俺を助けに?」


「そうでござる。このままではユラリ殿が冤罪で処刑されてしまうでござる」


 そう言いながらリンドウは鍵束から鍵を一つ選び取り俺の牢の扉を開いた。

 続けて手錠や足枷も順々に外していく。


 西町奉行所同心のリンドウがどうして牢の鍵を持っているんだろうかと俺は彼女に聞いた。


「牢番を気絶させ奪ったでござる」


「は!?」


「枷は全て外れたので逃げるでござるよ!」


「え? リンドウ。お前自分が何をしているのか分っているんだよな?」


「当然でござる。某はユラリ殿の脱獄に手を貸しているでござる」


「こんな事していいのかよ」


「それは心配ないでござる。門衛と牢番に某の姿は見られていないでござる」


「いや、そういう問題じゃなくてだな。お前はこの国の法を守る立場だろ?」


「ユラリ殿。まずはここを抜け出し旅館に向かう途中で話すでござる」


「あ、ああ」


 俺は牢から出てリンドウと手を繋いでから【気配遮断】と【無音行動】の状態で牢屋敷を抜け出した。

 見張りに立っていた牢番や門衛は全員気絶させられていて地面に倒れていた。

 これを姿を見られずにやったというならかなりの腕前だな。


 深夜ではあるが俺達は人目を避けるため細い路地を選んで東町から西町に走り、そのまま旅館へ続く街道を進んだ。

 空には三つの月が昇っていて街道を優しく照らしてくれている。


 俺達は役人達が追ってきていないのを確認してから走るのを止めた。

 そして俺は歩きながらどうしてこんな事をしたのかをリンドウに聞いた。


「それで?」


 リンドウは苦笑いを浮かべてから話し始めた。


「某はユラリ殿からヒーローの話を聞いてから、真の正義とは何かをずっと考えていたでござるよ」


 街道の先を見ながら歩くリンドウの横顔には前のような迷いを感じない。

 どこかすっきりとした決意に満ちた顔だ。


「それで出た結論というのは弱き者を助け悪を倒す事。これは前から変わらぬでござるがそれに加えて常識にとらわれず、自分の正義が正しいと信じ抜く強さが必要だと気付いたでござる」


 自分の正義を信じ抜く強さか。

 リンドウらしい真っすぐな考え方だな。


「例えカンザキに敗れ、この国の法を破りユラリ殿を脱獄させようが、それは某の正義が敗北したという事ではない。自分の正義を死ぬまで信じ抜けない事こそが、本当の敗北だと気付いたのでござる」


 確かに人によって正義の表し方や考え方は変わる。

 リンドウの考えと正反対の事を正義だと主張する奴らもいるだろう。

 結局のところ本当の正義とは自分の中にしか答えは無いんだ。


 自分の考える正義が正しいと信じ続ける限り、倒されてもその信念が砕けぬ限り、それは自分の中で存在し続ける。

 それが真の正義と言えるのかもしれない。


「そうか。俺もそれには同感だ」


「某はこの国の法を破ったが後悔はしておらぬ。逆に清々しい気持ちでござる」


「お前は本当に見つけたんだな。自分の正義を」


「そうでござる。それもこれもユラリ殿が落ち込んでいた某を見限らず、励まし続けてくれたからでござるよ」


「見限るなんて考えもしなかった。俺はお前をずっと応援したい」


 自分の信念を貫き通せずに周囲の圧力に屈して生きる者が多いこの世界で、リンドウのような真っすぐで強い信念を持ち、人の役に立とうと自らの命も顧みない奴はまさにヒーローだ。


 そんな奴を失うわけにはいかない。

 だって俺、ヒーロー大好きだし。

 だってこいつ、ござるキャラだし。


 こいつの名前にもなっている竜胆りんどうという花は寿命が長く、秋から冬に季節が移り変わってから何日も元気に咲いている。

 初冬の枯れ草が茶色になり始めた頃の低山で、青い花を咲かせ続ける竜胆りんどうは山で咲く一年で最後の大きな花なんだ。


 彼女の生き方も、周囲の環境が厳しくとも咲き続け、しぶとく最後まで諦めない竜胆りんどうのようであって欲しい。


「そう言ってくれるユラリ殿は本当に強く優しい男でござるな」


 リンドウは俺のすぐ隣で頬を赤らめながら微笑んだ。

 俺は月光によって照らされた彼女の笑顔に一瞬見とれてしまう。


「ん? ユラリ殿? 某の顔に何か付いているでござるか?」


「いや、お前の笑顔が綺麗だと思ってな」


「え!? そ、某の笑顔がっ!?」


 遠くに旅館の建物と明かりが見えてきた。


「お、旅館はもうすぐだ」


「あ、そ、そうでござるな、は、ははは」


 リンドウはさらに顔を赤くして俯いてしまった。

 ちょっと褒めただけなのにそれが恥ずかしいようだ。

 小さい頃から男と接してないから免疫が無いのかもな。


 だけど必要が無くなったのにも関わらず、ずっと俺と手を繋いでいるままなのは気が付いているのだろうか。

 まあ言わなくても良いか。


 今はこれからどうするかを決めないといけない。

 とはいえ選択肢は一つしかないんだけどな。

 役人達が俺を捜しにくる前に黒幕を捕らえて奉行所に突き出してやる。


 相手が相手だけに油断はできない。

 一つ間違えば俺でもただじゃすまないだろう。

 この先どうなるか分らないけど、妻達や従業員達や旅館は何が何でも守らないといけない。


 決意を新たにした俺は旅館の前に到着した。




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