正面から突入
「そうでござるな。あんな人数を某達二人で捕らえられるでござろうか」
「まあ、なんとかなるだろ。マコト。ここまで助かったよ。ありがとな」
「いえいえ、ぼくの方こそ我がままを言ったようですみませんでした。じゃあぼくは帰りますね。荒事は専門外なんで」
「ああ、気をつけてな」
マコトは走って旅館に帰っていった。
それからまもなくして豪華な駕籠が二人の使用人に担がれ、イワクラ家の屋敷から外へ出てきた。
駕籠とは人を乗せて人力で運ぶ乗り物のことで、人が座る部分を一本の棒に吊し、複数人で棒を前後から担いで運ぶものだ。
駕籠の中でも公家や武家が乗るような、装飾が施されて引き戸が付いている高級なものは乗物と呼ばれている。
屋敷から出て来たのはまさにその乗物だった。
駕籠を担いでいるのとは別の使用人も屋敷から数人出て来て、頭を下げて見送りをしている。
あの駕籠にイワクラが乗っているんだろう。
ほっかむりの男達は駕籠を先導しているようだ。
緊張した様子で周囲に目を配り隙の無い動きをしている。
もしかしてイワクラの護衛をしているのかもしれない。
どこに向かうのかは分らないが俺達も気付かれないように後を追う。
こういう場面では【気配遮断】と【無音行動】のスキルが有効だ。
スキルの効果範囲をリンドウにも広げるため彼女と手を繋ぐ。
この状態のままほっかむりの男達から一定距離を維持しつつ追跡する。
「手を繋ぐ事でスキルの効果範囲が拡大するとは目から鱗でござるよ」
「ああ、それはだな。もし手に鈴を持っている奴が【無音行動】スキルを使ったらどうなると思う?」
「それは簡単でござる。鈴の音は聞こえなくなるでござる」
「その通りだ。つまり手を繋ぐというのはそれと同じ事なんだ。スキル使用者の持つ鈴の音が聞こえなくなるなら、スキル使用者と手を繋ぐ者の出す音も消えるという仕組みらしい」
「ああ、なるほど、得心いった。……そ、それにしても男性と手を繋ぐのは初めてなので少し緊張するでござるよ」
リンドウの頬は赤みを帯びている。
手を繋いだくらいで恥ずかしいのか。
普段は凛々しい雰囲気だけど結構ウブなんだな。
「そうなのか? 小さい時とか男の子と一緒に遊んだりしただろ? その時に手を繋いだりしなかったのか?」
「それが、某はなぜか他の子供達とは一度も遊ばせてもらえなかったでござる。執事のガルグユに理由を聞いてもはぐらかされるばかりで……」
「さすがに父親とは手を繋いだことがあるだろ」
「ガルグユの話では、某が産まれてすぐに両親とも事故で亡くなったという話なので、両親の手を繋ぐどころか顔も覚えていないのでござる」
「あ、すまない。立ち入った事を聞いたな」
「構わぬでござる。両親と過ごした記憶がないので悲しくはないでござるよ」
なんだかリンドウも苦労しているんだな。
でもあの六人の使用人達が一緒なら寂しくはないか。
「話は変わるんだけどさリンドウ。もし吸血族の男達が俺を殺そうとして襲いかかってきたらの話しなんだけど」
「うむ。そういう相手に手加減していては自分の命が危ないでごさる。正当防衛で相手を殺すのは仕方の無い事でござるよ」
「それを聞いて安心したよ。この国の法律では正当防衛が認められるのか確認したかったんだ」
「もちろん大丈夫でござるよ。しかし、首謀者はできるだけ生かして欲しいでござる。この国で活動しているのは犯罪組織の氷山の一角。捕らえて情報を引き出さねばトカゲの尻尾切りになってしまうのでござる」
「わかったよ」
駕籠は東町の港の近くにある倉庫街へと入り、ある木造の倉庫の前で停止した。
その倉庫の入り口には吸血族の男が四人も見張りとして立っている。
駕籠の中から降りてきたのは上等な着物を着た五十代の男だった。
あいつがイワクラだな。
イワクラはほっかむりの男達と倉庫の中へと入って行った。
ただの倉庫にしては警備が厳重すぎる。
ここが犯罪組織の奴らのアジトで間違いないだろう。
あとは証拠であるアフヨウを見つけてイワクラを捕らえるだけだ。
「リンドウ。俺はイワクラと吸血族の奴らの相手をする。俺がなるべく派手に暴れて敵の注意を引きつけている隙に、お前はアフヨウの現物を見つけ出せ」
「承知したでござる!」
俺は敵の注意を引きつける為に一人で倉庫の入り口に近づく。
倉庫の建物の大きさは体育館よりも少し小さいくらいか。
「む? お前は何者だ?」
俺はその吸血族の見張り達には応えず【遅延】を四回連続で使用した。
その動かなくなった男達の横を抜けて倉庫の扉を蹴破って中に入る。
倉庫の中は木箱が山積みに積んであった。
中にいた六人の吸血族の男達は反射的に武器を鞘から抜き放ち構える。
こいつらが持っている武器は刀身が曲線を描いている細身の片刃刀、シャムシールという刀だ。
「な、何者だ!?」
「俺の縄張りを荒らしたやつらはお前達か?」




