根城を突き止めた
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午後二時二十一分
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俺達はマコトの案内で北町にある職人組合の屋敷に入り、トラキチ親分から託された根付の制作者の情報を聞いた。
マコトが質問するとその職人組合の受付の男はすぐに答えてくれた。
「あ〜この根付はギスケさんの仕事だね」
「どうして分るんですか?」
「ほら、見え辛いだろうけど、ここに名が掘られてるだろ?」
「あ、ほんとですね」
「こういう業物を作れる職人はこの都でも限られているからね。ギスケさんに何か用なの?」
「そうなんです。ちょっと頼み事があって」
「彫り物の依頼かい? 無理無理。向こう一年は予約でいっぱいって話だよ、諦めるんだね」
「い、いや、それでも頼もうかと……」
「そうかい。まあいいけどさ。ギスケさんは北町の紫陽花長屋という所に住んでるよ」
「ありがとうございます。それならぼく場所を知ってますよ」
俺達はその長屋に向かった。
その長屋の周辺には綺麗な紫陽花が多く咲いて、彫り師ギスケという表札もすぐに見つける事ができた。
「ごめんください! ギスケさんいますか?」
すると引き戸が少しだけ開き中から無精髭の男が顔を出した。
「あ? 俺がギスケだ。なにか用か?」
「すみませんちょっと聞きたい事があって」
「なんだ?」
「この根付、誰に依頼されて彫ったのか教えてくれませんか?」
「これは……確かに俺の彫った根付だ」
「だったら」
「こっちも仕事なんでな依頼人の事は教えられねえ。帰ってくれ」
ギスケは引き戸を閉めてしまう。
俺は力づくで言わせようかと、戸に近づこうと歩み出た。
するとマコトに止められた。
「お兄さん。ここはぼくに任せてもらえませんか?」
「え、大丈夫か? なんだか職人気質で頑固そうだったぞ?」
「大丈夫ですよ。日乃光旅館の宣伝担当を舐めないでくださいよ」
マコトは再びギスケに声をかけた。
「ギスケさ〜ん。もしも教えてくれたら。歌舞伎の舞台裏なんかを案内したり、歌舞伎役者に知り合いがいるんで紹介してあげてもいいですよ〜。もしくは特別観覧席の券なんかを差し上げますけど〜」
マコトがそう言った直後に引き戸が勢い良く全開に開かれ、両目を見開いたギスケがマコトに縋るように跪く。
「そ、そそそ、それは本当かっ!?」
「ええ、もちろんですよ。その証拠にほら」
マコトは懐から短冊型の紙切れを取り出しギスケの顔の前でひらひらと揺らして見せた。
「お、おおっ!! それはまさしく歌舞伎役者の関係者にしか配られないという特別観覧席の券ではないかっ!」
「信じてもらえました?」
「ああ! 間違いないようだな。わかった! なんでも教える!」
俺はさっきとは打って変わったギスケの態度に呆気にとられていた。
どうしてこんなに豹変したんだ?
「この根付はイワクラ家に頼まれたものだ」
「イワクラ家? 大陸との貿易を取り仕切る貿易奉行のイワクラ家ですか?」
「そうだ。そのイワクラ家の使用人が俺のところに来て、根付を作って欲しいと言ってきた。何でも身分の高い人への贈り物なんだと」
貿易奉行のイワクラ家か。
貿易を取り仕切る立場にあるという事はアフヨウを大陸から密輸して、その事実を隠蔽できるかもしれない。
そのイワクラが大陸の犯罪組織と裏で手を組んでいる可能性は高いな。
「なるほど。わかりました。情報提供に感謝します」
マコトがギスケに紙切れを渡すとギスケは目に涙をためて喜ぶ。
俺達は紫陽花長屋を出てそのイワクラ家の屋敷へ向かう。
「なあマコト。どうしてギスケが歌舞伎に興味があるとわかったんだ?」
「それはですね。始めに引き戸が少し開いた時に中を覗いたら、壁に役者絵が沢山張ってあるのが見えたんです」
「ああ、それでか」
役者絵とは歌舞伎役者や舞台そのもの、|書割(書き割り)と呼ばれる舞台背景の絵柄、大道具や小道具、歌舞伎を楽しむ人々などを描いた浮世絵の事だ。
「はい。ギスケさんはかなりの歌舞伎好きとふんで、前に知り合いからもらった歌舞伎の特別席券を餌にしたというわけです」
「さすがはマコトだな。あの一瞬でそれに気付くなんて。俺なんて頑固そうなおやじとしか思わなかったよ」
「いや〜それほどでもありますけどね〜」
「あとはイワクラ家の屋敷の場所だな。それは知っているのか?」
「ええ知ってます。ここ北町では有名な家ですよ」
何で有名なんだろ。
まあいいか。
「それじゃあそこまでは案内してくれ。そこからは俺達の出番だ」
俺達は屋敷の近くまで来たとき、門前に明らかに武士ではないほっかむりをした町人風の男達が六人集まっていた。
物陰に隠れて様子を伺う。
その男達の目は赤い色で肌は青白い。
アフヨウの売人の特徴と一致している。
「間違いないようだな。アフヨウの売人とイワクラ家には、何らかの繋がりがあるようだ」




