現場復帰
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午前十一時五分
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俺は西町奉行所の門前に到着した。
そして門衛に印籠を見せて事情を説明し敷地内へ入る。
前にオボロが壊した屋敷の修繕はまだ終わっていないようだ。
数人の大工達が足場を組んで作業していた。
マコトから聞いた話だと蛙奉行が殺された後に、すぐに変わりの奉行が就任したらしいから引き継ぎも既に済んでいることだろう。
俺は奉行所の受け付けに向かうとちょうどマコトが奉行所から出てきた。
「あれ? マコトじゃないか。ここで何やってるんだ?」
「あ、お兄さんじゃないですか。ぼくは情報を売りに来てたんです」
「情報を売りに?」
「そうですよ。犯人逮捕に繋がる情報なんかは高く売れるんですよ。ぼくはこれでも顔が広いですから、いろんな情報が舞い込んで来るんですよ」
「へぇ〜そうなのか。てっきりお前が禁断を連発しすぎて公然わいせつ罪で捕らえられたのかと思った」
「うっ……本当にありそうで反論できないです」
「それで? どんな情報を売ってきたんだ?」
「まあ、お兄さんなら教えてもいいですかね。えっとですね、最近出回っているアフヨウの売人の出没する場所とその外見の特徴ですかね」
おっと、さっそく手がかりの情報が手に入ったようだ。
「その話を詳しく聞かせてくれないか?」
「え? お兄さんアフヨウを吸いたいんですか?」
「お、おいおい、奉行所の敷地のど真ん中で人聞きの悪い事を言うなよ。そんなわけないだろ?」
「というと、いつものパターンですか?」
「そうだ。俺はいつも旅館の発展のために動いている」
「本当にお兄さんて働き者ですよね」
「俺としては働きたくないから働いているんだけどな」
「なんだか難しい事を言いますね。分りました、教えましょう。売人がいる場所は東町の裏通りで、深夜に姿を現しアフヨウを売ってくれるんだそうです。外見の特徴は色白で犬歯が鋭く目が薄ら赤く光っているらしいです」
「なんだそいつ。人族じゃないのか?」
「ぼくの知る限りだと大陸の所々に自治領を持つ吸血族の特徴ですね」
「吸血族?」
「はい。吸血族っていっても今は血を吸わない種族です。彼らにとっては人の血液は極上の快楽を得られる麻薬のようなものらしいんで、どの国の法律でも吸血族が血を吸うのは禁止されているんです」
「そいつらがこの国にアフヨウを持ち込んでいるというのか?」
「いやあボクは噂を聞いただけなので、そこまではわかりませんよ」
「そうだよな。参考になったよ、ありがとな」
「あっ閃きました! 大陸から渡って来た禁断の媚薬は熟れた女の肉体をさらに濡らしていく。その甘く淫らな芳香は雄の自制心を狂わせ、古代種の一つとされる吸血族の男達が禁断の果実にしゃぶりつくのだった!」
久しぶりにマコトの禁断を聞いた気がするな。
場所を選ばずエロい見出し文を叫ぶのは変わってないようだ。
「あ、向こうで男の同心がお前の事を睨んでるぞ」
「え!? じ、じゃあお兄さん、ぼくは仕事があるので失礼しま〜す!」
マコトは凄い早さで逃げて行った。
あいつ逃げ足も速いのな。
俺は奉行所の受け付けの人に事情を説明した。
するとそのまま屋敷の中に通され座敷で座って待っていると、後ろから声をかけられる。
「ユラリ殿ではござらぬか」
振り向くとそこにはリンドウが立っていた。
彼女の顔色は良く笑顔にもなっていて元気そうだ。
たまにリンドウの見舞いに行っていたから、彼女が少しずつ回復していく様子は見ていたけど、もう仕事を始めているというのは知らなかった。
「仕事に復帰したんだなリンドウ。元気そうでなによりだ。戦の前にお見舞いに行ったのが最後だな」
「そうでござるな。つい先日復帰することにしたでござるよ。これもユラリ殿が某を気遣い何度もお見舞いに来てくれておかげでござる」
「それは言い過ぎだよ。お前の顔を見に行ってただけだからな。俺よりもお前の世話をしてくれている使用人達のおかげだろ」
「それはもちろんでござる。彼らはいつも某を就けてくれる家族のような者達でござるからな。ユラリ殿には精神面で強められたのでござるよ。本当に感謝してもしたりないでござる」
リンドウは俺の前で正座し両手を畳みにつけて頭を下げた。
「ほんとに俺は何もしてないって。頭をあげてくれ」
リンドウは少しの間頭を下げていたが、俺の左腕に気付いたようで頭をあげると質問してきた。
「その左腕はどうしたのでござるか?」
「ああこれか。家族と旅館を守るためにちょっとな」
「ユラリ殿が怪我とは」
「いいや。怪我じゃなくてもう動かせないんだ」
「な、なんと、そんな事になっていたとは……」
「右腕は使えるからそんなに不自由はしてないよ。大丈夫さ」
「そうでござるか……某にできる事があれば遠慮なく言って欲しいでござる」
「ああ。ありがとな」
「……して、そのような状態であるのに、ユラリ殿はどうして西町奉行所に?」
「ああ、それはアフヨウを売っている犯罪組織について、何か情報がないかと思って来てみたんだ。オウカに奉行所と協力してくれと言われている」
「おお、オウカ姫から推薦された協力者とはユラリ殿の事であったか。今回のアフヨウ取り締まりの責任者は某なのでござる」
「お前が? もう身体を動かしても大丈夫なのか?」
「大丈夫でござる。長く臥せっていて鈍った身体も鍛え直して元通りでござる。ユラリ殿と共に仕事ができて某は嬉しいでござるよ」
「そうか。俺もお前が元気になって本当に嬉しいよ」
俺達はアフヨウについて現時点で分っている事を話し合いまとめてみた。
一つ目、アフヨウの売人は深夜の東町裏通りに出没する。
二つ目、その売人は大陸の一種族である吸血族。
三つ目、アフヨウは大陸からの貿易船で運ばれてくると予想されているが、巧妙に隠されていて入港時の検問で見つけられないらしい。
四つ目、この国に入って来たアフヨウは今まで知られていたものよりも純度がかなり高いらしい。
五つ目、すでにアフヨウによって何百人という人達が中毒となり、死人が出たり暴力事件等の問題が起き始めている。
こんなところか。
「ユラリ殿。何から始めるのがよいでござろうか?」
「そりゃあ売人取っ捕まえて組織の情報をはかせて、その組織の幹部どもをボコって捕らえるのが一番早いだろ」
「そうでござるな。どのくらいの人員が必要でござるか? 通常は凶悪犯を捕らえる場合は二十人以上で包囲して逃げ場を無くし捕らえるのでござる」
「え? 俺とリンドウだけでよくないか?」
「某とユラリ殿だけでござるか?」
「ああ。あまり大勢で向かうと感づかれて逃げられるし、吸血族が攻撃的なやつだったら犠牲者も増えるだろ?」
「それはそうでござるが……大丈夫でござろうか?」
「カンザキのような化け物でない限り大丈夫だろ」
「承知した。某はユラリ殿の力を信じているでござる。何とかなるでござろう。それに実は今この捜査にはあまり人員を割けないのでござる」
「どうしてだ?」
「理由は分らぬが、昨日からヤクザ者達の動きが活発になっいて、何かよからぬ事を起こすかもしれないと、奉行所の役人が総動員され昼夜を問わず町の見回りを強化しているのでござるよ」
ヤクザ者が活発に?
東江の都の裏社会に何かが起きているのか?
今回のアフヨウの件と関係がありそうだし、白虎会のトラキチ親分に話を聞きにいく必要がありそうだな。
「そうかわかったよ。なあリンドウ。売人を捕らえに行く前にちょっと寄り道したいんだが?」
「構わないでござるが、一体何処へ?」
「ちょっとお前にはあまり縁がないところだ」
「承知した。いく前に某はアフヨウの検査術具を借りて来るでござる」
そして俺とリンドウは西町奉行所を出てある場所へ向かった。




