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招かれざる者達

 



=====

 地上生活、百八十五日目。

 午前十時十二分

=====


 今日も俺は旅館内をニゲレナの転移を有効活用して、工事の進捗状況を見て回っていた。

 すると普通の人間には見えない小さな霊体の魔物をよく見かけた。


 この旅館の総支配人になった頃からたまに見かけてはいたけど、無害そうだから今まで放っておいたんだ。

 それがいけなかったのか、座敷童の女の子がペティの部屋に住み着いた頃から急に増えてきたような気がする。


 そのとき隣にいたニゲレナが俺の顔を覗き込んだ。


「どうしたの〜ユラ子ちゃん? そんな難しい顔して〜」


「いや、ちょっと最近霊体の魔物が増えたなと思ってな」


「あ〜そいえば沢山いるね〜」


「え、お前も見えるのか?」


「うん、見えるよ〜。だってピョン子だから」


「答えになってないんだけど」


「だから〜ピョン子はホムンクルスだから」


「霊体を見る事ができるのとどう関係してるんだ?」


「研究所の人達が言ってたんだけど〜、ホムンクルスって色々混ざってるらしいからだよ〜」


「混ざってる?」


「ピョン子は詳しくないけど、人間とか魔物とかいろいろ〜」


 ホムンクルスには詳しくないけど、キメラのように様々な生き物を組み合わせて作られているんだろうか。

 そんな事って本当に可能なのか?


「ユラ子ちゃんも見えるって事は〜ホムンクルスなの?」


「いや、俺は違う。俺も良く知らないが魔物のスフィアを使った影響で見えるようになったらしい」


「へぇ〜そうなんだ〜。ピョン子よく分かんな〜い」


 まあこいつに話しても分らないだろうとは思っていた。

 実際どうしてそうなるのかは俺でも詳しく説明できないからな。


 こういう魔物系の知識はツクモに聞けば教えてくれそうだ。

 ちょっとツクモに【念話】を送ってここまできてもらおうか。

 俺はツクモの姿をイメージして【念話】を送った。


『あ〜ツクモ。もし聞こえた今から遊技場まで来てくれないか?』


 ツクモは【念話】スキルをもってないから受信だけしかできない。

 呼び出すときはいつもこうやって伝えている。

 すると数分後壁をすり抜けてツクモが現れた。


「呼んだでふか?」


「どうして旅館内に霊体の魔物が増えてきてるのか知らないか?」


「そんな事でふか。それは座敷童をこの旅館に住み着かせたのが原因でふね」


「やはりか」


「座敷童はそれ自体は小さな女の子でふけど、魔物の中ではかなり力のある部類なんでふ。そんなのがこの旅館に影響を及ぼしていたら、魔物にとって住み易い環境になるのは当然でふよ」


「あの子そんなに大物だったのかよ。俺も何度か話してみたけどただの恥ずかしがり屋の女の子だったぞ」


「人の常識と魔物の常識を一緒にするなでふ。見た目や性格が普通の女の子でも存在するだけで周囲にものすごい影響を与える魔物なんでふよ」


 そういえばファンタもそんな事言っていたな。


「ペティには感謝したほうがいいでふよ。一つ間違えばこの旅館は不運に見舞われ続けて廃墟になるところだたんでふからね」


 確かにそうならなかったのは、ペティが親身になって座敷童に親切な対応をしたからだ。


 存在するだけで強い影響を与える魔物か。

 ただ単に戦う力が強い魔物よりも数倍厄介だな。


 そんなのがこの旅館を気に入って居着いているから、他の魔物達もここを居心地が良いと感じて集まるのか。


「なあツクモ。霊体の魔物が旅館に集まる理由はわかったけど、こいつらってこの辺に元からいた奴らなのか?」


「それはぶーも不思議に思っているでふよ。大きさは小さいでふけど、普通はこんなにいろんな形の霊体を一カ所で見る事は無いでふね」


「あ、もしかして人に危害を加えるような奴もいるのか?」


「可能性はあるでふ。それが魔物ってやつでふよ。ちなみにブーは無害どころか超役に立つ高位の、高〜位の、さらにもう一回言うでふ、高〜〜〜位の魔物でふから金貨をじゃんじゃん捧げるでふよ」


「あ〜、はいはい」


 こいつの事は放っておいて有害な魔物の対策を速いうちに考えないと。

 そうなると警備の事ならイナンナに相談か。


 俺はツクモにお礼を言ってから、湖に浮べている空船の操舵室へとピョン子と転移した。

 俺達が転移した操舵室ではちょうどイナンナとバンジー、それからダイヴがいて何やら話し合っていた。


「ん? どうしたんだお前達。何か困った事でも起きたのか?」


 イナンナが俺に気づき少し微笑む。


「あ、ユラリちょうどいいところにきた」


 バンジーが高笑いする。


「ふぉははははははっ! 少年よ、ちょっと困った事になっているのだ!」


 ダイヴが落ちついた口調でその困った事を説明してくれた。


「総支配人のユラリさん。実はうちの船長がやらかしてしまいまして」


「やらかした?」


 なんか嫌な予感がする。


「はい。船長が転移装置の実験を失敗をしてしまい。小さい穴ですが霊界と繋がってしまったのです」


「え……?」


「ぬははははははっ! 転移装置開発は生前やり残した研究の一つなのだ! 俺様の洞窟に入ったのなら分るだろうが、短距離の転移装置を作ることには成功している。次は異世界へと繋がる異世界転移装置を研究していたのだ!」


「お前が転移装置の研究をしているのは分ったけど、そんな事よりも穴が開いたってどういう事だ?」


「転送装置の研究をそんな事とは、ロマン成分が足りていない少年だな。むははははははっ!」


「船長……いいから総支配人さんに説明をお願いします」


「む? おおそうか分っているぞ! つまりだな実験に失敗して霊界と繋がり霊体の魔物が次々に出てきているのだ! おははははははっ!」


「ええっ!? ちょ、ちょっとそれって笑い事じゃないんじゃ!?」


「だから今どうしようか考えていたところ。ユラリも穴を塞ぐいい方法を考えてほしい」


「い、いや、俺だってそんなの分らないぞ」


 もしかしなくても、旅館で霊体の魔物が急に増えた原因はこいつか!?

 バンジーが開けた穴から奴らが出て来て、居心地の良い旅館に住み着き始めているって事だよな。


「お? これはピョン子の出番ですか〜?」


 ニゲレナは得意げな顔で言っている。


「え、お前がなんとかできるのか?」


「その穴って転移の装置? でできちゃったんですよね? だったら〜ピョン子にお任せ〜!」


 ニゲレナが自信満々に言うので任せてみることにした。

 俺達はその霊界とやらに繋がった穴の位置へ向かった。

 そこは元々貨物室でバンジーが勝手に自分の研究室にしていたらしい。


 そういえばバンジーの航海日誌にも転送装置の事が書いてあったな。

 それも日本語で。

 こいつは元々日本から来た異者ことものなんだろうな。


 まあ、この世界じゃ人族の異者ことものもそれなりにいるらしいから、こいつが日本から来ていたとしても驚く事でもないか。


 というかヒラガも研究熱心で戦の時に避難をしてなかったな。

 俺の親父やバンジーやヒラガも、どうしてこう研究者ってやつは変わり者ばかりなんだよ。


 俺達は空船の最下層に降りて貨物室の扉の近くまでやってきた。

 すると貨物室のから出てきたと思われる、小さな霊体の魔物達が壁をすり抜けて溢れ出していた。


「うわっ! すごい数だな。なあイナンナ。こいつらって悪さしないのか?」


「空いた穴が小さくて、力が弱く負の感情がほとんど無いのばかりだから悪さはしないと思う。ごめんユラリ。イナンナがバンジーの事をよく見ていなかったからこんな事に……」


「気にするなよ。バンジーが悪いんだろ?」


「いははははははっ! どうだ恐れ入ったか!」


「船長。ここは謝るところです。今すぐ土下座して下さい」


「俺様が土下座するのは美女の前だけだ! それが船長というものだ!」


「綺麗な人を見ると手当り次第に土下座して求婚するの止めてくださいね。近くにいる私も船長と同じ変態だと思われるので」


 俺はバンジーとダイヴの漫才に苦笑しながら貨物室の扉を開けた。


 するとそれなりに広い空間に木箱や樽が幾つか置いてあり、貨物室の空中にバスケットボール程の穴が空いていた。

 そこから現在進行形で半透明の霊体さん達が元気よく飛び出していた。


「うわ〜、本当にあったよ穴が……。ニゲレナ。お前に任せても大丈夫か?」


「お任せ〜!」


 ニゲレナは穴の側に近づき、その穴に手を触れた。


「その瞬きは脱兎だっとの如し……【兎飛び】」


 気がつくとニゲレナは俺の右隣に転移していた。


「これでいいと思うよ〜」


「え? もう終わり?」


 俺は貨物室の空中を見た。

 すると驚いた事に空間に空いていた穴が無くなっていた。


「あれ? 穴が無くなってる。え? 今何かしたのか?」


「ピョン子は〜空いた穴の近くで転移しただけ〜」


「それだけで?」


「う〜ん、難しい事はわからないけど〜。穴が空いたって事は扉が開きっぱなしと同じなの。だからピョン子が穴の近くで転移することで、転移の扉をちゃんと開いてから、ちゃんと閉じたってこと〜。わかった?」


 なるほどな。

 つまりはバンジーの実験失敗で開きっぱなしになった転移ゲートを、ニゲレナが転移を正常に完了することで閉じる事ができたのか。


 案外簡単に穴が塞がったな。

 霊界と繋がったっていうからもっと大変な事になると思っていた。


「だからさ〜ユラ子ちゃん……はぁ、はぁ」


「わ、わかってるよ。キャロットプリンも食べさせろって言うんだろ?」


「え!? い、いいの〜!? いいの〜!? 」


「ち、近い! お前、顔近いから、ちょっと離れろ!」


 それくらいはご褒美として与えてもいいだろ。

 実際に活躍したしな。


「むむ? 少年よ俺様には何もくれないのか?」


「お前は溢れ出た霊体でも食ってろ……」


 こうして一先ずの騒動は解決した。

 しかし、すでに出てきてしまった霊体達をどうするかが問題だ。


 後でツクモにパックンチョしてもらおうかな。

 普通の人には奴らの姿が見えないとはいえ俺には薄らと見えるから、旅館に集まっているというのは気分のいいものではない。


「くははははははっ! 問題が解決したという事は実験を再開できるという事だな! 良くやったぞ兎の少女よ!」


「船長。イナンナさんが睨んでます」


「え、ま、まじなのか?」


「あれはまじですね」


 イナンナは術を発動した。


「砕けぬ意思を宿した死者の骨にて、この者を禁足せよ。【硬甲殻骨牢こうこうかくこつろう】」


 その詠唱とほぼ同時に骨でできた牢獄が出現しバンジーを閉じ込めた。


「バンジーはしばらくそこから出さない。ユラリに迷惑かけた罰」


「お、俺様にかかればこのような牢獄など」


「この【骨牢】はユラリのスキル【硬甲殻】で強化されてる。壊すのは無理」


「船長。良い機会ですからしばらくその中で反省してください」


「え、あの、え? 俺様の研究は?」


 これで少しは反省してくれればいいけど。

 俺達はバンジーを貨物室に残して操舵室に戻った。


「お、俺様は諦めないぞ! いつか異世界の空を翔るまではなっ! でははははははははははははははは〜っ!」


 誰もいなくなった貨物室で、バンジーの高笑いだけが虚しく響くのであった。


 


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