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モミジの新作デザート

 



 あ、そうか、こいつ兎の獣人だもんな。

 兎は人参が好きだもんな。

 有名なピーターさんも大好物だし。

 マコトがおかかを好きなのと一緒か。


 こいつを隷属させた時に確認したステータスはこれだ。


=====

 ◆ニゲレナ・ラブイット

 種族:ホムンクルス  性別:女性  年齢:5  職業:特殊兵

 LV:12 HP:780 MP:800 SP:4890

 物理攻撃力:310 物理防御力:340 敏捷力:230

 術効力:300  術抵抗力:390  幸運:110

 アクティブスキル:転移3、念話1、爪撃3、聴覚強化8

 パッシブスキル:命令厳守、爪術3、気配遮断1、消音行動2、気配感知10

 称号:ユラリに隷属する者、作られし者、五番試験管育成者、超人参好き

=====


 このステータスの内容を診る限り、戦闘タイプではなく転移を生かした偵察や情報収集役だろう。

 SPが異常に高いのは転移を使う為だろうな。


「お前【念話】を使えたよな?」


「スキルレベルは低いからあまり届かないけど〜、使えるよ〜」


「だったら俺が呼び出すまでこの旅館内に限り自由にしていい。お前もホムンクルスとはいえ年頃の娘だからな。風呂にも入りたいだろうし食事も必要だろう」


「ピョン子はキャロットジュースだけでいいよ〜。他は何もいらないからジュース沢山飲ませてよ〜。はぁ、はぁ。の、飲ませてくれたらユラ子ちゃんの言う事を何でも聞くからさ〜。ねっ? ねっ? はぁ、はぁ」


 なんかこいつ人参シュースだけで懐柔されるってチョロいやつだな。

 それにキャロットジュースが飲みたくてうずうずしているみたいだ。

 人参中毒にでもなってるのか?


「わかったよ。じゃあお前に用事があるときは【念話】で呼ぶから」


「うん! わかったよ〜! こ、これって本当に夢じゃないよね〜?」


「じゃあ俺と一緒に喫茶店に飛んでくれ」


「りょうか〜い!」


 すると瞬時に周囲の景色が変わり喫茶店の前に転移した。

 いや〜やっぱり楽だなこの転移って。


「モミジ。ご苦労さん」


 喫茶店には数人の客がテーブル席に座ってお茶を飲んでいたが、カウンター席には誰も座っていなかったので、俺とニゲレナはカウンター席に腰掛けた。


「なんだ、あんたか。今ちょっと新しいデザートを考案中で忙しいんだけど」


「俺の用事はすぐ終わるから聞いてくれないか?」


「ふんっ。早く言いなさいよ」


「これからこいつに好きなだけキャロットジュースを飲ませてやってくれ、代金は旅館の経費から出す。店の負担にはならないから心配するな」


「え? この娘に? キャロットジュースでいいの?」


「ああ」


「いいわ。いつでも飲みたい時にここへ来れば作ってあげる」


 モミジは俺以外には親切で優しい娘なんだよな。

 俺以外にはだけど……。


「じゃ、じゃあ〜、さ、早速頂いても? はぁ、はぁ」


 ニゲレナはカウンターから身を乗り出しモミジに顔を寄せている。


「い、いいわよ。なんだかこの娘、目がギラギラしていて怖いんだけど」


 モミジは大きな木箱を開けて材料を取り出そうとしている。

 この大きな木箱は彼女の【冷蔵保存】というスキルを使った冷蔵庫だ。

 その木箱の隣には【冷凍保存】スキルを使った冷凍庫もある。

 冷たい飲み物やデザートを出す喫茶店には必要なものだ。


 開かれた冷蔵庫の中を見ると、なぜか人参が山のように入っていた。

 どうして人参が沢山入ってるんだ?

 モミジは手早くキャロットジュースを作りニゲレナの前にグラスを置く。


「わ〜! 本当にキャロットジュースだ〜!」


 ニゲレナの兎耳が左右交互に動いている。

 喜んでいるんだろう。

 モミジがそのキャロットジュースを見ながら難しい顔をしていた。


「ん? どうしたんだそんな顔して。何か悩みでもあるのか? よかったら相談に乗るけど?」


「ふんっ! あんたなんかに相談する事なんて何もないわ」


 まだカエデを妻にした事を根に持っているのか。

 だけど最近はモミジの扱い方が分ってきたから大丈夫だ。

 こういう時には仕事だと言えばいい。


「じゃあさ、この旅館の総支配人として話を聞くよ。これは仕事上必要な相談だと考えてくれ」


「え、そ、それなら仕方が無いわね」


 モミジは調理場から紙を持って来てカウンターの上に置いた。

 その紙には様々なお菓子の絵と、その近くにメモがぎっしりと書かれていた。

 これは新作デザートのレシピを考えるためのメモだろう。


「さっきも言ったけど、今は新作のデザートを考えているの。人参を材料にしたデザートをね」


「ああ、それで冷蔵庫に人参が沢山詰まっていたのか」


「でもちょっとアイデアに行き詰まっていて困ってるの。今この国の季節は夏だから、新しい冷たいデザートを考えているんだけど、氷菓子は都のどこでも食べられるし、水羊羹はもうメニューに入っているし、他に何かいいアイデアがないかと……」


 そういえば、巨大な浮き島であるこの日乃光の国の現在位置は、大陸南のアル・アトラーンの近くだった。

 夏の国と呼ばれるアル・アトラーンは国土の大半が砂漠で年中熱い国で、その気候に影響を受けた日乃光も熱い夏になっている。


「冷たいデザートか……」


 こういう時にはアウレナ様の出番でございます。

 理屈は分らないがアウレナの検索機能を使うと、この世界の情報はもちろん俺の暮らしていた地球の情報も調べる事ができる。


 俺はアウレナに意識を向け、『人参、デザート』という検索ワードを念じた。

 すると視界の中に人参を使ったデザート名の一覧が表示された。

 俺はそのリストをスクロールして見ていく。

 すると良さそうなのがあった。


「人参のプリンっていうのはどうだ?」


「え? 人参の? ぷり?」


「人参のプリンだ」


「プリンってなに?」


「え? この世界にプリンはないのか? 型に牛乳と砂糖を混ぜた卵液を流し込んでから加熱して固めた蒸し料理だよ」


「ああ、ブティングね」


「そう、それだ」


「ブティングは知っているけれど、人参のブティングなんて料理は知らないわ」


「どうかな? 俺は美味しそうだと思うけど」


 そのときキャロットジュースを飲み終え、鼻の下にオレンジ色の跡を残したままのニゲレナがカウンターから身を乗り出した。


「それ絶対美味しいですよ〜! 作りましょう〜? ね? ね?」


 こいつはたぶん人参ならなんでも美味しく頂ける系の奴だな。


「そ、そうね。目新しさもあるし上手くできたらお客さんが増えるかもしれないわね……わかったわ。作ってみる」


「おう。味はお前の事だから旨いに決まってるよな?」


「当然でしょ! わたしを誰だと思ってるの? カエデ姉の妹よ!」


「ああ、後は任せるよ」


「そうと決まれば早速試作品を幾つも作って、最高のキャロットプリンを作って見せるわ! その味見役にこの兎の娘を貸してもらっていい?」


「こいつを? かまわないけど、こいつきっと人参が入ってる食べ物なら、何でも旨いって言うぞ」


「本当に美味しい料理を作るにはね、料理が大好きな人に意見を聞くべしってうちの家訓にあるの」


「家訓て……」


 そういえばカエデとモミジの実家はかなり有名な鬼料理人の名家だった。

 家訓も料理に関連したものだとは驚いたな。


「楽しみにしてるよモミジ」


「ええ。任せて!」


 そのときモミジは俺の左腕に視線を送った。

 俺の左腕は全く動かなくなってしまったので、今は左腕を白い三角巾で首からつっている。


「その左腕、やっぱり動かせないの?」


「ああ。アサハナに診てもらったけど、怪我や病気の類いじゃないらしい。なんでも腕そのものが変質してるんだとかなんとか」


「そう……カエデ姉やわたし達を守るためよね……」


「いいや、俺自身の為にした事だ。気にするな」


「……」


 俺は外の工事の状況を確認しに行こうとしてカウンター席から立ち上がった。

 そのときモミジが俯きながら頬を少し赤くして呟いた。


「………と」


「え? 何か言ったか?」


「……がと」


「悪い、もう一度言ってくれ」


 モミジは怖い顔で俺を睨めつけて大きな声を出した。


「あ、り、が、とっ!」


 そしてぷいっと顔を背け、ニゲレナの二つの兎耳を片手で掴み軽々と持ち上げ、調理場に連れて行った。


「ピョ! ピョン子の耳が〜! 耳が〜!」


 そういえばモミジは鬼人族だった。

 鬼人族はスキルが無くてもかなりの握力や腕力があるんだ。


 モミジが俺に感謝するなんて初めてだな。

 あいつもこの旅館の従業員として馴染んできたということかな。


 今までモミジは周囲の人間に打ち解けようとしていなかったから、俺は彼女の感謝の言葉を聞いて少しほっとした。

 あの様子だと周囲の人間に心を開いてくれる日も近いだろう。


 俺以外にはだけど……。


 それから俺は玄関から外に出て空船発着場予定地の視察に向かった。

 玄関を出ると、蛹から羽化した蝉達の元気な鳴き声が聞こえてきた。




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