戦後の後始末
「逆賊は地獄の果てまで追って始末するのだ! ひひゃひゃ! 私に楯突いた事を後悔しながら死ぬがいいわっ!」
「ですがデバガメ大将! あの魔物の壁が我が軍の行く手を阻んでおり追撃ができませんが」
「それならば壁を迂回すればよいではないか!」
「そうしますとかなりの時間がかかります。その間に反乱軍は体制を立て直し我が軍を待ち伏せしているかもしれません! そうなった場合はこちらの兵に多大な被害が予想されます。ここは追撃を諦めて我が軍も一時撤退し、軍備を整えてから追撃すべきかと!」
「ええい! 私の決定に逆らうのか!?」
「い、いえ、決してそのような事は」
「ここで敵になす術も無く逃げられたとあれば私の経歴に傷がつく。反逆罪で死にたくなければ早く軍を追撃に向かわせよ!」
「で、ですが……」
「どいつもこいつも私に文句をつけるやつらばかりだ! これ以上口を開けば反逆罪で即処刑だぞ!」
おいおい、勝敗は決しているのにまだ戦うつもりなのかよ。
そんなことしたら両軍共に犠牲者が増えるんだぞ。
バンジーの洞窟での事といいデバガメは部下の命をなんとも思っていない。
救いようの無い指揮官だな。
俺は反乱軍の軍旗を背中に括り付け、変装をしたまま一人で国軍の兵士の合間を縫って駆け抜け、俺を反乱軍だと思った兵士達の攻撃を躱しつつデバガメへ近づいて行った。
「なにっ!? こんな所に反乱軍だとっ! は、早くそいつをっ」
俺は馬に乗るデバガメに飛びかかり、すれ違いざまに手刀で首を刎ねた。
奴の首が地面にゴロリと落ちると同時に鮮血が吹き出す。
バンジーの洞窟でイナンナを人質に取った報いを受けてもらった。
デバガメを護衛していた兵士達は一瞬唖然としていたが、すぐに刀を抜き放ち俺に向かって斬り掛かろうとしてきた。
しかし、その時すでに俺は変装を解きながら兵士達の中へ紛れ混んでいた。
俺を見つけ出す事はもうできないだろう。
あんな奴を生かしておいても良い事なんて何も無い。
このままあいつが軍を指揮するならもっと多くの犠牲が出る。
というか俺の家族に手を出した時点で殺すのは決まっていたけどな。
左腕を動かせないと走るときに違和感があるな。
反乱軍の装備を脱ぐときも片手じゃ難しかった。
これじゃあ着替えるのも誰かの助けが必要かもしない。
俺がデバガメの首を落としたので部下の指揮官達は撤退を命令した。
退却し始めた国軍の兵士達の間を抜け、俺はイナンナのいる場所へ向かう。
そういえば、ある偉い人が戦争に勝つには四つ条件があるといっていたな。
一つは情報。
これは敵を知る事が重要だという意味だけど、今回は逆に上手く情報統制を行い戦を始めるギリギリまで、国軍に謀反を気付かれせなかった反乱軍のほうが一枚上手だった。
二つ目は持久力。
これはどうあがいても国軍に分がある。
時間さえあれば補給物資が先に底をつくのは少数派の反乱軍のほうだ。
三つ目は戦意。
これは戦が始まる時にディナクの演説で大いにモチベーションを上げた反乱軍のほうが上だな。
四つ目は物量。
当然だが物量で何倍も勝っていればすぐに戦は終わる。
これも国軍のほうに分があるけど、今回国軍が反乱軍に押されていたのは武器が旧式で攻撃力に差があったのと、単純に兵士を集める時間がなかったからだ。
反乱軍はこの日の為に数年に渡り密かに準備していたのに対し、国軍は限られた時間の中で東江の都周辺からしか兵士を集められなかった。
だから国軍は苦戦したんだ。
今回攻めきれなければすぐに国軍兵士が増員され、たかだか二万の反乱軍では太刀打ちできなくなるだろう。
反乱軍が勝利する為には、国軍の戦力が整わない今のうちに東江の都まで攻め上り、城を一気に落とさなければならなかった。
この機を逃した時点で敗北したと言っていい。
一つ気になる事がある。
あのディナクとホムンクルスの存在だ。
あいつらの強さは並の人間の比ではない。
それにこの国では人族以外の種族が軍の大将を努めるなんておかしい。
この日乃光で暮らす種族のほとんどを占めるのが人族。
他種族は兵士として起用される事はあるが、指揮官等の重要な役職には就けないのが普通なんだ。
なのにディナクは反乱軍を指揮できる立場にいた。
奴をこの戦の大将にできる程の財力や権力のある組織が背後に存在する。
その組織はたぶんシュンやオボロも関わっている『堕ち人の宴』だろう。
ディナクは夢の中でシュンと行動を共にし、一緒に穢れを倒していたから関係があるはずだ。
そこまでは分ったがディナク達の目的は結局分らなかった。
ペティとファンタを攫って虚無の欠片を手に入れたかったようだけど、それを使って何をしようとしているのかも分らない。
あんな命を吸い取って力に変えるなんて外道は絶対に碌なもんじゃない。
まてよ。
この国で反乱を企てて戦を仕掛けたのも、あの虚無の欠片を手に入れる為だったのかもしれない。
ディナクはあのとき、シャンバレアの扉を開くのに人の命を代償として使ったような事を言っていた。
もしもそうなら、あいつら何処かでまた戦を起こすかもしれないな。
まあ、この日乃光の国以外でなら好き勝手にすればいい。
再び俺の大事なものに被害が及ぶようなら、もう二度と変な気を起さないように奴らの組織を根本から壊滅させるしかないな。
その為にシュンやオボロと戦う事になろうともだ。
俺には命がけで守りたい大事な人達が大勢いる。
それを守るためならば友人だろうと何だろうとぶっとばす。
さっきも左腕という犠牲を払った甲斐あって妻達や従業員、それに俺達の旅館を破壊されずに守る事ができたんだ。
旅館の営業は戦の余波でしばらくはできないだろうけど、客がいない間にもできる事が多いから、この機会にやれる事はやってしまおうと思う。
俺は亡者の壁を維持しているイナンナの元へ到着した。
すでにセルフィナ達も戻っていた。
「イナンナ。荒野から兵士がいなくなり次第、亡者達を戻していいぞ」
「うん。わかった」
まずは旅館周辺の土地の整備と空船発着場の建設から手をつけるか。




