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ディナクの見た夢

 



「そ、そうですわ! それしかないのでしょ!? だったら懸けてみますわ!」


「私も異存は無い。この先お前が生き続ける限りマスターヒラガを守ると誓うならば、私の稼動時間の全てをもってお前を守護すると誓おう」


 そのときディナクが不敵な笑みを浮べた。


「ふん、そこのハサミ女が余計な事を。私の攻撃を躱した後にお前達の大事な旅館が消し飛ぶ様を見せ、絶望に打ちひしがれる愉快な顔を堪能しようと思ったのだがな。ふははははははっ!」


 こいつキャラが変わってないか?

 さっきの光りの柱に包まれてからおかしくなったよな。


「悪趣味だなディナク。そんな事は絶対にさせない」


「威勢がいいのは認めるがそれだけでは私の攻撃は防げぬぞ」


 ディナクが集めていた黒塊の膨張が止まった。


「そろそろいいだろう。躱せば旅館が消し飛ぶ。躱さねばお前らごと旅館が消し飛ぶ。さあ、どちらを選ぶのだ? ふはははははっ!」


 やはり手段は選んでられないか。


「ファンタ。ストレッド。こんな状況で悪いが俺に全てを預けてくれ!」


「あなたにわたくしの全てを捧げますわ!」


「私も従おう。私のこの判断はマスターヒラガを守り、私たちの居場所を守る事につながるのだ」


 禍々しい漆黒の球体からバチバチと力が弾けている。

 もう迷っている時間はない!


「そしてセルフィナとペティ。この後、俺の身に起きる事を許して欲しい」


「……全てはユラリ様を守るため。何があろうとも動じたりはしません」


「わ、私もご主人様に何が起こっても信じてます!」


 そうだよな。

 聞くまでもないことだった。

 まずは二人の【守護者任命】だ!


「この者達の名はファンタゼシル・シルフィエンタ。並びにストレンジレッド。我が敵を刺し貫く剣となり、我を護り支える盾となれ! 我の元に集いし二十四守護者として、ここに守護者契約を結ぶ! スキル【守護者任命】発動っ!!」


 二人の体はまばゆい光を発し宙に浮き俺の中の力が二人に流れ込む。

 そして二人の額の位置に光が集束し、それぞれ違う柄のカードを形成した。


 ファンタのカードには、空に浮かぶ小さな扉から星が雨のように地上へ降り注ぎ、その星の雨を気持ち良さそうに浴びる女性が描かれている。その女性の周囲には色とりどりの花畑と遠くには豪華な洋館が建っていた。


「理想や憧れ、将来への期待を意味し、夢や希望を実現する人を意味する守護属性。星雨せいうのカード」


 ストレッドのカードの真ん中には高い塔が描かれ、その塔の最上階には王冠を右手に持ち全身から青い光りを放つ女性が立っている。彼女の足元から塔は徐々に砕けていて今にも塔が消滅しようとしているように見える。


「崩壊や消滅、予期できない困難を意味し、全ての物事を終局へ誘う人を意味する守護属性。塔のカードだ」


 二人の体の発光現象が収まり、彼女達はゆっくりと地面に着地した。

 カードは光りの粒子になって霧散した。


「な、なんですのこれは!? やる気が溢れて止まりませんわ! 根拠はありませんけれど将来が希望に満ちあふれているように感じますわ!」


「守護者契約を完了しました。バージョンアップも問題なく終了。想定を大幅に越えるキャパシティの増大を確認。現在各種機能の誤差を調整中」


 ディレクは直系六メートルにもなったエネルギーの塊を俺達に向けて放った。


「何をしようがこの【虚無きょむ命珠めいじゅ】を防ぐ事はできない。これは全てを飲み込む虚無そのものなのだ」


「んな事知るか! 虚無かなにかは知らないが、俺の家族と縄張りかえるばしょを飲み込ませるものか!」


 俺は意識を集中した。

 深く、潜在意識よりも深い場所。

 自我や本能を超えてさらにもっと奥深い場所。


 そこにはこの生命の根源がある。


 俺はその膨大な力の奔流にほんの少しだけ触れた。


 ヘヴンズアントの女王様よ。

 こうなる事が分っていて俺に【守護者任命】のスキルをくれたのか?

 別れ際に言われたあんたの言葉の意味がようやく今わかったよ。


「……我の存在を力に変えよ。そして我の守護者に命の輝きを与えよ!」


 俺の身体から膨大な力が溢れ出し目の前にいる四人の守護者達へ流れこむ。


「【守護者激成げきせい】!」


 このスキルは【守護者任命】の派生スキル。

 大きな代償を必要とするが守護者の能力を一時的に桁違いにアップさせる事が可能だ。


「こ、これは!?」

「はわわっ! ご主人様!?」

「な、なんですの!? 何が起きているんですの!?」

「さらにキャパシティの激増を確認。バランス調整に失敗。さらに増大」


 まず始めにセルフィナの姿が変化した。

 彼女の白く美しい二枚の翼が六枚になり、背後に浮いてたリングも三枚から十二枚に増え、さらに装備していた白銀の鎧や盾、細剣も黄金色に変化していく。


 次にペティの周囲に無数の光りが集まリ始める。

 その光り一つ一つが様々な形の金色の鍵に変化していった。

 そして彼女の褐色の肌全体に流れるような曲線の青い紋様が浮き上がる。


 ファンタを見るとペティと同じく白い肌に赤い曲線の紋様が浮かび、彼女の手には縦横五十センチ程の金色の扉が現れた。


 ストレッドの変化は他の三人とは一線を画していた。

 彼女の身体が流線型の銃のような形状に変化していき、俺の右腕へ絡みつくように装着される。


 おわっ!

 なんだこれ!?

 どうなってんだ?


 ストレッドは一体何者なんだ?

 それよりも今はあの迫る黒球が先か!

 脳裏にストレッドの声がする。


『私の引き金を引け、総支配人ユラリ』


『ああ! わかってるさ!』


 俺は他の三人に指示を伝えた。


「みんなっ! 今放てる最大の攻撃で迎え撃てっ!」


「ユラリ様はわたくしが守ります! 束ね集めて重ねて放て! 全てを愛に満ちた天聖なる光りが未来への障害を討つ! 【重唱じゅうしょう極光流閃きょっこうりゅうせん】っ!!」


「ファンタちゃん! 一緒に!」

「わかっていますわよ!」


「「黄金の鍵と扉で開く世界。それはかの地の激流となりし極炎の狂嵐きょうらん。全てを焼き尽くし我らに道を開けっ! 【太陽極大爆発たいようふれあ】!!」」


『ストレンジ物質への転換準備完了。少量の転換後は空間断絶により転換を停止。スタンバイ』


 俺は銃となったストレッドの引き金を引いた。


「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 膨大な閃光が集束したエネルギーの激流。

 全てを一瞬で消滅させる灼熱の白炎。

 青い色を放つ幻想的な球体。


 その三つの力と巨大な漆黒の塊が衝突した。

 そのあまりの衝撃に衝突地点を中心に、周囲数百メートルの広範囲で地面が陥没して吹き飛んでいった。


 ストレッドから放たれた青い球体が、黒塊に接触すると黒塊の約半分を瞬間的に青い粒子に変化させる。

 その青い粒子はすぐに空間を噛みちぎるかのように跡形も無く消滅した。


 ほぼ同時に極光と白炎の爆発も【虚無の命珠】に激突。

 周囲に膨大な熱量を撒き散らしながらお互いの力を削りあう。


 すでに本陣の中を周囲から見えなくしてた陣幕は燃え尽きている。

 あまりの熱量に俺も目を開けていられない。


「なんだとっ!? 【虚無の命珠】が押し負けているだとっ!!」


「俺達の力を侮ったなディナクっ! 愛の力はすごいんだぜ!」


「う、うそだ! 嘘だウソだうそだ! 私の世界だぞ! ここは私の望む愛する家族の暮らす世界だぞ!」


「何をいってるんだ! お前の家族は十七年前に死んだんじゃないのかよ!」


「死んだ? ファレナが? ムルクが? 死んだ? そ、そうだ。死んだ。死んでしまったのだ」


 ディナクは両手で頭をかかえ虚ろな目で後ずさる。


「なぜ私は……ここで、こんな事をしているんだ……なぜ!? いつから!?」


 そのとき俺達の攻撃が虚無の力に打ち勝ち、漆黒の塊は完全に消滅した。

 極光と白炎の激流が鎧になっていたゼジベルとディナクを飲み込んでいく。


「そうか……私は夢を……見て……いたのか…………」


 ディナクの身体は光りと炎に包まれ一瞬で塵も残らず消滅した。

 奴の最後の表情には苦笑が浮かんでいるのが見えた。


 爆風で荒れ果てた荒野に残されたのは全力を出し尽くし呼吸の荒い俺達五人と、頭の毛を丸刈りにされ気絶している哀れな兎女だけだった。




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