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虚無の力

 



 ※ユラリ視点




「…………様…………リ様…………ユラリ様!」


 俺はセルフィナの呼び声で我に帰る。

 すると目の前にグレドの尖った毛が迫っていた。

 俺を守るようにセルフィナがその刺を盾で防いでくれた。


「え……セルフィナ?」


「ご無事ですか? さきほど光りの柱に一瞬だけ包まれて、その後何度か呼びかけても返事が無かったので心配しました!」


「ああ、戻ったのか。すまない心配かけた。俺は大丈夫だ」


「二人も無事に取り返せたようですね」


「え?」


 俺はセルフィナの言葉で二人の存在に気付く。

 ペティとファンタが俺の両腕に抱き抱えられていた。


 どういうわけか謎の石台に寝かされていた二人は俺の腕の中にいた。

 セルフィナはグレドを俺達から遠ざける為に光術で牽制しながら、少し離れた場所まで奴を誘導してくれたようだ。


「ご主人様っ!」


「も、元に戻りましたわっ!」


「お前達、無事か? 身体に異常は無いか?」


「だ、大丈夫です……ご主人様……えっと……」


 ん? どうしたペティの顔が真っ赤だ。


「そ、そそ、総支配人さん!?」


「どうした!? 体調でも悪いのか!?」


「ど、どこを触っていらっしゃるのかしら!?」


「へ?」


 気付くと俺の両手は彼女達の胸の辺りをしっかりと捕らえていた。

 うん。いつも仲居姿で印象は薄いがそれなりに……。


「あ、悪い」


 俺は二人の胸から慌てて手を離した。


「い、いえ私はご主人様がお望みでしたら、夜だろうと、戦場だろうと何処でも準備はできていますから……」


 ペティは顔を真っ赤にしながら拳を握り恥ずかしい決意を表明した。

 いやいや、その気持ちは嬉しいけどさすがに戦場ではできないだろ。


「な、なな、なんてアダルトな発言! まさかペティがわたくしよりも大人の階段を先に、それもかなり先まで登っているなんて!?」


 二人とも身体に異常はないようだ。

 いつも通りな二人で安心した。


 それにしてもさっきの世界はなんだったんだ?

 まるでディナクの記憶を覗いているようだったけど。

 そういえば奴はどうなった?


 俺はディナクの姿を探すと奴は再びゼジベルを身に纏っていた。

 そしてディナクは笑っていた。


「ふははははははっ! 手に入れた、ついに手に入れたぞ虚無の欠片をっ!」


「ディナク。盛り上がっている所悪いんだけど、二人は返してもらったぜ」


「ん? もうそいつらには用は無い。封印は解除され虚無の欠片は私の中にあるのだからな」


 なんだよその虚無の欠片っていうのは。

 名前からして碌なもんじゃないだろうけどさ。


「ふん、ここで死ぬお前らには言っても仕方が無いがな」


「死ぬのはどっちだろうな。俺は家族に危害を加えた奴らは許さないことにしてるんだ。その罪は死に値する重罪だ」


「グレド。もうお遊びはここまでだ。先に空船へ戻っていろ」


「そうですか。という事はここでの用事は済んだんですね。じゃあこの女ウザイんで先に戻ってます」


「ああ。こいつらは私が始末する」


 グレドは本陣の外へ逃げ去った。

 セルフィナが俺を庇うように前に立つ。


「ユラリ様。あのディナクという男。先ほどの光りに包まれてから別人のように雰囲気が変わり、化け物じみた力を感じます」


「ああ分ってる。この感覚は久しぶりだ。カンザキの【穢れ化】三段階目のときみたいな、いや、それ以上か……」


 ディナクは右腕を頭上に掲げた。


「お前達等一撃で十分だ。虚無よ我に力を貸せ。命を糧にしてその全てを消し去る力を示せ!」


 すると周囲で動けなくなっていた兵士達のからだから、黒い煙の様なものが吸い出されディナクの右手の平に集まっていく。


 周囲の数十人の兵士達の顔からみるみるうちに血色が失われていった。

 そしてすぐにがくりと脱力し動かなくなる。

 彼らから命の気配が感じられなくなっていた。


 どういう事だ?

 もしかしてディナクの右手に集まっている黒い力の源は人の命そのもの!?

 さらにその黒い流れは兵士達が戦っている戦場からも集まってきていた。


「ふっ。この人数ではこんなものか。扉の開閉にほとんどの力を使ったからな……まあよい」


 ディナクの頭上にものすごい力の塊が渦巻き黒い球体を形成していく。

 あんなのを受けたら一瞬で身体が塵になりそうだ。

 セルフィナが盾を構えて俺を守ろうと身構える。


「ユラリ様はわたくしの命に代えてもお守りします!」


「セルフィナ……奴の力は」


「聞けません」


「え?」


「ここで逃げたらわたくしはユラリ様の守護者失格です。決して逃げる事はできません!」


「そうですご主人様!」


「ペティ……」


「私もご主人様を置いて逃げるなんてしたくありません!」


「わ、わたくしもペティと同じ気持ちですわ! 総支配人のあなたがここで死ぬ様な事があったら、わたくしの輝かしい将来を失ったも同然ですのよ!」


「ファンタもか」


「ユラリ様。何を迷っていらっしゃるのですか?」


「……わかるのか?」


「はい。守護者である私たちにはユラリ様のおおまかな感情は伝わってきます。その迷いの理由はわたくし達守護者に大きな負担を強いても良いかどうか悩んでいるのでしょう? そうすればあの攻撃をなんとかできると」


「そ、そこまでわかるのかよ」


「それと同時にご主人様が私たちの事を大事に思ってくれている暖かい感情もわかりますよ! 私はご主人様の為ならどんな事だって覚悟できてます!」


「わたくし達はユラリ様に全てを捧げたのです。今この状況を打破できる方法があるのであれば、なんなりとおっしゃってください」


「そ、そうですわ! わたくしに【守護者契約】をなさいな総支配人さん! セルフィナさんから話は聞いています、心の準備はできていますのよ!」


 いつのまにかストレッドが近くに立っていた。

 彼女の右手には意識を失い頭の毛を丸刈りにされた兎耳のニゲレナが引きずられていた。


「総支配人ユラリ。私の観測によるとあの男がこれから放つであろう攻撃を受けずに躱した場合。その攻撃の向かう直線上に旅館の建物がある」


「まじかよ。という事は躱す事はできないってのか?」


「肯定する。防御して消滅するか、防御しないで旅館が消滅するかだ」


「どっちも最悪じゃないか」


 まあ、客と従業員は避難させてあるから犠牲者はでないだろうけど。

 旅館を壊されると、ゆるゆる人任せ異世界生活の夢が終わる。


「どちらの場合も旅館の研究室で作業しているマスターヒラガの命が危ない」


「えっ!? あいつ避難してないのか!?」


「私の進言を断り酒造りの研究に没頭していた」


 研究熱心なのも考えものだな。

 もしこの窮地を無事に脱することができたなら、一言もの申さないといけない。


「じゃあ絶望的な状況という事か……」


「まだ一つの可能性が残っている」


「それは?」


「私とファンタをお前の守護者にする事だ」



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