夢は世界へと変貌する
俺は【重唱】で【空刃】を十回重ねがけし、右腕に見えない刃を十枚重ね攻撃力を大幅に上昇させ、ゼジベルの胴体を両断しようと胸を袈裟切りにした。
【空刃】の刃の六枚が一瞬で砕けたが四枚はゼジベルの防御力を超える。
咄嗟に上体を剃らせて俺の斬撃を躱そうとしたゼジベルだったが、【空刃】の刃は奴の胸に届き大きく斬り傷をつける事ができた。
ゼジベルは痛みに顔を歪めながらも回し蹴りを繰り出し、それをしゃがんで躱した俺に拳を連続で撃ち込んでくる。
しかし速度は俺の方が数段上。
俺はゼジベルの連打の軌道を見切り【縮地】で躱し一端後ろに下がった。
そして再び【重唱空刃】を右手に纏い【重唱縮地】で勢いを付け、【怪力】も重ねがけしたその全ての力を一撃に込めゼジベルの首を狙う。
「【物理防御強化】、【術防御強化】」
ゼジベルはスキル名を呟きさらに防御力を強化した。
俺は構わず肉薄し手刀を全力で振り抜く。
【空刃】の刃の八枚が一瞬で砕け、さらに九枚目も砕ける。
いけるかっ!?
俺の【空刃】がゼジベルの防御力を突き破ろうとした直前、奴が俺の腕を掴んで捻り上げ、俺の身体を一回転させ宙に放り投げた。
俺はそのまま地面に打ち付けられる。
直後に俺の顔面を狙ってゼジベルの拳撃が襲う。
頭を傾け拳撃を躱した俺は横に転がりながらその場から離れた。
あぶないところだった。
拳術と体術を組み合わせてきて、なかなか一筋縄じゃいかない奴だな。
それから俺は幾度もゼジベルに向かって攻撃を仕掛けた。
しかし傷は与えられても致命傷を与えることはできずに攻めあぐねる。
ゼジベルの方からはまるで攻めてこないな。
さっき確認した能力値や今までの俺への対応の仕方から、まるで俺を殺す事を考えていないようだ。
攻撃は必要最低限にして防御に集中されると、隙ができにくいからやり辛い。
あまりこいつに時間を取られると儀式とやらが完了してしまう。
どういうものかは知らないけど、ペティとファンタに害が及ぶかもしれない。
早くゼジベルを倒してディナクを止めなければ。
「ご、ご主人様! 私の事はいいから逃げてくださいっ!」
「ちょっとペティ! 何勝手な事を言っているんですの!? わたくしは助かりたいのですけれど!?」
「じゃあファンタちゃんだけでも助けて逃げてください!」
「あなたを見捨てて行くような事を、このわたくしがするとでも思っていらっしゃるの!? 心外ですわよっ!」
「え、じゃあ、ファンタちゃんが逃げれるように私も一緒に助けてくださいっ!」
「さ、最初からそう言えばいいんですのよっ!!」
二人は思いのほかいつもの調子だった。
「分ってる! 元から二人とも連れて帰るつもりだ!」
ストレッドは本陣の外へ出て行ったので姿は確認できない。
セルフィナはグレドと互角の戦いを繰り広げている。
しかし、光術の得意なセルフィナと術が効きにくいグレドの相性は良くない。
彼女の細剣の腕前は相当なものだけど、全身が武器になるグレドは質が悪い。
グレドの刺のような毛のリーチは、だいたい細剣の三倍はあるからな。
それでもセルフィナはいい仕事をしてくれてる。
グレドの注意を引きつけて俺へ攻撃が向かないようにしてくれている。
ペティとファンタが寝かされている石台が一層光りを増した。
ディナクが詠唱を続けている。
「アムク、ベルカカ、ラムク、カデンテリ……あと少しだ。あと少しで私の望みが叶う」
なんの望みかは知らないが。
そんな事のために俺の大事な家族を道具に使うのは許さない。
俺は何かゼジベルを倒す方法はないかと思案していると、ふと脳裏にあるスキルの名とその効果や使い方などが浮かんで来た。
そうか、このスキルって俺が新しく獲得したスキルか。
だけどこのスキル……。
その時恐れていた事が現実となった。
ペティとファンタの様子がおかしくなる。
「ご、ごしゅじんさ……」
「そうしはいにん、たすけ……」
「どうしたお前達っ!?」
二人は目が虚ろになり表情が失われ、俺の声に反応を返さない。
すると二人の胸の位置から何かが空中に浮かび上がって来た。
ペティの胸の位置に現れたのは銀色の鍵。
その鍵は装飾的で青い宝石が埋め込まれ家紋のようなものが見える。
同時にファンタの胸の位置からは縦横三十センチ程の銀色で小さな扉だ。
これも装飾的なデザインで赤い宝石が埋め込まれ、鍵とは違う家紋がある。
「さあ開けシャンバレアへの扉よ! ブレベ、ラーデ、ベズレレル!」
見えない何かに動かされているように、空中に浮いていた鍵と扉は接近する。
そして鍵が扉の鍵穴に差し込まれ回転し、小さくカチャリという音がした。
「ベズレレルよ! 私の望む世界を与えてくれっ!」
そのディナクの声を最後に周囲から音が消えた。
遠くから聞こえていた、兵士達の喧騒。
耳をかすめる、風の音。
セルフィナとグレドの生死を懸けた、戦いの音。
さらには自分の心音さえも聞こえない。
全ての音が止まり。
そしてついにその小さな扉が開くと中から虹色の光が放たれた。
その光は反乱軍の本陣から上空に向かって突き抜け俺達を飲み込む。
次の瞬間。
夢が世界となり、世界が夢となった。




