可愛い仲居は甘い物好き
部屋への案内は暇そうにしてた男達が案内してくれるのか?
俺は少しその場で待っていると、受付の男が呟いた。
「制裁スキル発動、ペティに【激痛】」
ん? 今何かのスキルを使った?
それからすぐに客室に続く廊下の先から、着物を着ていて見た目は中学生くらいの、銀髪を頭の両側で結っているいわゆるツインテールの可愛い女の子が走って来た。
肌は浅黒く耳は尖ってる。
人族ではないようだけど異世界ならではの種族だろうか。
「おっ、お待たせしましたお客様! 私がお部屋まで御案内させていただきますねっ!」
その女の子は屈託の無い笑顔を浮かべていて実に愛らしい。
そして可愛い!
急いで走ってきたのか額に汗をかき息を切らしている。
うん、接客ではこういう自然な笑顔っていうのはなかなかできないんだよな。
仕草に荒さはあるが誠実さは伝わる。
この娘なら物覚えも良さそうだし、ちゃんと育てれば立派な仲居として成長するはずだ。
それに比べて先ほど談笑していた柄の悪い男達は、こちらを気にした様子も無く仕事もせずにだらだらと話し続けている。
この女の子を見倣ってお前らもちゃんと仕事しろよ。
「君が案内してくれんの? まだ幼いのに偉いな」
「え? お客さんは遠くの国から旅して来たんですか?」
「まあ、遠いといえば遠いかな。どうして分るんだ?」
「私のことを幼いなんて言うからですよ。私はダークエルフなんで、こう見えても年齢は十七歳なんです」
「そうなのか。悪いがこの国に来て間もないんだ。子供扱いしたことは許してくれ」
「いえいえ、そんなそんな! 私の方こそ余計な事言ってごめんなさい!」
女の子は慌ててお辞儀をして謝った。
俺はふとお辞儀をした女の子のうなじを見ると、そこには黒い入れ墨のような紋様があり首を一周していた。
ダークエルフという種族特有の紋様か何かだろうか?
俺のいた地球でも体に入れ墨を彫る民族は多かったからな。
「お荷物はございますか?」
「いや、無いよ」
「では、お部屋までご案内致します」
「ああ、頼む」
俺は彼女に案内され客室に向かった。
館内は金貨三枚をとるだけあってなかなかの高級感を感じた。
所々に落ち着いた雰囲気の掛け軸が飾ってあったり、高そうな壷が台の上に展示されていたりと、インテリアを見ると金がかかっているのがわかる。
しかし、中には何も乗っていない台が幾つもあった。少し気になるが今は客室の方が気になるから細かい事は後回しだ。
廊下から見える中庭も広い。
池や小川が流れていて石橋も架かっている情緒ある広い日本庭園だ。
手入れの質は可も無く不可も無くって感じだな。
まあ、ギリギリ合格ってとこだろう。
俺は彼女に自分の名前を伝えると、彼女はペティと名乗った。
見た目は中学生くらいなのに中身は年頃の娘というのは、異世界ならではの醍醐味だな。
前の世界では千鳥や皐月意外の女子と話す事なんて無かったから余計に嬉しい。
それに彼女はファンタジー小説なんかにはよく出てくるダークエルフ族と言っていたよな。
同じ人族だからなのか、オウカと話していても異世界にいる実感があまり湧かなかったが、こうして目の前にダークエルフがいると本当にここが異世界なんだと実感できる。
それに仲居姿の和装ダークエルフってなかなかレアな気がする。
アウレナでペティの能力値を見て見よう。
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◆ペティ・アスティオ
種族:ダークエルフ族 性別:女 年齢:17才 職業:旅館の仲居
LV:3 HP:150 MP:160 SP:300
物理攻撃力:80 物理防御力:100 敏捷力:100
術効力:50 術抵抗力:70 幸運:20
アクティブスキル:なし
パッシブスキル:忍耐6、機転2、器用2、痛み耐性6、平衡感覚2、礼儀作法3
称号:健気な頑張り屋、忍耐する者、奴隷、シャンバレアへの鍵、甘い物好き
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能力値を見る限りは一般人だな。
称号に奴隷があるってことはペティは奴隷なのか。
という事は主人の命令でこの旅館で働いているんだろう。
オウカも奴隷の労働者は多いって言ってたからこの国では珍しくないんだろうな。
ん? 『シャンバレアへの鍵』ってなんだろう。
意味不明な称号を持っている娘だな。
テンゲンのおっさんも焼き魚は大根おろし派とか、くだらない称号持っていたから、称号自体にはそんなに意味はないんだろ。
あ、その次に『甘い物好き』っていう称号があった。
甘いものが好きなのは女の子っぽい称号だよな。
そのときペティがある部屋の前で立ち止まった。
ここが今日俺が泊まる部屋らしい。
「お客様のお部屋はこちらになります!」
再びペティは俺に微笑んでくれた。
うん、可愛いな。
俺の旅館の従業員として、その笑顔に花まるをあげよう。
俺は客室の中に入った。
畳と背の低い座卓に座布団が二枚敷いてあって、浴衣と手ぬぐいが綺麗に畳んで置いてある。
客室の雰囲気を一言でいえば上品な和室。
それ以外に特に言う事がないな。
何か物足りない。
あ、わかったぞ。
母さんの旅館ではお茶や菓子が置いてあったり、掛け軸や花なんかも生けてたけど、この国ではそこ迄のサービスはしないんだな。
こういう旅館は眺めが良い場所に建てることが多いから、障子を開くと絶景だったりするんだよ。
俺は外の景色を見ようと障子を開けた。
そこにはなんと、草木の茂みが広がっていた。
う〜ん、景色が良くない。
オウカの話では綺麗な清流の流れる川が見えるはずなんだが。
目の前には鬱蒼と茂る草木だけ。
手入れはどうした?
せせらぎは聞こえるんだけど肝心の川が見えないな。
これじゃ客は喜ばないだろう。
そのうち草刈りしなきゃな。
俺が外の景色を眺めていると、ペティが正座して旅館の説明を始めた。
「えっと、当日乃光旅館をご利用頂きありがとうございます。当旅館自慢の露天風呂の場所は部屋を出て右に行くと突き当たりに案内看板がありますので、それに従って頂ければ迷わずに行けます。深夜二時から早朝五時の間はご利用になれません。それと、夕食は午後六時、朝食は朝八時にお部屋へお運び致します。何かご不明な点がございましたら、私にお申し付けくださいませ」
「ああ、分った。早速聞きたいんだが」
「はい、何ですか?」
「この旅館の従業員って何人いるんだ?」
「えーっとですね。今は三十二人でしょうか」
「三十二!? 少ないな。これだけ大きな旅館だから、てっきり各部門合わせて百人はいるかと思ったんだけどな」
「あ、それはですね。始めは百人くらい働いていたんですが、お客様が来なくなってから副支配人が人件費を減らす為に徐々に解雇していったので」
「副支配人?」
「受付にいた方です」
そんな人数でこの規模の旅館を維持するのは難しいはずだけどな。
「この近くに観光名所は何かあるか?」
「えーとですね。川の上流には虹の滝という綺麗な虹がいつも見る事のできる滝がありますよ。南には青の晶洞という内部が青い水晶で満たされた幻想的で美し洞窟もありますし、西に行けば妖精の森という場所がありまして様々な種類の妖精達を見る事ができます」
「へぇー、近場に見どころがそんなにあるんだな。なかなか良い場所に旅館が建てられているようだ」
「あっ、でも今はそのどれにも行く事はできないんです」
「は? どうして?」
「ここ数年、何故か奉行所から魔物の討伐隊が派遣されなくなり、その三つの観光地で魔物が増えてしまったんです。今は魔物の巣窟になっていて一般人は近づけないほどに危険な場所になってしまいました」
「おいおい。働けよ討伐隊」
「申し訳ございませんお客様」
ペティが申し訳なさそうに頭を下げる。
「いや、ペティは悪くないから。そんなに謝らなくていいよ」
「あ、はい……。他に御用はございますか?」
「そうだな。俺はこの国に来たばかりで知らないんだが、チップは渡した方がいいのか?」
「ちっぷ? とは何でしょう?」
「簡単に言うと客が感謝の印に従業員に渡すお金だ」
「えっ? そんな、お客様から直接お金を頂くなんてできません! そんな事したら私がお仕置きされちゃいますし」
「お仕置き? まあいいか。そういう風習はないのか」
俺はペティにもう質問は無いと伝えてからお礼を言った。
彼女はお辞儀をして部屋を出て行った。
俺は畳に大の字になって横になり、しばらく畳の香りを楽しんだ。
畳の香りなんて久しぶりだな。
心が落ち着くよ。
さてと、夕食前に浴衣を着て露天風呂だな。
俺は素早く浴衣に着替えてから、案内看板に従い露天風呂に向かった。




