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敵の本陣に突入

 



 俺達は今、白い陣幕に囲まれた反乱軍本陣のすぐ側まできている。

 本陣の周囲では大将を護る為に数十人の屈強な兵士達が配置されていた。


 実はここまで来るのに敵兵には見つかっていない。

 どうやってここまで大勢の兵士の目をかいくぐって来れたのかというと、セルフィナのスキルのおかげだ。


 それは光りに潜むと書いて【潜光せんこう】。

 このスキルは【潜影】という影に隠れる事ができる俺のスキルが、セルフィナの光属性に変化して使えるようなったスキル。


 その効果は光りのある場所なら姿が消えるという便利なものだ。

 姿を消すだけで気配や足音は消せないから、そこは俺の【気配遮断】や【無音行動】で完璧に隠した。


 この二つのスキルはパッシブスキルだ。

 普通は使用者である俺だけに効果があるんだけど、それをセルフィナとストレッドの手を繋ぐ事で、スキルの効果範囲を彼女達にも適用している。

 だから俺達三人の事は全く気付かれていない。


 前に旅館でいろんなスキルの実験をして気付いた事だけど、スキルの効果範囲を他の者に拡大できるのは、俺と手を繋ぐ二人だけに限られる。


 たぶん裏技的な現象だろうと思っている。

 ツクモの【修復】で物を二倍に増やせるのと同じだ。



 俺達は陣幕に手が届く距離まで近づいた。

 そして【聴覚強化】と【気配感知】で陣幕の中の会話や気配を探る。


 ……この気配は猿男だな。


「大将。さっき見てきましたが両軍順調に数を減らしてますよ。この調子だと暗くなる前には共倒れでしょうね」


「そうか。計画通りだな。グレド。現時点での戦死者はどのくらいだ?」


 この声はあのダークエルフの大将だ。

 猿男の名前はグレドと言うのか。


「そうですね〜。ざっと両軍あわせて一万五千ってとこです」


「儀式を始めるには十分だな」


 儀式?

 なんの儀式を始めるっていうんだ?

 その儀式にペティとファンタが必要だから攫ってきたのか。


「大将。この二人の娘が本当にシャンバレアの鍵と扉なんですか?」


「ああ。そのはずだ。間違いない」


「ほんとうですかね〜。さっき【鑑定】スキルでこの二人を見ましたけど、それらしき称号はなかったんですけどね」


「普通の【鑑定】では見る事はできない称号らしい」


「なにそれ。ピョン子初耳〜。ディナク様は物知りだピョン!」


 この声はペティとファンタを攫っていった転移を使う兎女か。

 そしてあのダークエルフの大将の名前がディナク。


「ニゲレナ。私はそれほど物知りではない。選ばれし者にしか見る事はできぬ称号という事だが、私もあの方より聞いただけだ。詳しくは知らぬのだ」


「というかピョン子。うざいこと言ってねーで周囲の警戒しろや」


「え〜、ちゃんとやってるよ〜。ピョン子の【気配感知】は十レベルだよ。もしも近づく敵がいたらすぐに分るって〜」


 あの兎女がニゲレナか。

 悪いが俺の【気配遮断】は十レベルだ。

 感知系と隠匿系のスキルが同レベルだった場合、隠匿系の効果が勝る。

 という事は兎女には俺達の気配は感知できない。


「他のホムンクルス達は帰ったのか?」


「はい。空船に乗せて帰してあります。あいつらまだ体が安定してませんからね。安定するまで培養液から出たり入ったりして、外の環境に慣れさせないといけないんで」


「そうか」


「ピョン子とサル子とヘビ子達は外の環境にはもう慣れたもんね〜」


「だからサル子っていうな。うぜー」


 さっき俺の前に現れた獣人達の何人かはどこかに行ったみたいだな。

 それは好都合だ。

 あのペテとテペのようなのが五人も六人もいたんじゃ苦戦しただろう。


「つーかペテとテペはまだ来ないのかよ。あの小僧殺すのにどんだけ時間かけてんだ?」


「ヘビ子達は遊び盛りだからね〜。楽しく八つ裂きにでもして楽しんでるんじゃないのかな〜」


 陣幕の中の気配を探る限り、大将のディナクと猿男のグレド、兎女ニゲレナと数人の兵士か。

 それと意識を失っているペティとファンタ。



「それでは儀式を開始する」


 ディナクは何かの儀式をするようだ。

 何の儀式かは知らないが二人に危害が及ぶかもしれない。

 儀式が始まる前に強襲して二人を奪還する。


 俺はセルフィナとストレッドに無言で頷いて、陣幕の中へ潜入するという合図を送った。

 なるべく気付かれないように陣幕の隙間から中に入る。

 しかし陣幕が揺れた事で俺達の存在に気付かれてしまった。


「ぬ? 侵入者か」


「は? おいピョン子。うぜー仕事してんじゃねーよ」


「え〜!? ぜんっぜん気付かなかったよ〜」


 気付かれたんなら気配を消していても意味は無い。

 俺達はスキルを解除し姿を現した。


「よう。俺の旅館の仲居を返してもらいにきたぜ」


 ペティとファンタを見ると、二人はそれぞれ象形文字の刻まれた硬質な石の台に寝かされ手足を縛られて動けなくされていた。

 その台に刻まれているのはスフィアの文字と同じものだ。

 もうそれだけで嫌な予感しかしない。


 台に寝かされていた二人は目覚めているようだ。


「ご、ご主人様っ!」


「総支配人!? 早くわたくし達を助けなさいっ!」


「分ってる! もう少し待っていてくれ!」


 猿男が頭を掻きながら面倒そうに愚痴る。


「おいおい。お前がここにいるってことはペテとテペの奴らがやられたってことかよ。あいつら本当にうぜーな。俺の仕事増やすんじゃねーよ」


「グレドとニゲレナはあいつらを抑えておけ。私は儀式に集中する」


「あいよ大将」


「ピョン子がんばる〜!」


 俺達の前にグレドとニゲレナが立ちはだかる。


「セルフィナはあの猿をなんとかしてくれ」


「わかりました」


「総支配人ユラリ。私に指示を」


「お前はあの兎女をなんとかできたらやってくれ。自信がないなら……」


「了解した。ターゲットを通称兎女に設定。これよりミッション『カミユイ』を開始する」


 ディナクは聞いた事の無い言葉を唱え始めた。


「ラレナディト、アブディート。シニリアステス、ナオ、ブリテス……」


 ペティとファンタが寝かされている台が淡く光り始めた。


「させるか!」


 俺は【遅延】をディナクに向けて使用した。

 奴の鎧が薄らと光りを放つ。

 見たところ【遅延】が効いていない。

 あれは術を防ぐ鎧か何かか?


 俺は術での攻撃を諦めて右手に【空刃】を纏わせ【縮地】で突撃した。


「おおっと、そうはさせねえぜ!」


 グレドが俺の進行方向に立ちはだかる。


「伸びろ延びろノビロッ!【針山はりやま】のように伸びろ!」


 猿男の全身の毛が鋭い針のように一瞬で伸び俺の進行を阻む。

 俺は急停止した。


 うわっあぶねっ!

 危うく全身串刺しだ。

 なんだか【穢れ化】したカンザキと攻撃方法が似ているな。




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