蟻は戦場で鳴く
これまで散々首を落としてきた俺だけど、実はあまり無闇に人は殺しはしたくないんだ。
俺が殺すのは他人に害悪を撒き散らす奴や俺や家族に危害を加える者だ。
だからこういう人同士の戦場でも俺に向かって来た奴しか殺さない。
自分を殺そうとする奴に容赦は必要ない。
これって何処の世界でも同じだろ?
俺は味方の兵士達の間を抜けてようやく前線に辿り着いた。
そこはまさに殺し合いの場。
普段は農耕に勤しむ農民達が殺人者に変わる場所だ。
俺はその悲惨な光景を横目にそのまま前進を続ける。
目指すのは敵の大将のいる陣地。
さっきのダークエルフが大将だろう。
前方から槍の鋭い突き攻撃。
俺はその槍を見切って躱し敵の兵士の首を手刀で跳ねる。
すぐに別の兵士から刀で斬りかかられるがそれも躱し手刀をふるう。
さらに三人が同時に俺に目がけて槍を突き込む。
その時にはすでに俺は【縮地】を使用して兵士達の背後に回っていた。
三つの首が同時に宙を舞う。
ついには上空から矢が降り注ぐ。
そんな攻撃は【硬甲殻】を使えばダメージは無い。
俺に銃を向けた兵士は引き金を引く前に首を落とした。
さらに俺は歩みを進める。
前方から四人の兵士が刀を向けてきた。
全ての斬撃を躱し手刀を一閃。
四つの骸を地面にころがす。
次は頑丈そうな鎧を付けた数人の重装歩兵が斧で突撃してきた。
俺は手刀を覆っている【空刃】の長さを一瞬で三メートル程に伸ばす。
そしてその見えない刃は次々に重装歩兵の喉元を突き抜けた。
兜ごとその兵士の頭が飛ぶ。
俺は歩みを止めない。
全方位を敵に囲まれた。
こういうときは【影鞭】発動だ。
一回転するだけで七人の敵兵の全身がバラバラに斬り刻まれる。
そろそろ敵の戦隊のど真ん中だな。
もう周囲は敵だらけ。
思う存分動ける。
俺はそこでようやく走り出す。
敵の大将のいる陣営に向かって走る。
攻撃してきた的には容赦なく【影鞭】をしならせ切り刻んで進む。
俺が走り去った後には全身バラバラの惨たらしい死骸が転がり、まるで地面をレッドカーペットのように朱色に染めた。
俺を止められる奴はいないのか?
このままだとすぐに大将を殺しちゃうよ。
陣地まではあと三百メートル程度。
もう少しだ!
早くこの戦いを終わらせて露天風呂でゆっくりしたい。
まだまだ旅館の発展はこれからだ。
こんな戦で時間を取られている場合じゃない。
その時右から異様な気配を感じ、見るとそいつはすでに刀を振るっていて刃が俺の首一センチのところまで迫っていた。
こいつ早いっ!
「【重唱縮地】!」
紙一重で斬撃を避けた俺は少し距離をとってそいつを見た。
俺に一撃を浴びせようとした男は巨体で灰色の洋服を着ている。
顔以外の全身の肌は土色の鱗に覆われていて明らかに人族じゃない。
そいつは笑顔で俺を見ていた。
「あんれ〜、躱された? ぼくちんの攻撃。躱された?」
ぼくちん?
なんだこいつ頭弱い系か?
それに肌に鱗がついてる。
どういう種族なんだ?
俺はそいつの能力値を見ようとアウレナに意識を向けた瞬間。
その鱗野郎が俺の背後にいた。
やっぱり早いっ!
既に奴の刀は横薙ぎにされていて俺の腹数センチまで迫っている。
俺は再び【重唱縮地】。
その鱗野郎の刀は俺を空振りしたあと、勢いをそのままに周囲の味方の兵士達を豆腐のように切断してしまった。
おいおい、味方も関係なく殺すとかクズ族なのか?
今ので十数人死んだぞ。
「あんれ〜、また躱された? ぼくちん達の攻撃。また躱された?」
ぼくちん達?
その言葉に違和感を覚えた直後、俺は左右から二人の鱗野郎に斬撃を向けられていた。
分身かっ!?
いや違う!
俺はその二本の刀も見切ってなんとか躱した。
その場所から飛び退き二人になった巨体の鱗野郎共を睨みつける。
「ほうら〜、またまた躱された? ぼくちん達の攻撃。またまた躱された?」
「あんら〜、躱されたね〜。ぼくちん達の攻撃。躱されたね〜」
こいつら瓜二つの容姿だ。
分身の気配じゃないから双子かなにかだろう。
それにしてもこいつらの強さは一般兵とは雲泥の差だな。
何より動きが速い。
覚醒前の俺の能力ではこいつらの斬撃をくらっていたかもしれない。
それくらいに速い。
こいつら何者だ?
俺は再び鱗野郎のステータスを見ようとしたが斬り掛かられ断念。
そしてまた紙一重で躱す。
こいつら俺に自分たちの能力を見せないようにしている。
アウレナに意識を向けたその一瞬の隙を狙って攻撃してきてるな。
強い。
俺はこいつら相手に一人で勝てるのか?
たぶん術を使おうとすればそれもまた隙となって襲われるだろう。
【遅延】を使えればこんなやつら楽勝だったのに。
あ、先ほど鱗野郎共に斬られそうになった両脇腹から血が滲んでいる。
もしかしてこいつらも【空刃】を!?
動きが速い上に【空刃】は厄介だ。
「あっ、見て見て〜、斬れてる。斬れてるよ〜」
「あっ、見た見た〜、斬れてる。斬れてるね〜」
そのときその鱗野郎共の表情から笑顔が消えた。
「なんだ、弱え〜じゃん。つまんね」
「ほんと、弱え〜じゃん。殺すか」
鱗野郎共は同時に俺に斬り掛かった。
斬撃斬撃斬撃斬撃からの斬撃斬撃斬撃!
そこから先の俺の動きは全て【重唱縮地】だ。
目で追うのがやっとの斬撃の嵐が全方位縦横無尽に襲い来る。
さらに【空刃】を纏わせているため次々に皮膚に軽い切り傷が増える。
このままではジリ貧だ。
もっと早く動かないと躱すだけで攻撃に転じることもできない!
そう考えていると鱗野郎共がさらに速度を上げてきた。
「「そろそろ死ねっ!」」
鱗野郎共の刃が先ほどよりも速い速度で迫る。
俺はその時すでにあるスキルを使っていた。
そのスキルは蟻のさえずりと書いて【蟻囀】だ。
「がはっ!」
「ごはっ!」
俺に刃を向けたはずの鱗野郎共は鼻や耳から血を流し地面に転がる。
「な、なにがっ?」
「お、おきたっ?」
俺は二人に近づくと手刀を振るい頭と胴体を切り離した。
実はヘヴンズアントには音を出す器官があって鳴く事ができるんだ。
その能力を攻撃に昇華したのが【蟻囀】という蟻スキル。
簡単に言えば超音波攻撃だ。
元々言葉の話せないヘヴンズアント同士が意思疎通するためのスキルで、その超音波を増大させると生物に有害な超音波震動を作り出す。
脳や三半規管に重度の障害を与え死に至らしめる事も可能だ。
ただ効果範囲を限定できないという欠点もある。
だからあまり街中や人混みの中では使えないスキルだ。
その証拠に俺の周囲五十メートル程の敵兵士達が鼻や耳から血を流して地面に倒れていた。
手を抜いたから死んでいないだろう。
ようやく鱗野郎共の能力値が見れるよ。
二人とも能力をみたけど、名前以外は全く同じ能力値だった。
だから一つにまとめて表示。
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◆ペテ・ウラル
◆テペ・ウラル
種族:ホムンクルス 性別:男性 年齢:5 職業:特殊兵
LV:23 HP:0 MP:1150 SP:890
物理攻撃力:2000 物理防御力:2100 敏捷力:6500
術効力:400 術抵抗力:790 幸運:310
アクティブスキル:空刃3、俊足3
パッシブスキル:命令厳守、刀術3
称号:作られし者、七番試験管育成者、幼稚
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ホムンクルス?
たしか人工生命体だっけ?
この異世界にはこんな奴らもいるのかよ。
スキルはあまり習得してない。
二十三レベルにしては攻撃と防御がやけに高いな。
特に敏捷力が異常だ。
速度を活かして戦うタイプだったか。
なんだったんだこいつらは。
炸裂弾の使用や切れ味の良すぎる刀。
それにホムンクルスを戦に起用する反乱軍って普通の軍隊じゃないよな。
そうして俺は敵の大将がいるだろう陣営の方向を眺めると、またまた嫌な気配を放つ奴らがこちらに向かって歩いてくる。
全部で五人。
着ている洋服はペテとテペと同じで灰色だ。
気配もそっくりだから、こいつらもたぶんホムンクルスだろう。
それぞれ容姿が違うから兄妹ではないようだけど。
その中の全身毛もじゃの猿の獣人らしき奴が頭を掻きながら口を開いた。
「わお、ペテとテペがやられてる。いい気味だ。あいつらうざかったから」
頭にでかい牛の角を生やした痩せた男が猿を戒める。
「そういう事を言うんじゃないわよ。あんなでもあたし達の仲間でしょう?」
背が小さく大きなクチバシの鳥男がにやけて笑う。
「あはははははっ! 仲間? お前いつからそんなに冗談うまくなったの?」
口から尖った真っ白の牙を剥き出しにした猪の獣人が唸る。
「グルルルルル……齧る貪る引き千切る! そして喰う!」
髪の毛が羊の毛のように白くてモコモコな少女があくびをした。
「ふぁ〜あ。帰りたい……あ、何処に帰ればいいか忘れた……」
俺は警戒しながら話しかける。
「なんだお前ら。さっきの双子の仲間か?」
猿の獣人らしき奴がクククと笑う。
「仲間じゃないね。ウザ友ってやつだ」




