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開戦

 



=====

 地上生活、百七十二日目。

 午前五時八分

=====


 場所は妖精の森のさらに西に広がる見渡す限りの荒野。

 低木や岩が所々にあり数キロさきまで見通せる平な場所だ。


 現在この荒野では日乃光国軍と反乱軍が睨み合っている。

 東江の都とその周辺の領地から急遽集められた国軍は総勢三万六千。

 対する西側の大名達率いる反乱軍の兵士の総勢は二万二千。


 俺が今いるのは国軍の後方に位置する補給部隊のいる辺りで、緩い丘の上だから戦場全体が見渡せる。

 オウカの計らいで戦に参加できたのはいいけど、あのデバガメの指示でかなり後方に追いやられた。


 なんでも前に俺がいると目障りだとか言っていたな。

 俺は誰の指示を受けなくてもいい立場だけど、戦の邪魔はしたくないから今のところは言う事を聞いている。


 まあ結局前にいても後ろにいてもやる事は同じだ。

 敵が攻めて来たらぶっつぶす。

 それだけだ。


 数的にはこちらが有利に見えるが実はそうでもない。

 反乱軍はどうやって調達したのか、大陸の最新式銃器や大砲などの装備が数多く見受けられる。


 これが意味する事は一つだ。

 反乱軍の背後に大陸のいずれかの大国がいて援助している。

 オウカから聞いてはいたけど、まさか内乱を起こして内側から国を乗っ取ろうとしているなんてな。


 まさかこの国もうすぐ無くならないよな?

 当然そうなるとまだ国の予算に頼らざるおえない我が旅館も共倒れだ。

 旅館を守るためには是が非でも国軍が負けるような事があってはならない。

 そのために俺は国軍の側にいるんだから。


 朝日が荒野を照らし始めた。

 両軍の陣営から鬨の声が上がった。


 反乱軍の中から馬に乗った銀色の髪の顔立ちの凛々しい男が現れてこちらに向かって来る。

 あいつは反乱軍の大将だろうか。

 肌は浅黒く耳は尖っていて容姿の整った男だ。


 もしかしてペティと同じダークエルフ族?

 この国で将の立場に人族以外が就く事はめずらしいのに。

 そいつの馬の側には一人の歩兵が追従していた。


「国軍に告げる!」


 その男の声は拡声器のように大きく荒野の兵士達全員に響き渡る。

 あの男の側で控えている兵士は【拡声】スキルを使う従者だったか。


「我らはこの国の未来を憂いて決起した! この国は私利私欲に走り庶民の事など微塵も考えぬ者が治めている!」


 これはあれだな。

 戦闘前に敵の兵士の戦意を削ごうという作戦だ。


「近年の年貢の取り立て量増加は何故だか知っているか! そういった腐った豚共の腹に入っているのだ! 最近家族に満足に食事をさせたのはいつの事だ? 物乞いをする子供が増えたと感じた事は? 将来に不安は感じないのか?」


 あの男の言っている事はほとんどの庶民が一度は感じる、多くの人の感情に訴えるものだ。

 反乱軍が正義で正規軍が悪だという擬心を植え付けようとしている。


 なかなか上手いやり方だな。

 あんな事を言われたらいざ戦う時に迷いが生じる。


「お前達は許すのか! 搾取され続けるこれから数十年という長い人生を! 我らは国を変える為に立ち上がった! 民による民の為の国を作るのだ! 一部の豚共だけが益を受ける国は我らが滅ぼす! 我らの考えに賛同する者はこの戦場より去れ。去る者は追わない。しかし戦う意思を見せた者はこの国を蝕む肥えた豚の手先として成敗する!」


 なるほどな。

 反乱軍と戦う者は悪だと言っているのか。

 俺は旅館さえ守れればどっちでもいい。

 早く始まってくれないかな。


 こちらからも馬に乗ったデバガメが進み出た。


「なにを抜けぬけと逆賊の分際で!」


 ダークエルフの男はデバガメを無視して反乱軍の陣地に戻っていった。

 デバガメはコケにされたと思ったのか顔を赤くして怒り心頭だ。


 あいつ大丈夫か?

 戦場では冷静さを失った者から死んでいくぞ。

 まあ、あいつが死んでも痛くも痒くもないけどな。


 完全に朝日が昇りいよいよ両軍の正面衝突が始まる。

 先に動いたのはこちら側だ。

 動いたというか逃げ出した。


 数にして千人くらいか。

 一目散に都の方角へ走って逃げている。

 逃げている者の中には逃げようか迷っている者たちを扇動する奴らもいた。


 あの扇動している奴らはサクラだな。

 反乱軍が前もって潜り込ませておいたやつらだろう。

 千人程が逃げ出したようだけど、軍全体に及ぼした影響は計り知れない。

 実際に逃げた仲間を見て残っている奴らの戦意はかなり低下するからな。


 それでも正規軍の数の優位は覆らない。

 いよいよ両軍の戦が始まる。

 デバガメが戦闘開始の合図を出したようだ。


 最初は術や矢、鉄砲による遠距離攻撃の打ち合いだ。


 程なくして両軍共に術や矢の応酬が始まった。

 術師の人数は少ない。

 しかし、巨大な火の玉を作って敵陣の真ん中に打ち込んでいる。


 術攻撃はなかなか範囲が広いんだな。

 兵士達は密集してるから有効な範囲攻撃となっていた。


 山なりに降り注ぐ激しい矢の雨も大勢の兵士の命を奪っていく。

 あれだけの矢が降り注げばこれも範囲攻撃の一種だな

 躱す事もできないだろう。


 そして弓より有効射程の短い銃を持つ兵士達は最前線で撃ち合っていた。

 やはり最新式の銃をもつ反乱軍のほうに武があるな。

 後装式の銃だから玉込めの速度が速い。

 え、反乱軍に撃たれた国軍の兵士の体が弾け飛んでいる。


 あれは炸裂弾だ。


 炸裂弾は弾の内部に爆薬とこれに着火するための発火薬を仕込んだ弾で、着弾の衝撃で炸薬が爆発する弾丸だ。

 日乃光の国では大砲の炸裂弾さえ開発さえていないというのに。

 どうしてそんなものを反乱軍が使っている?


 元々口径の大きな大砲で使われ、城壁を爆破するためにつかうようなものだ。

 それを小型化できるのはこの世界の文明レベルではまだ無理なはず。

 恐らくあっちには文明の進んだ世界から転移してきた俺のような異者がいる。

 銃撃戦では圧倒的に劣勢だ。


 MPが無くなったのか術の応酬が止んだ。

 しばらく矢と銃の応酬が続いていたがそれもまばらになってきた。


 次は槍による突撃だ。

 両軍の槍を持った前衛が突撃していく。

 そして次々に串刺しにされた兵士達が骸となって地面に転がっていく。


 さらに前衛の兵士が刀の届く距離まで近づくと、槍を投げ捨て刀剣などの近接戦闘用の武器を用いた白兵戦が始まった。


 おお、頑張ってる頑張ってる。

 両軍の白兵戦力は互角?

 いや、これも向こうが優勢だ。

 

 どういうわけか向こうの刀の切れ味が数段上だ。

 国軍の兵士を刀や鎧ごと両断してしまっている。

 あの刀に何らかの秘密があるのかもしれない。


 パッとこちら兵数は二万九千。

 反乱軍は二万くらいになっている。


 こっちは兵士を七千失い、向こうの被害は二千か。

 劣勢が続いてるな。

 あのデバガメの大将は何をやってるんだ?

 あ、いた。


「ええいっ! 何をしている! 突っ込め! 根性だっ! 殺せえいっ!」


 ああ〜、あれじゃあ駄目だ。

 ただ喚いているだけじゃないか。

 開戦前に向こうの挑発で冷静さを失っている。

 根性だけで戦争に勝てたら、昔の日本軍は世界統一してるっつうの。


 これ以上無駄に犠牲者が出ないうちに動くか。

 俺はデバガメの側まで歩み出る。


「なあ大将。俺が前線に出るから兵を引いてくれ」


「はあ!? 何を言っている! そんな事ができるわけないだろう! 敵に背中を見せろというのか!?」


「ああ〜、そういう意地を張るのはいいから、兵をどけてくれ」


「う、うるさい! お前の言う事など聞くか! 私が大将だ!一番偉いんだぞ!」


こいつは子供かっ!

こんなのが大軍を指揮しているなんて日乃光もほんとに腐ってるな。

俺も向こうの味方して旅館に被害を及ばないように頼んでみようかな。


というかこいつと話すのも面倒だ。

自由にやらせてもらうかな。

俺はデバガメを無視して前線に向かって歩き出した。




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