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不吉な預言

 



=====

 地上生活、百六十三日目。

 午前八時三十分

=====


 俺はエウロピスに頼んでいた中庭の様子を見に行こうとして、一人で館内を歩いていると後ろからストレッドに呼び止められた。


「総支配人ユラリ。質問がある」


「ん? ストレッドか。どうした?」


「あの時、私の手刀を止めたな?」


「ああ。都で初めて会ったときか? あれはさすがに見逃せなかった。あのままお前が用心棒を殺していたら、お前ら奉行所の役人に追われてたからな」


「それはどうでも良い」


「いや、よくないだろっ」


「……私はあの時全力で突き刺した。しかし、お前に止められた」


「俺は少しばかり力には自信があるんだ」


「少し? あれが少しなものか。私の全力を押さえられるお前は一体何者だ?」


「え、何者って言われてもな。旅館の総支配人だけど」


「……お前の情報を参照しようとしても能力値は平民。なのにその力」


 まあ、そうだろうな。

 俺の強さは黒い陰のスフィアで得たものだから、白く輝く陽のスフィアで獲得した【鑑定】スキルでは俺の能力値を確認できない。


 それを言ったらストレッドだって何者だよって感じだ。

 能力値はバグってて見れないし、イナンナみたいに眠らず飯も食べないで活動し続けている。


 あ、でもたまに外に出て太陽に当たっているのを見かける。

 もしかして光合成でもしているんだろうか。


 植物系の種族?

 いや、太陽光発電をしてるのか?

 なんにせよまるで正体がわからない奴だ。


「というか、お前さ」


「なんだ」


「そのボロ布みたいな黒い外套、脱がないのか? ここ旅館の中だぞ」


「お前には関係ない」


「いやいや、そんな格好で館内を歩かれたら客への印象が悪いだろ?」


 ストレッドは俺の言葉を完全に無視してボロ黒外套を翻し、旅館のロビーへ向かっていった。

 口入屋での職業訓練へ向かったんだろう。


 まだここに来たばかりで俺を信用できないのは分るけど、あんなにガンガン殺気を向けてくるのは止めて欲しい。

 俺が少しでも隙を見せたらブスリと……。

 

 あれ?

 そういえばもう一人俺を殺しそうなツンツンした娘がいたな。

 幸い俺以外には殺気を向けることはないからいいけどさ。


 俺は旅館の廊下から中庭に出て草木の状態を確認する。


「おおっ……!」


 エウロピスに旅館周辺の樹々や草花の世話を任せてから初めて中庭を見に来たけど、なんというかキラキラ輝いてる?

 その表現が相応しいかどうかわからない。

 だけど、そう感じるほどに草木が活き活きとして鮮やかな緑がまぶしい。


 旅館の中庭を初めて見たときと比べて天と地ほどの差だ。


 元々中庭の地面には玉砂利を敷き詰めてあっったり所々に庭石や飛び石もあったけど、それを引き立てるように苔類が元気に数種類生え茂っていてすごく調和している。


 活力に満ちた緑の植栽がそれに彩を加え、風情あふれる空間に庭造り素人の俺でも目を奪われた。

 まるで生きた絵画を見ているかのようだ。


 澄んだ水の池の水面を見ると睡蓮が水の上にぷかりと浮かんでいて、優しい桃色の花が開き幻想的で情緒ある雰囲気を醸し出している。


 あまりの完成された美の前に俺はしばらくその場から動けなかった。

 その時、姿は見えないがエウロピスの声が聞こえてきた。


『中庭を美しい音色で調律してみましたが、いかがですか?』


「……あ、ああ。想像以上だよ。まさかここまで良くなるとはな」


『ここまでできたのは、あなたの命が奏でる美しい音色があってこそです』


「これからも頼むよ。エウロピス」


『はい。お任せ下さい陰と陽の未来を託されし者よ』


 それからエウロピスの気配は感じなくなった。

 周囲をよく見ると俺の他にも中庭に出て来て庭の美しさに足を止めている客が数人いる。

 これほど美しい中庭なら旅館の宣伝文句に加えてもいいだろう。

 あとでマコトに文章を考えてもらおう。


 俺が中庭を歩きながら美しい景色を楽しんでいると、セルフィナからの【念話】が届いた。



『ユラリ様。今どちらですか?』


『今中庭を散歩中だけど、どうかしたのか?』


『い、今、預言の言葉が脳裏に……』


『預言だって!? 分った今からそっちに向かう』


『はい、お願いします』


 俺は急いで事務室に駆け込んだ。

 そこにはセルフィナとイチゴとイナンナがいた。


「それで? その預言っていうのはどういうものだ?」


「はい。それはこうでした」


 セルフィナの表情は暗い。

 彼女はゆっくりと預言の言葉を口にする。


「……四つの季節を廻る国。その国の内側より暴風起こりしとき、多くの灯が吹き消されるだろう。暴風を鎮めるのは世界を切り裂く二振りの刃と死の旋律。群れから零れ落ちた地獄の王が天秤の子に跪き、世界に新たな時代の幕開けを知らせる警鐘が鳴り響く。それは更なる戦への始まりの序曲……」


「セルフィナ。どういう意味か分るか?」


「い、いいえ、わたくしにもよく分かりません。しかし、はじめにある四つの季節を廻る国というのは日乃光の国だと思います」


「その根拠は?」


「日乃光の国は海に浮かぶ浮き島で、一年をかけて大陸にある四大国の周囲を回ります。その四つの国の気候にはそれぞれ特徴があり、大陸東のアイゼナーグは春の国、南のアル・アトラーンは夏の国、西のトランゼシアは秋の国、北のレヴィドットは冬の国と言われています」


「なるほど。つまりその四つの季節を周回している国は日乃光だけという事か」


「はい」


「この国で何かが起きるという事はわかった。暴風、地獄の王、警鐘に戦か。言葉だけ聞くとあまり良い【預言】ではない気がするな」


「はい。わたくしもそう思います」


 手遅れにならないうちに対策を練らないと。

 イチゴは心配そうな表情で俺の着物の袖をつまんだ。


「ねえユラリ。もしからしたらこの国で戦が起こるかもしれないわ」


「え、イチゴ? この【預言】を解読できたのか?」


「いいえ。でも『その国の内側より暴風起こりしとき、多くの灯が吹き消されるだろう』という部分はたぶん内戦が始まるという意味だと思うの。商人達の間では戦が始まるという意味の隠語があって、それを『嵐がくる』と言うのよ」


「なるほどな。暴風と嵐は意味が似ている。もしイチゴの言う通りだったらこの国の内側から戦いが始まる。つまり内戦が始まるという意味になるのか」


「確証はないわ。でも父上経由で他に気になる話を聞いたの」


「どういう話だ?」


「東江の都から西に領地を持つ大名達が、ある特定の食料を数ヶ月をかけて少しずつ備蓄しているらしいって」


「それってもしかして、米や味噌、梅干しとかじゃないか?」


「え? どうして分ったの?」


「この三つは戦をするときの定番糧食だからな」


 地球での知識では日本の戦国時代では干し飯ほしいいや煎り米、焼みそや梅干しが戦をするときの食料になっていたはず。


 干し飯ほしいいとはその名の通り、白米を干したもので天日で2日程干せば半年以上もつ保存食で、煎り米も米を煎ったものだから保存が利く。


 焼みそも保存がきくので干し飯ほしいいと一緒に湯でもどしてお茶漬け感覚で食べていた。


 梅干しは一粒が小さく携行しやすいうえに、汗をかいた時の塩分補給に最適だから戦の時には常備されていたらしい。


「これらを集めるという事は戦の準備をしているという事だ」


「ユラリ様。わたくし達の旅館は大丈夫でしょうか」


「大丈夫だ。何が起きても俺がこの旅館とお前達を守ってみせるから」


「はい。わたくしも非力ながらユラリ様のお力になりたいと思います」


「あたしもできる事は協力するわ。戦う事はできないけど、あたしの計算能力が役に立つかもしれないし」


「イナンナは旅館の警備。ユラリの為にこの場所を必ず守る」


「セルフィナにイチゴ、それにイナンナ。お前達の気持ちは嬉しいけど戦いは俺の仕事だ」


「ユラリ様!? わたくしも共に戦います!」


「その気持ちだけで嬉しいよ」


「し、しかし……」


「それにまだ戦は始まっていないんだ。それまで準備できる事はしておこう。もしかしたらこの預言が内戦を予告するものじゃないかもしれないし」



 一週間後、セルフィナの【預言】は的中してしまった、




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