金貨三枚
俺は旅館に向かう為、オウカの従者に付いて歩いていた。
城内を見たところ、この国の城は日本の城と構造がそっくりな事に気付く。
廊下を進んで外に出ると城壁に三角形の穴が開いている。
これは狭間と呼ばれ、鉄砲や弓で攻撃するための穴だったはずだ。
その三角穴から城の外を見てみると、周囲には掘りがあり水が満たしてある。
付近の川から水を引いてきているんだろ。
おお、城下町も広いな。
さすが三百万人の都だ。
黒い瓦屋根で統一されていて、着物の人達が道を往来している。
整備された河川もあって船の行き来も盛んだ。
まるでテレビの時代劇を見てるようだ。
オウカの話しでは東江の都は東西南北で分けられているらしい。
東町、西町、南町、北町。
それぞれに奉行所が設置され、各種の公共サービスを提供しているという話しだったな。
俺は城内の敷地にある広場に連れてこられた。
そこには地面すれすれに浮いている船があった。
俺の記憶では外観は和風のクルーザーだな。
まあ俺の知っているクルーザーは空中に浮いていなかったが。
情報を見てみよう。
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◆空船
零石を動力にして宙に浮く乗り物。
将軍や大名などの貴人が乗るために、豪華な装飾が施された船は空御座船と呼ばれる。
形式:中型空船
全長:二十メートル。
最大乗員:十二人
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船の後方には舵がついていて、船の中央には屋根付きの客席がある。
庶民は篭屋や乗り合い馬車などで移動するのが普通らしいので、俺がこの船に乗るのは場違いだろうが、オウカの計らいだろう。
ん? そう言えば零石ってなんだ?
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◆零石
穢れの核。穢れを浄化すると得られる内部に光が宿る透明な石。様々な術具の動力として使用されている。力を失っても再び術によって力を充填する事ができ、大きいものはそれだけ多くの術力を溜める事ができるため、主に空船の動力として使用される。
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ふーん、穢れからドロップするアイテムなんだな。
電池のようなものか。
空船の他にも色々な用途があるみたいだ。
俺は空船が接岸していた乗り場の階段を昇り、宙に浮く空船に乗り込んだ。
その際、船が揺れるかと身構えたが全く揺れなかった。
どういう仕組みなんだ?
従者に聞いても詳しくは知らないというので、後でオウカにでも聞いてみよう。
操舵する人は女性か。
服装は城内で給仕をしていた奴隷達と同じだから、この人も奴隷という事なんだな。
それから俺はその奴隷が操舵する空船に乗り旅館に向かった。
旅館は西町を越えてしばらく進んだ街道沿いにある。
空船は地面から五メートルほど上空に浮きながら西へ進んで行く。
やはり、空船自体が珍しいのか、道行く人々の視線を集めているな。
あ、あのお婆さんなんか手を合わせて拝んでるよ。
俺は目立ちたくないんだけど、かなり目立ってしまっている。
普通に篭屋を使えばよかったかも。
時刻は夕方になっていて空はすでに茜色だ。
目的地の旅館が視界に入る。
旅館の周りは手入れされた林が広がっていて、そのすぐ側に川も流れていた。
俺は旅館から少し離れた街道に降ろしてもらい、送ってくれた従者と奴隷の女性にお礼を言ってから、旅館の正面玄関に立って建物の外観を眺めた。
「ここか。潰れかけの旅館って聞いてたから、てっきりボロボロな外観を想像していたけど、見た目はちゃんとした趣のある和風旅館じゃないか」
その旅館は木造二階建で黒い瓦屋根の和風旅館。
正面玄関の上に『日之光旅館』って木の板に墨で書かれている。
旅館の周囲は雑木林になっていて木の香りがする。
川も近くに流れているようで、水の流れる心地よいせせらぎも聞こえていた。
うん、外観は問題なしと。
オウカの話しでは何年も赤字が続いているとの事だが、そんな風にも見えない。
まあ、実際泊まってみなければ分らないか。
前もって客の収容人数を聞いたが、客室総数百五十、最大収容客数五百人以上の大旅館らしい。
そのせいか旅館の敷地面積は一つの小さな村ほどにもなるという話しだった。
しかし、俺以外に客の姿は見えない。
俺は正面玄関から中に入る。
そこは洋風な広い空間になっており、俺の知っている日本の旅館に雰囲気が似ていた。
ロビーというやつだな。
ロビーには受付カウンターがあって、近くにはくつろぐ為のソファーやテーブルなども置いてある。
お土産を売っている売店も見えるけど、今は店を閉めているようだ。
少し離れた位置にはここの従業員だろうか、数人壁に寄りかかって談笑している男達がいるな。
やけに鍛えられた屈強な体つきをしている奴らだ。
作務衣を着ているから旅館の従業員には違いないけど。
あいつら仕事しないのか?
あ、客が来ないから仕事が無いのか。
まあ、いいや。
受付のカウンターに人がいるから、その人に泊まりたいと伝えればいいのだろうか?
「あの、一泊したいんだけど」
受付にいた男は俺を見て少し驚いたようだ。
なんで驚く?
服装はもらった着物になってるし、汚れていもいないよな。
そんなに客が来たのが意外なのかよ。
「あ、はい。一泊ですね。お部屋の種類はどうなさいますか? 金額は上がりますが上等なお部屋もご用意できますが」
「普通の部屋でいいや」
「かしこまりました。それですと、お一人様一泊で金貨三枚となります」
ここに来る途中に従者の人から聞いてたけど、金貨一枚あればちゃんとした飯屋で二十回は食事ができるようだから、分り易く日本円にして一食千円とすると、金貨一枚は約二万円くらいか。
つまり、この旅館の一泊の宿泊料は六万円になるということだ。
高っかいな! そんなに高級な旅館だったのか?
俺は賞金をもらったばかりだから問題ないけどな。
今の俺の手持ちは金貨五十五枚と、一枚二千円相当の大銀貨十枚だから、さっきの日本円換算で百十二万円くらいになる。
空船乗り場に向かう途中で硬貨を数えたから間違いない。
こんなに賞金が高額だなんて、あの暗殺者は悪事を繰り返した悪党だったんだな。
この際だからオウカや従者から聞いたこの国の物価や貨幣価値について、日本円に換算した場合のおさらいをしておこうかな。
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■鉄 貨:1円
■大鉄貨:10円
■銅 貨:50円
■大銅貨:100円
■銀 貨:500円
■大銀貨:2000円
■金 貨:20000円
■五金札:100000円
■十金札:200000円
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だいたい合っていると思う。
「じゃあ、これ」
俺は袋から金貨を三枚取り出し受付の男に渡した。
これで俺の所持金は金貨五十二枚と大銀貨十枚だ。
「偽物じゃないか確認させていただきます。……【鑑定】っ」
受付の男はカウンターに置かれた三枚の金貨を【鑑定】しているようだ。
「はい。確かに本物ですね」
おいおい、客の目の前で【鑑定】するのかよ。
客を信用していないと公言しているようなものじゃないか?
この世界では常識なのかもしれないが、客にしてみればいい気分ではないよな。
改善の余地有りだ。
「それでは、係の者にお部屋まで案内させますので少々お待ちください」




