あんな事やこんな事を
俺とセルフィナ、それとヒラガとストレンジレッドの四人は旅館へ帰る途中、西町の大通りで瓦版屋の男が声を張り上げているのを耳にした。
「さあさあお立ち会い! 大陸のトランゼシアに不穏な動きだ! なんでも同盟国だったレヴィドット皇国との関係が悪化しているらしい。四大国の戦争が終わったばかりだというのに軍備増強をしているという噂もある!今後の動向に注目だ!」
それを聞いたセルフィナは俺の手を少し強めに握る。
俺は彼女の様子を伺うと顔が青ざめているように見える。
「セルフィナ。大丈夫か?」
「……ええ。平気です。ちょっと両親の事を思い出していただけです」
セルフィナの両親であるフォルテ国王と王妃は、トランゼシアの皇帝に惨い殺され方をしたんだったな。
それも彼女の目の前で……。
チドリやサツキから聞いた話では、トランゼシアの現皇帝には俺の友人であるシュンが即位しているらしい。
旅館の経営が軌道に乗って落ち着くまではどうしようもないけど、セルフィナの復讐を手伝うという約束は守らないといけない。
つまり、セルフィナの両親の仇であるシュンを殺すという事だ。
俺に友人を殺すなんてできるのか?
チドリやサツキとは三十年ぶりに再会したけど、彼女達から受ける印象は昔のままだった。
でもシュンはそうじゃないかもしれない。
こっちの世界に来てからシュンに何があったのかは知らないが、何かが原因で性格が変わってしまった可能性もある。
一度シュンと会って話をしてみないとな。
俺は地球で過ごした友人達との楽しい日々を思い出す。
そしてこの異世界に来てから知り合った妻達や従業員達との毎日を思い出す。
できればどちらも失いたくはない。
今の俺の力でどちらも守れるんだろうか……。
俺達四人はロビーから旅館の中に入った。
セルフィナはまだ顔色が悪かったので自分の部屋で休ませる事にした。
彼女は今日一日休日だからゆっくりしていて欲しい。
ヒラガとストレットにはそれぞれ従業員寮へと案内し個室を割り当てた。
この旅館の事やここで働く上での注意事項なども歩きながら伝えている。
「それでユラリ君。我が輩の仕事場は何処になるのかな?」
「ああ、今案内する。ついて来てくれ」
俺達三人は調理場を通り過ぎ地下への階段を下りる。
旅館の地下は石壁の倉庫になっていて使われていない部屋が幾つもあった。
「ここの地下室を使って酒を造って欲しい。醸造に必要な道具や施設は俺が手配しておくよ」
「うむ。夏季でも涼しくて良い場所だ。ここならば良い酒ができるだろう。それに外気を取り込む換気口も備わっているからカビ臭くもない」
そういえば最近熱くなってきたと思ったら、季節は夏になっていたのか。
旅館の仕事や問題の解決に追われて季節を感じる暇もなかったな。
今度妻達を連れて湖に泳ぎに行くか。
実はすでに彼女達の水着を仕立ててもらっていたのだ。
それも地球の女性達が着ている様なやつを俺が作らせた。
一日くらい妻達がいなくても旅館の営業には影響は無い。
それだけ最近の従業員達のスキルレベルは上がってきている。
これもペティやセルフィナの活躍があればこそだな。
その活躍に報いる為にも皆で水着を着て、そう、水着を着て水辺で遊ぶのだ。
決して俺が彼女達の水着姿を見たいがためではないぞ。
これは彼女達を労う意味合いが強いのだ!
嘘つきました。
ごめんなさい。
本当はマジ見たいです。
そしてみんなでキャッキャウフフしたいです。
普段慎み深い格好の彼女達が露出度の高い水着を着て、輝く太陽の下で戯れる様子は格別だろう。
…………おっといけない。
一瞬俺の頭の中で可愛い娘だらけの水泳大会、イン日乃光旅館が始まってしまった。
現実に戻ろう。
今はヒラガ達の事が優先だ。
「なあヒラガ。もし良かったら地下室の一つをお前の研究室にしてもいいぞ」
「い、今なんと?」
「だから一部屋を研究室にしてもいいと」
「うむ。という事はあんな事やこんな事をしてもいいと言うのだな?」
「紛らわしい言い方はやめてくれ……。自由に使ってもいいけど、その代わり酒造りは手を抜かずに頼むよ」
「うむ! もちろんだ。何から何まで世話になり申し訳ない」
早速ヒラガは空いている部屋に入り、背負っていた木箱からなにやらヘンテコな形の妖しい道具や、緑や赤や黄色の液体なんかを出し始めた。
もう研究を始めるつもりか?
研究熱心な奴だな。
「ヒラガについてはそんなところだな。後はストレッドだけど……お前って何か特技はあるか?」
「私は殲滅、破壊、蹂躙、虐殺等には自信がある。撲殺は少々自信が無い」
「そんな危ない事を自信満々に言われても困るんだけど。というか撲殺の自信があっても駄目だから……この旅館で活かせそうな能力とかないのか?」
「わからない」
「ちょっとお前のステータスを見せてもらってもいいか?」
「許可するが不可能だ」
「へ? 不可能って能力値を見るのが? 能力隠蔽でもしてるのか?」
「いや。試しに見てみるといい」
「そうか。じゃあ遠慮なく」




