うなぎの蒲焼き
「これは我が輩の研究道具一式である。【道具箱】というスキルで中の収納空間を広げてあるので、見た目以上に物が入るのだ」
これは俺の【食料庫】みたいなスキルだな。
「それより、本当に我が輩までご馳走になっても良いのかね?」
「ああ、今日出逢ったのも何かの縁だ。遠慮しないで食べてくれ」
「感謝するよユラリ君。鰻の蒲焼きなんて何年ぶりだろうか」
ヒラガは何年も鰻を食べてれなかったのか。
かなり長い間極貧生活をしていたらしいな。
「えっと、ストレンジレッドだっけ? ちょっと言いにくいな。ストレッドって呼んでもいいか?」
「好きに呼べ」
「お前は食べなくていいのか?」
「肯定だ。私には有機物は必要ない」
「有機物って……ああ、食べ物の事か」
こいつも特殊な種族なんだろう。
この世界は俺の想像を超える様々な種族がいるようだからな。
天使とか、神族とか、あとはブタの貯金箱とか?
俺は鰻屋の店主に三人分の蒲焼きを注文し、酒とお新香も頼んだ。
ウナギをさばいて焼き上げるまで長い時間がかかるので、出来上がるまでお新香をつまみながら酒を飲んで待つのが、この日乃光の国では常識なんだ。
「う〜む。旨い! 我が輩、酒も久しぶりだからか骨身にこたえる!」
ヒラガの奴すごく旨そうに酒を飲むんだな。
そういえばこいつの称号に酒好きってあった。
やっぱりドワーフといえば酒だよな。
それに比べてストレッドは一口も飲んでいない。
「ストレッドは酒も飲まないのか?」
「飲酒はできない」
ああ、飲めないタイプか。
それなら無理強いはしない。
セルフィナはあまりお酒に強くないのか、お猪口に数回口をつけただけで頬がほのかに赤くなっていた。
「ユラリ様と一緒にこうしてお酒を飲めるなんてすごく嬉しいです」
「そういえば一緒に酒を飲むのは初めてだな」
「はい。普段はお仕事があるのでお酒は控えているのですけど、今日は飲んでもよろしいですよね?」
「いいけど、セルフィナはあまり酒に強くなさそうだから飲み過ぎるなよ」
「ふふっ。もしも、わたくしが酔ってふらふらになったら、旅館までお姫様だっこしてくれますか?」
「ああ。それは構わないけど」
セルフィナは俺の耳元へ顔を寄せて囁いた。
「……そのままユラリ様のお布団の中へ直行しましょうか。ふふふっ」
それは願っても無いお誘いだ。
でも、セルフィナは少し酔ってるな。
そんな彼女も色っぽくて可愛い。
俺の理性君が真っ先に布団に入って寝てしまいそうだ。
調理場から鰻を焼いているジュワ〜という音が聞こえて来た。
同時に甘い醤油だれの香ばしい香りも漂って来る
鰻の蒲焼きは串打ち三年、割き五年、焼き一生と言われるように、最適な焼きは難しく、この技量は長い修業によって得られるものとされている。
蒲焼に使うタレは醤油や味醂、酒や砂糖などで作られ、鰻の脂や身の汁などがタレに混ざり込んで徐々に風味が良くなる事からつぎ足しながら使う。
蒲焼のたれに味りんの甘さを加えることで蒲焼の味、香り、照りが格段に良くなるんだ。
俺も酒をお猪口で一杯飲んでお新香をかじって待っていると、ようやく鰻の蒲焼きが運ばれて来た。
「うむ。では頂こうか」
「わあっ、香ばしい香りですね、ユラリ様」
「ああ、これは絶対に旨いぞ」
俺達はめちゃくちゃ旨い鰻の蒲焼きを心ゆくまで堪能して店を出た。
それから俺はヒラガの住んでいる長屋に寄って、めちゃくちゃ重いタンスを担がされた。
「いや、まあ、突然ヒラガをスカウトしたのは俺だけどさ。ストレッドも手伝ってくれてもいいのに」
「私の役目はマスターヒラガを守る事だ。タンス持ちではない」
「そ、そうか。それにしても重い……」
残念ながらその時のセルフィナはふらふらにならず自分で歩いていた。
もうちょと飲ませれば良かったか?
そうしたら旅館に帰ってラブの営みができたかもしれない。
いやいやいや、落ち着け俺の本能君よ。
ラブの営み目的で無理矢理酒を飲ませるのは良くない事だぞ。
気持ちは分る。
すごく分る!
ほろ酔いのセルフィナと営みたい気持ちは痛い程分るぞ。
だけどそんな事をしたら後でセルフィナに嫌われてしまいかねない。
ここは紳士として真摯な対応をするべきだよな。
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◆パッシブスキル【駄洒落】を獲得しました。
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つ、ついにこの時が来てしまった。
いつかはこのスキルを獲得するだろうと思っていた。
もしかして、あまりにもごく自然に【駄洒落】を言える俺って、シークレットスキルに冗談の天才とかあるんじゃないか?
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◆称号【自惚れる者】を獲得しました。
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ほ、ほんとにごめんなさいっ!
俺が悪かった。
またまた調子に乗ってました!
これからは調子に乗ったりしませんから許して!
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◆称号【自惚れる者】を失いました。
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あ、あぶなかった!
もう少しで痛々しい称号を獲得するところだった!
これからは謙遜に生きるぞ。
それにエロい事ばかり考えるのもやめよう。
そんな事ばかり考えてるからついくだらない事を言ってしまうのかもな。
俺は今ようやく目覚めたぞ。
これからは理性君と共に真面目に生きていこう!
俺を目覚めさせてくれたスキルシステムに感謝だ!
そして、ありがとうっ異世界っ!
セルフィナがまた俺に耳打ちする。
「ユラリ様。お姫様抱っこなしでも布団に直行しませんか?」
「はい! 喜んでっ!」
俺の目覚めは一瞬で終わった。




