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セルフィナと二人だけで

 



=====

 地上生活、百五十五日目。

 午前十時二十七分

=====


 今日は俺とセルフィナの二人だけで東町で開かれていた観賞魚市かんしょうぎょいちを見にきていた。


 観賞魚とは人間に憩いを与えるために水槽や庭の池などで、ペットとして飼育される魚類の事だ、


 現在東町の港の近くにある潮騒通りでは観賞魚の出店が軒を連ねている。

 金魚や錦鯉はもちろん、めだかや熱帯魚まで色とりどりの魚達が水槽の中で泳いでいた。


 俺と手を繋ぎ隣を歩いているセルフィナは、裾にレースを多用した女性らしい白のサンドレスを着ている。

 前に私服としてセルフィナに買ってあげた洋服だ。


 サンドレスとは海岸や高原などで着用することを前提とした、ロングのワンピースの一種で、夏用の背中や肩を広めにあけたドレスの事。

 ふわっと広がる裾がセルフィナの魅力を最大限に引き出している。


 元々美しい容姿のセルフィナが二倍、いや、俺には五倍は美しく見える!

 すれ違うほとんどの人達はセルフィナに振り向いて見とれていた。

 振り向かないのは小さな子供くらいなものだ。

 

 今日のセルフィナは色々な出店に興味を持って動き回っている。

 それなのに俺の手をしっかりと握っていて離してくれない。

 俺はそんな彼女に忙しなく手を引かれるけど、それがすごく嬉しい。

 俺の手を離したくないという好意の現れだからな。


 出店を見て回り俺が特に驚いたのは魔獣魚を売る店もあった事だ。


 魔獣魚は人を襲う獰猛な魚の総称だったはず。

 こんな危ない魚を飼育するなんて酔狂な奴もいるんだな。

 一つ間違えば命に関わるのに。


 魔獣魚の入っている水槽のフタはなんと鉄格子だ。

 厳重に管理されている丈夫そうで無骨な水槽の中には、お世辞にも綺麗だと言えない醜悪な外見の魚がいた。


「ユラリ様。この魚を見て下さい。すごく可愛いですよ!」


 え、まさかこの魚を可愛いと表現するとは。

 目はランランと赤く光っていて、鱗はカラフルを通り越してケバケバしい色合いで、大きな口からはみ出た牙もノコギリよりギザギザだよ?

 セルフィナはこういうのが好きなのか。


「わっ! この青い熱帯魚の色合いも深い海のようで素敵ですね」


 この熱帯魚は本当に綺麗な魚だ。


「なんだかユラリ様と一緒だと何を見ても楽しいです!」


 そう言ってくれると俺も嬉しいな。

 楽しんでくれているようで何よりだ。



 セルフィナの暮らしていたフォルテ王国は海から遠い内陸の小さな国だ。

 だから彼女は今まで食用魚以外は見た事がないと言っていた。

 俺はそんなセルフィナに綺麗な魚を見せたくてあげたくて、この観賞魚市まで彼女を連れて来たんだ。


「なあ、セルフィナ」


「なんでしょうユラリ様?」


「気に入った魚がいたら俺が水槽ごと買ってやるよ」


「え? よろしいのですか?」


「ああ、もちろん。いつもセルフィナには助けてもらってるからな。セルフィナが喜ぶんならクジラでも捕鯨してくるつもりだよ」


「ふふふっ。すごく嬉しいです。ありがとうございます!」


 セルフィナは子供の様に無邪気に喜んでいる。

 普段のしっかり者なセルフィナとは違う一面が見れるのも、二人きりのデートならではかもな。


 それから俺達は出店を見て廻り、ある店の前で立ち止まった。

 大きな水槽に何匹も魚を泳がせている他の店とは違い、その店は横幅二十センチ程の金魚鉢の中に金魚を一匹しか入れていなかった。

 セルフィナはその一匹の出目金を眺めている。


「あっ、ユラリ様! この白黒の金魚、目が大きいのですね!」


「これは出目金といって、普通の金魚の突然変異を交配してつくられた品種だ。比較的丈夫な品種だから飼うのにはぴったりだな」


「そうなのですね。ユラリ様はいつも様々な事を知っていて素敵です」


 実はさっき急いでアウレナで調べた知識だけどな。

 俺だって可愛い娘の前では見栄を張りたいのだ。

 それにしてもこの出目金、何かに似ている。


 あっ、これってパンダにそっくりな柄だ。

 大きな両目や胸びれや背びれ、さらにヒラヒラする大きな尾びれも黒い。

 なのに胴体の色は白い。

 まさにパンダ柄の出目金だ。


「ユラリ様。この子すごく可愛いです。よろしければこの子を買って頂いてもよろしいですか?」


「いいけど、こんなのでいいのか? 他の出店には赤や青の綺麗な魚が売っていたけど」


「この子がいいんです。どこかユラリ様に似た雰囲気を感じますから」


「俺に似た雰囲気? まあセルフィナが気に入ったならいいけど」


「ありがとうございます! 大事に育てますね!」


 俺は天使の様な美しい笑顔を浮かべるセルフィナに見とれていると、その店の店主に声をかけられた。


「ひっひっひっひ! お目が高いねお客さん。その金魚は手に入りにくい品種でね、ちょっと値は張るけど絶対に役に立つ金魚だよ」


 確かにパンダ柄の金魚なんて珍しいよな。

 だけど、役に立つって何に?

 まあ、観賞用としてみんなの注目を集める事ができるから、旅館の受付にでも置けば役に立つけどさ。


「なあ、店主。この金魚の値段はいくらだ?」


「ひっひっひっひ! 金魚鉢を含めて金貨1枚でいいよ」


 金貨一枚という事は二万円相当か。

 金魚にしては高いけどセルフィナの為ならこれくらいの出費は安いな。

 俺はスフィアカードで支払いを済ませる。


=====

 所持金

 金貨49枚

=====


「ひっひっひっひ! 毎度ありがとうございます。あ、言い忘れるところでしたけど、この金魚はちょっと特殊な金魚でして、MPを食べるんです」


「MPが餌?」


「そうなんですよ。この金魚は人の指からMPを吸いますので、お客さんは水面に指を入れるだけですから、餌やりも簡単」


「なんか変わってる金魚だな」


 ここは異世界だから変な金魚がいてもおかしくないか。


「わかった。やってみるよ」


 そのとき少し離れたところが騒がしくなった。

 俺とセルフィナはその方向に目を向けると、そこからは誰かが言い争う怒号が聞こえてきた。

 この東江の都には結構けんかっ早い奴が多いから、こういうのって日常茶飯事なんだよな。


 俺は金魚屋に向き直るとすでに出店が無くなっており、地面に金魚鉢とパンダ出目金が残されているだけだった。


「あら? あのお店の方がいなくなっていますね。何か急用でもできたのでしょうか?」


「あ、ああ、そうかもな」


 なんだか逃げるように消えたようだ。

 こういう妖しい店で買ったものって後で厄介事の種になるんだよな。

 この金魚買って帰って本当に大丈夫だろうな?

 何か曰く付きの危険な香りがするのは俺だけか……?


 しかし、俺のそんな不安を他所に金魚鉢を嬉しそうに持ち上げたセルフィナは、パンダ出目金に名前を付けようと思案していた。


「え〜と、名前は何にしましょう。やはりユラリ様に雰囲気が似ているからユラちゃんでどうでしょうか?」


「え、そんなんでいいのか? 別に俺に気を使わなくてもいいよ」


「この名前がいいんですよ。ほら見て下さい。この子もこの名前が気に入ったみたいですよ」


 パンダ出目金改め、ユラちゃんは嬉しそうに水面から飛び跳ねた。

 ちゃぽんと水面に落ちてから金魚鉢の中をクルクル回っている。


「ん? さっきの騒ぎがさらに人を集めてるな」


 俺達も気なって人だかりに近づき騒動の原因となる者を見た。





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