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労働条件は一流ホテル以上

 



「わたくしが『六花の峰』で働き始めた時。院長先生のように一人一人に思いやりを示せる、立派な仲居になろうと心に決めていたのですわ」


「ファンタちゃん……」


「けれど、いつの間にか人を思いやる事よりも仕事の効率や結果を優先するようになっていました。ペティはそんなわたくしに本来目指していた目標を思い出させてくれたのですわ。ですから、わたくしよりもあなたの方が立派な仲居です」


「そんなことないよ。私はファンタちゃんのすごい仕事ぶりを見て、もっと他の人に喜んでもらえるように頑張らなくちゃと思ったよ!」


「あなたはいつも誰かの為に一生懸命ですのね」


「ファンタちゃんだって、いつも皆の為に頑張ってるの知ってるよ」


 ペティとファンタは自然に微笑み合う。

 ファンタの表情からは気負っている堅苦しさが消えていた。

 今ようやくこの二人が家族らしく見えたよ。

 何はともあれ一件落着か。


 確かに人をもてなす仕事というのは、効率や結果を優先し言われた事だけをすればいいわけじゃない。

 そういえば旅館の若女将だった母さんも言っていたな。


『私たちのおもてなしはね、サービスとは違うのよ。お客様にとって想定内のことをサービス。お客様の期待をいい意味で裏切るような気遣いを、おもてなしと言うの』


 その後に俺がどうすれば客は喜ぶのか聞いたらこう言っていた。


『訪れる人を慈しみ、見返りを求めない思いやりを示し、どんな相手だろうと敬い丁寧に扱うこと。それを忘れずにおもてなしすれば、きっとお客様は喜んでくださるわ』


 そう、それがおもてなしだと俺も思う。


「ねえユラリ」


「どうしたイチゴ」


「その座敷童とかいうのは本当に害はないのよね?」


「ああ、大丈夫だよ」


「そう。よかった……」


 イチゴは安心したのか胸を撫で下ろした。

 普段のイチゴは冷静沈着クールヴューティだから、たまに動揺した姿が新鮮で可愛いくてドキッとさせられる。

 だからちょっとからかいたくなるんだ。


「あれ? イチゴの背後に立っている女の子って、誰だ?」


「えっ……」


 イチゴの顔から血の気が引き、【遅延】にでもかかったようにゆっくりと振り向くとそこには!


「おばけだぞ〜!!」


 変顔をしたマコトがいた。


「ひっ……」


 イチゴはそのまま気絶し全身から力が抜けて倒れそうになる。

 俺は急いでイチゴの身体を抱きとめた。


「うわっ! イ、イチゴさん!? え? ぼくの変顔そんなに怖かったですかね、お兄さん!?」


 マコトは俺達が話している途中から事務室に入ってきていて、イチゴが気付いていないのをいいことに後ろから驚かそうとしていた。


 だから俺も驚くイチゴを見たくてつい便乗してしまったけど、まさか気絶するとは思わなかった。

 ちょっとやりすぎたかな。

 後でちゃんと謝ろう。



 ファンタは明日レヴィドット皇国への帰路につく予定だ。

 彼女なりにペティを心配して少ない休みを前借りしてやってきたと話していた。

 ペティと対決すると言い出した時にはどうなるかと思ったけど、ファンタってなかなか良い奴じゃないか。


 一流ホテル『六花の峰』で仲居頭として働いているだけあって、仲居としても一流の働きぶりだった。

 俺の旅館で働いてくれないかな。

 そうすれば旅館の接客力が大幅に上がるだろう。

 駄目元で聞いていみるか。


「なあファンタ?」


「なんですの?」


「もしよかったらここで働いてくれないか?」


「え?」


「給金は毎月金貨二十枚。週一で休みもあるし従業員寮の個室も与える。客として料理を食べたと思うが、ここの賄い料理は絶品だ。さらにペティと同格の仲居頭として働いてもらうから、それなりの手当も出す」


「え、ええ!? 今なんとおっしゃいましたの? 金貨二十!? 休みに個室!? 賄いも出してくれて手当もあるんですの!?」


「ああ。『六花の峰』より待遇は良くないかもしれないけど」


「い、いえいえいえ、『六花の峰』で仲居頭をしていると言っても、わたくしは奴隷の身分。月給金貨五枚で休みは月に一度。個室なんてなくて大部屋で雑魚寝。食事は自分たちで作らなければいけないという労働条件なのですわ」


「え、一流ホテルっていっても奴隷には厳しいんだな。俺の提示した条件でよければ、ずっと俺の側にいて欲しい。俺にはお前が必要だ」


「え!? ずっと側に!? わたくしが必要っ!? ええ!? こんな奴隷のわたくしを!?」


 マコトがジト目で俺を見ている。


「お兄さん。また罪作りな発言を……。お兄さんは自分の発言力の大きさを知るべきだと思いますよ。日乃光国一の大旅館を仕切る総支配人なんですから」


「俺はそんな偉い人間じゃないよ。皆に助けられてなんとかやれてる形だけの総支配人だ。それで、どうなんだファンタ?」


 ファンタは口をあんぐりと開けている。

 条件に不服なのか?


「ぜ、ぜひ! わたくしのような者でよければあなたの愛人でもなんでも致します! ここで働かせてくださいませ!!」


 愛人とかまで求めてないけど、それだけやる気があるって事だろうな。


「よし。交渉成立だ。ペティもいいよな?」


「はい! もちろんです! ファンタちゃんと一緒にお仕事できるなんて嬉しすぎです! 一緒にご主人様を助けていきましょうねファンタちゃん!」


「ええ、そうですわね! 二人でご主人様を必ず幸せにしましょうね!」


 ファンタの目には嬉し涙が浮かんでいる。

 喜んでいくれてよかったよ。

 ペティも飛び跳ねて喜んでいるから俺も嬉しいぞ。


 こうしてまた一人優秀な従業員が増えた。




 ***




=====

 地上生活、百四十六日目。

=====


 結果発表の次の日。

 ファンタはレヴィドット皇国の一流ホテル『六花の峰』へ帰っていった。

 うちの旅館で働くには、奴隷の身分を解消するための手続きをしないといけないからな。


 そうなると当然身請け金が必要になってくる。

 だから俺の給料三ヶ月分の金貨百五十枚をファンタに渡したんだ。

 これだけあればファンタと彼女の連れの五人のハイエルフ達も身請けできる。


 これからもっと客が増えてくると仲居もさらに必要になるから、この機会に経験者を増員しようと思ったんだ。


 五人のハイエルフ達も俺の旅館で働けると聞いて飛び跳ねて喜んでいた。

 彼女達はなぜだかファンタの事を様を付けて呼ぶ。

 彼女が仲居頭だからそういう呼び方なのかもしれない。


 奴隷の身分から解放された彼女達が戻ってくるのは、今から三日後だ。

 ちょうど賭場や喫茶店ができて客も増えるタイミングだから丁度いい。


=====

 現在の所持金

 金貨50枚

=====




***




=====

 地上生活、百四十九日目。

=====


 賭場と喫茶店が開店しファンタとハイエルフ達も首から奴隷紋を無くした状態で戻ってきた。

 何も問題なく『六花の峰』を退職できたようだ。


 さあ、これから忙しくなるぞ!

 仕事が、ではなくセルフィナとのデートの事だ。

 俺はセルフィナと何処に行くかウキウキワクワクで考えるのに忙しかった。


 しかし、死ぬ程大変なデートになる事は、この時の俺には知る由もない。

 この【トラブル体質】レベル五の俺を舐めるなよ!




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