女のプライドを賭けた真剣勝負!
※ユラリ視点。
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地上生活、百四十五日目。
午前七時五十八分。
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そんなこんなでペティとファンタは、どちらがより優秀な仲居かを競う事になった。
今回の仲居勝負は客に周知してある。
ちょっとしたイベントにしようとマコトが提案したからだ。
言い出しっぺのマコトは大きな紙で告知広告も作ってくれた。
審査員は旅館を利用するお客さんと仲居と関わりの深い従業員達。
審査方法は受付に設置した俺お手製の投票箱へ、より優秀な仲居だと思った方の名前を書いて投票してもらう。
投票期間は今日の午前八時から明日の午前八時までの二十四時間。
より多くの票を獲得できた方が勝利する。
俺は二人の働く様子を観察することにした。
どうやって観察するのかというと、俺の【縄張り】内でしか使用できない支配者スキル、【地図化】と【指定追跡】を使う。
【地図化】は俺の【縄張り】内を立体地図として表示するスキル。
【指定追跡】は【地図化】された【縄張り】内の指定した人や物の動きを把握するスキルだ。
この二つのスキルにアウレナの鑑定機能を上乗せするとあら不思議。
総支配人室にいながらリアルタイムでペティとファンタの行動を詳細に把握できるんだ。
「ペティ。わたくしはダークエルフ族の貴方になんか絶対に負けませんわよ!」
「あ、あの、本当に勝負しなくちゃ駄目ですか?」
「当たり前じゃないの! それともなに? 理想の夫を持ち将来も約束された勝ち組のあなたには、毎日仕事に明け暮れて恋する暇もないわたくしと勝負する価値もないというのですか?」
「い、いえ、そんな……」
ファンタの後ろには彼女を応援する女性達。
みんな色白で耳が長いからハイエルフだろう。
彼女達の見た目は十代後半。
ペティとファンタの見た目は十代前半だから、応援している彼女達のほうが年上なんだろうな。
実際の年齢は分らないけど。
さっきファンタに紹介されたけど、みんな『六花の峰』で働く仲居らしい。
休暇を利用して敵情視察にやってきたんだとか。
それを総支配人の俺の前で言うのはどうかと思うけど。
まあ、つまりファンタの事が心配でついてきたという事だろう。
俺は勝負開始の合図をした。
「じゃあ二十四時間だけの勝負だ。用意はいいな」
「さっさと初めてくださる?」
「え? あのっ!」
「じゃあ、始めっ!」
ペティはあまり気が進まないようだ。
優しいペティは人と競うなんてしたくないんだろうな。
俺は総支配人室の自分の椅子に座り二人を観察する。
俺の執務机の上には半透明で立体的なこの旅館の地図が浮かんでいて、ペティは赤い点、ファンタは青い点で二人の現在位置が示されている。
俺も勝負の結果が楽しみだ。
もちろんペティの勝利を疑ってない。
俺の愛する可愛いペティちゃんはすごいんですから!
ラウンドワン。
ファイト!
まず始めに朝食の配膳と下膳の勝負だ。
つまり食事を持っていって片付けるまで。
ペティはファンタのあからさまに敵視する態度に戸惑っていたが、特に彼女に張り合うわけでもなくいつも通りに仕事をしているようだ。
ペティは両手に五段ずつお盆を重ねて持ち客室へ運んでいる。
スキル【消音歩行】で足音を立てないで歩き、【器用】と【平衡感覚】を駆使して安定した姿勢でお盆を運んでいる。
食事を運んでいる最中に廊下で通りがかった客の一人一人に、【輝く笑顔】を乱射している。
あれは強力なスキルだ。
あまりの可愛い笑顔にいまだに俺でさえ目眩がするほどだ。
当然客達にもかなり好評みたいだ。
お、廊下の曲がり角の先から客がくる。
鉢合わせてぶつかりお盆を落とさないだろうか。
それについても心配はなかった。
ペティは【気配感知】をもっているから客とぶつからずに済んだ。
下膳も卒なくこなすペティ。
うん、安心して見ていられる。
対するファンタは両手それぞれに七段のお盆を重ねて持っている。
それだけでもすごいけど、その状態で【消音歩行】や【俊足】を使い素早く客室に食事を運び入れる。
さらに【器用】、【平衡感覚】、【震動軽減】、【保温】や【保湿】などのスキルを複合的に使い、料理の盛り付けが崩れたり味が落ちない工夫もしていた。
違うスキルを重ねて使う場合、それぞれのスキルが影響し合うので制御が難しくなる。
同じスキルを重ねて使用するのでも難しいのに、それをファンタはあの年齢で数種類のスキルを同時にやってのける。
ファンタのスキルセンスがはんぱない。
ファンタを仲居に起用した人物は相当人を見る目があるようだな。
下膳も仕事が早いし丁寧だ。
まさに一流の仲居といったところか。
ラウンドツー。
ファイト!
次はチェックアウトする客の見送りや、これから宿泊する客の出迎えだ。
客を玄関で見送り最後まで丁寧な心配りをする大事な仕事。
お客様の笑顔や「ありがとう」の言葉を直接聞けて、仲居としては仕事のやりがいを一番感じる瞬間だろう。
先に動いたのはファンタだった。
ファンタは【客感知】というスキルを使い、旅館の玄関先に到着した客に真っ先に気付き、【俊足】の素早い動きで出迎えに行った。
客への対応を見ても、さすがに大陸の一流ホテルで仲居をしているだけあって、親切で人当たりが良く流れる様な美しい動作で完璧な接客をしている。
というか【客感知】っていうスキルもあるんだな。
本当にこの世界のスキルは多種多様だ。
見送りと出迎えを見ていても完璧にこなす彼女は、【礼儀作法】、【流麗動作】、【話術】、【気遣い】、【学識】、【常識】と習得しているスキルを総動員して客への対応をしている。
【話術】を持っているためか客との会話が弾んでいた。
ペティに負けず劣らず好印象だ。
ペティは【礼儀作法】もしっかりとしているから、お辞儀の姿勢や動作が美しい。
さらに【献身】という特質もあるため、ペティに見送られると客はまた旅館に泊まりたいと思ってくれる。
最後には【輝く笑顔】で止めだ。
出迎えも【気配感知】で素早く対応し親切で丁寧な接客をしている。
ファイナルラウンド。
ファイト!
最後は夕食時の配膳下膳だ。
この時間帯は朝食時よりも客への対応が難しくなる。
ほとんどの客は観光名所を廻って帰ってくるので、疲れていたりお腹を空かせていたりする。
さらに酒を飲んで羽目を外す客も増えてくる。
仲居の仕事の中では最もその能力を問われる時間帯だ。
今日は団体の客が大広間で宴会をしている。
ペティは大広間へ食事を運び入れようとした際、酔っぱらっている客とぶつかりそうになった。
五段重ねのお盆をそれぞれの両手に持っていたペティは、【洞察力】で酔っぱらいの客の動きをよく見て、【機転】をきかせて【俊足】を小刻みに使い【器用】に身体を捻って衝突を回避した。
それでもバランスを崩したペティは【平衡感覚】で持ち直す。
無事に酔っぱらいに勝利した。
ファンタはその大広間で客にお酒のお酌をしていた。
【話術】で客達と楽しく会話し、【気遣い】で好印象な接客を心がけ、酔っぱらった客から肩に触れられたり、下ねたを言われたりしても【自制】や【寛容】を示しつつ、【包容力】で無難に対処している。
このスキル構成を見るとファンタには【淑女の心得】があるようだ。
確かセルフィナも習得していたよな。
普通は貴族が持つような心得なんだけど、孤児院育ちなのに習得しているという事は、かなりの努力を重ねたに違いない。
大広間でもファンタの仕事ぶりには全く隙がないな。
大広間を出たすぐの所で小さな女の子が泣いてる。
食事を配膳していたペティが手を止めて駆け寄り、その女の子に話を聞いているようだ。
それからすぐにその女の子の手を引いて大広間から離れていく。
たぶんあの女の子は迷子だろう。
この旅館広いからな。
ファンタはそれに気付いてるようだけど、宴会中の客の対応を優先する事にしたようだ。
しばらくしてから大広間での宴会も終わり、仲居達は下膳をはじめた。
まだペティは女の子を連れて館内を歩き回っている。
まだ親が見つからないんだろうか。
俺はセルフィナに【念話】を繋げる。
『セルフィナ。ちょっといいか?』
『ユラリ様? どうかなさいました?』
『今、ペティが迷子の女の子を連れていると思うんだけど』
『ええ、お話はペティさんから【念話】で聞いています。その女の子は自分が泊まっていた客室を思い出せないようですね』
『それでずっと一緒に探しているのか。仕事に影響は?』
『仕事の割り振りはすでにわたくしが手配して、他の仲居達に伝えてありますので心配には及びません』
『さすがセルフィナだな』
『いいえ。これも全てユラリ様が従業員の皆から慕われているからできる事なんですよ』
俺が慕われているかはともかく、仕事に影響はないようで良かった。
客の要望に答えるのも仲居の仕事の一つだ。
女の子の事はペティに任せておいてもいいだろう。
明日の朝チェックアウト予定の客が帰ったらいよいよ開票だ。
ペティとファンタのどちらが多くの票を獲得するか楽しみだな。
大宴会はすでに終わっていたので、今日はもう仲居の仕事はない。
俺は【指定追跡】や【地図化】を解除し、従業員寮にある自分の寝室で眠りについた。




