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ペティの家族はハイエルフ

 



 ※ファンタゼシル視点。




 わたくしの名前はファンタゼシル・シルフィエンタ

 孤児院で育った十七歳のハイエルフですの。


 わたくしは今花畑でお花摘みをしています。

 赤や黄色や桃色の美しい花々を積んで花冠を作るんですのよ。

 これが済んだら絢爛豪華なお屋敷に帰り、メイドがわたくしの為に淹れてくれた最高級の紅茶を頂きますの。


 ああ、なんて幸せな一時なのでしょう!

 お上品この上ない淑女の生活。

 何から何まで私の望むものが手に入る生活。


 わたくしはこういう生活を望んでいましたの!


 おや? 花畑の向こうから誰かが走ってきますわね。

 その方は男性ですわ。

 黒い外套で全身を覆い隠していますわね。


 あっという間に顔の見える位置まできたこの男性はどなたでしょう?

 初めてお会いしますわよね?

 容姿は合格。

 瞳の奥に宿る情熱と怠惰。


 ちょっとわたくし好みのタイプですわ。


 そんな事より!


「ねえ、あなた! わたくしのお花さん達を踏みつけないでくださる?」


 その男は何も答えません。

 なんて失礼な男なのかしら。

 わたくしのような完璧な淑女に声をかけられて、愛想笑いの一つもしないなんて!


 わたくしがすこし憤っていると、その男はおもむろに黒い外套を脱ぎ捨てたのです。

 そしてそこにあったのは……殿方の、男性の、雄の…………。




「はっ!?」


 わたくしは飛び起きました。

 いつ布団に入ったのか覚えていませんが、いままで寝ていたようですわ。


 それにしても、なんとおぞましい夢を見たのでしょう。

 あの男が外套を脱ぐとそこには……アレが……。

 ま、また思い出してしまいましたわ。


 夢の中とはいえ、せっかく理想の生活を謳歌していたというのに。

 あのちょっとわたくし好みな男のせいで台無しですわ!


 あら、いけませんわね。

 完璧な淑女を目指すわたくしはどんな状況であろうともの冷静沈着、金銭は巾着の中ですわ!


 大陸の北に位置するレヴィドット皇国の一流ホテル、『六花の峰』で仲居頭をしているわたくしは常に上品な振る舞いをしなければなりませんの。

 わたくしの一挙手一投足が『六花の峰』の、ひいてはレヴィドット皇国の評判を貶めるかもしれないのです。



「おい。大丈夫か?」


 まだ夢の余韻が残っているのかしら。

 目の前にあの男の幻が見えますわね。

 それにしても、どうして女湯の脱衣所に男が全裸でいたのかしら。


 もしかしてわたくしを手篭めにしようと待ち構えていた強姦魔!?

 それなら全裸で待ち伏せしていたとしても不思議はないですわね。

 余りに魅力的なわたくしに欲情したのでしょう。


「お〜い。俺の声が聞こえるか〜」


 幻の男はわたくしの顔の前で手を振っていますわね。

 そんな事をしなくてもわたくしは目が覚めていますわよ。


 おや、この幻の隣にはペティが座っていたのですね。

 一目で彼女だとわかりました。

 わたくしとペティはエルフの血族だけあって、あの時からお互い容姿はあまり成長していませんね。



 彼女と会うのは四年ぶりですわ。

 お互い十三になって、あの孤児院から奴隷として売られた日以来ですわね。

 あの院長先生はお元気かしら。

 別れ際号泣していたけれど。


 私たちが奴隷として売られるのは仕方の無いことでした。

 そうでもしなければ、まだ小さな弟や妹達が食べていけませんものね。


 ペティが旅館で素敵なご主人様の妻になったと手紙を送ってきたから、仕方なく月一度の休日を半年分前借りして、お祝いにきてあげたというのに。

 どうして心配そうな顔でわたくしを見ているんですの?

 あなたの事を心配しているのはこっちだというのに。


 幻の男はわたくしの頬を指で突いてきました。


「なっ、何をしているんですの!?」


「お、やっと反応した」


「え? 頬を突かれたという事は、あなたは現実ですの?」


「まだ寝ぼけてんのか? 俺もペティも現実だぞ」


「という事は……あなたはわたくしに下半身を曝け出した男ですわよね!?」


「え、まあ、そうだけど。あれはお前が」


「ちょ、ちょっと私に近づかないで下さる!? 汚らわしいっ! この変態っ!」


「おいおい、随分な言いようだな」


 ペティが身を乗り出しわたくしに詰め寄ってきましたわ。


「ファンタちゃん! そんな事ご主人様に言ったら駄目ですよ! ご主人様は間違って男湯に入って気絶したファンタちゃんを、ここまで運んできてくださったんですから」


「なんですって? わたくしが間違えて? 男湯に?」


「そうです。だからちゃんと感謝の言葉を言わないといけないんですよ!」


 だからわたくしは全裸のこの男と鉢合わせたのですわね。

 という事はわたくしが悪いのですね。

 この男が被害者という事ですわ。


 そ、そうですわ!

 こういう時こそわたくしが一流ホテルの仲居である事を示すのですわ!

 気持ちを落ち着けて、そしてお淑やかに。


「そ、そうでしたの。それは失礼致しました。貴方の着替え中に、その、アレを凝視してしまった事は謝りますわ。ごめんなさい……ですわ」


「ああ、俺は気にしてないよ。それよりもお前ってペティと同じ孤児院で育ったんだって?」


「そうですわ。それがどうかしましたの?」


「じゃあペティの家族同然だな。俺達の旅館によく来てくれた。最大限におもてなしさせてもらうよ」


 そういえば、この部屋は広くて豪華な装飾品や家具が嫌み無く置いてありますわね。

 え!? わ、わたくしの寝ている布団はまさか……一羽のフカフカ鳥から数枚しかとれないという特級羽毛を使った最高級品!?


 もしもわたくしの予想通りなら、ここにフカフカブランドのマークが刻印されて……あ、ありましたわ!

 お値段は恐らく布団一枚で金貨五百枚はくだらないでしょう。

 明らかにここはわたくしのような奴隷が泊まるには、場違過ぎて最上級過ぎる客室ですわ!


 何から何まで比の打ち所の無い完璧な部屋ですわ。


「わたくし達が泊まる予定の客室は普通の客室だったはずですのに。どうしてわたしくはここに寝ているのでしょう」


「ご主人様がファンタちゃん達の為に最上級のお部屋を用意してくださったんです。それにお代も必要ないそうですよ」


「え? この男がわたくし達の為に? それも無料で?」


 そういえばわたくしの連れも心配そうにこちらを見ていますわね。


「そうですよ。私のご主人様は優しいし太っ腹ですごい人なんです!」


 ペティが誇らしく少しだけ胸を張り微笑みました。

 この笑顔は昔と変わりませんわね。

 いいえ、昔よりもさらに輝いていて眩しいくらいですわ。

 ペティがこんな笑顔をするようになった原因は一体何?


「自己紹介がまだだったな。俺の名前はユラリ。ペティの夫でこの旅館の総支配人だ」


 ペティが『六花の峰』で働くわたくしに宛てた手紙の内容は真実だったのですね。

 てっきりわたくしを心配させまいとして嘘でも書いたのかと思っていましたけれど、まさか本当にこんな大旅館の総支配人に嫁いでいるなんて……。


 か、完全に出遅れましたわ!


 まさかわたくしよりも先にペティが玉の輿にのるとは。

 孤児院でも色恋沙汰に一番縁遠かったペティに、先を越されるなんて思ってもいませんでしたわ!


 それにしてもショック極まりないですわ!

 まさかちょっとわたくし好みの男の妻になり、安定した将来を約束されているなんて。


 このままでは孤児院を出るときに声高らかにライバル宣言し、皆の前でペティより先に成功すると豪語したわたしくが、すごく痛い子になりますわ!

 ペティに負けるなんてわたくしのプライドが許しませんわよ!


 そ、そうですわ!

 わたくしにはこの四年間で培った仲居としての経験がありますわ。

 血のにじむ様な訓練を積み重ね、ようやく仲居頭になる事ができました。

 仲居としての能力ならペティには負けていないはずですわよね!


 わたくしはペティを指差し宣戦布告をすることにしましたの。


「ペティ・アスティオ! どちらが優秀な仲居か、わたくしと勝負なさい!」




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