精霊エウロピスは旅館の庭師
今?
ここでか?
ここ露天風呂。
俺、今、裸、オーケー?
というかなんで【守護者任命】の事を知っているんだ。
まさかセルフィナが教えたわけじゃないよな。
それはないか。
エウロピスと話せるのは俺だけのようだし。
『私が世界樹の再生に専念している間も、貴方と娘達の契約が奏でる美しい音色は聞こえていました。私もあの娘達のように契約の音色に自身の存在を乗せてみたくなったのです』
幸い今はこの露天風呂に俺以外の客はいない。
カエデの超旨い朝食を食べ終わり、めくるめく味の余韻に浸っているところだろう。
それに旅館内全てを【気配感知】で探ってみたけど、今の所は露天風呂に入ろうとここに向かっている客もいない。
感知できる範囲が広くなった事に加えて、感知した人の詳細な動きも知る事ができるようなったようだ。
例えばペティは今、足付きのお盆を両手にそれぞれ五段重ねで調理場まで運んでいる。
セルフィナは受付で客の小さい子供へあめ玉を渡したところだ。
イチゴは休憩中なのか事務室でお茶を飲みながら団子を食べている。
こんな具合だ。
「というか実体のない精霊を守護者にできるのか?」
『恐らく可能でしょう。貴方の使う【守護者任命】は魔物であるヘヴンズアントが、本来は次代の女王のみに受け継ぐシークレットスキルです。魔物のスキルならば精霊の私には相性が良いはず』
「え、そうなの? というかこのスキルって次の女王に受け継がれるものだったのか。知らないで使ってた」
あの女王、俺に詳しい事を何も話してくれなかったからな。
いつも自分の都合ばかり押しつけてくるんだよ。
まあ、日本から飛ばされて来てすぐに、働き蟻達に食べられそうになったところを助けてくれたのは女王なんだけど、それにしてもブラックな思考の女王だった……。
「じゃあやってみるけど。本当にいいんだよな?」
『はい。陰と陽の未来を託されし者よ。私の音色に貴方の輝きを共鳴させてください』
「まずはお前の名前を聞かせてくれ」
『私は水と植物を司る精霊エウロピス・アウスティリスパレア』
「よし」
まさか露天風呂で、それも裸で【守護者任命】する事になるとは思わなかった。
俺は意識を集中してスキルの発動に全神経を注ぐ。
「この者の名はエウロピス・アウスティリスパレア。我が敵を刺し貫く剣となり、我を護り支える盾となれ! 我の元に集いし二十四守護者の一人として、ここに守護者契約を結ぶ! スキル【守護者任命】発動っ!!」
肉体の無いエウロピスの姿は湯気から輝く光に再変換され、その光りが一点に集束し小さな植物の種を形成していく。
そして俺の中の力がその種に流れ込むと、種の上に光が集束し一枚のカードを形成した。
カードには薄布を身に纏った一人の女性が世界樹の輪に囲まれている。
その外周には四大元素を象徴する四匹の動物が描かれていた。
風を象徴する緑色の鷹、水を象徴する青色のクジラ、大地を象徴する茶色の雄牛、火を象徴する赤い獅子が中央の女性を見つめている。
「成長や完成、夢や願望が達成される好機が与えられ、将来には成功と幸せを享受できることを意味する守護属性、世界樹のカードか。俺の夢の実現には欠かせない守護者となるだろう」
すると一粒の種から芽が出てきたかと思った次の瞬間、ものすごい勢いで成長し人の姿を形作っていく。
その植物の成長が収まると裸の小女がそこにいた。
身長からすると年頃は小学生の高学年あたり。
少女の身長よりもかなり長い艶のある深い緑色の髪。
頭の上には色とりどりの花が咲いている。
「これは驚きました。私を実体化させるとは……。貴方に潜在する命の輝きは我ら精霊以上かもしれませんね」
「あれ? お前エウロピスか?」
「はい。貴方の守護者となった事で実体化できるようになったようですね。これから私は貴方の契約者。世界樹とこの旅館の植物達を護る者です」
「なんか姿がまるっきり変わって驚いたよ」
「肉体のない私たち精霊がこの世界に実体化するには依り代が必要です。今の私はここにある世界樹を依り代にして新たな身体を作りました」
「それでそんな姿になったのか。でもそんなに小さいと歩くのも大変じゃないか?」
「その心配はありません」
小さなエウロピスの緑色の長い髪が生き物のように蠢き、まるで手足のように彼女の小さな身体を持ち上げた。
そしてその髪は彼女を持ち上げたまま足のように歩き出す。
「おお、そうやって髪の毛を手足の変わりとして動すのか」
「はい。それにこういう姿にもなれます」
エウロピスは一瞬で種に姿を変えた。
そしてさらに湯気の状態にもなれる事を見せてくれた。
「このように状況に応じて姿を変えられます」
「便利だな。できれば旅館に来る客には目立たないように庭の管理をしてほしい。できるか?」
「はい。普段は空気中の水分として人の目には見えない姿をしていましょう」
「ああ、頼む」
エウロピスとの守護者契約が一段落したとき、浴場に近づく数人の気配を感じた。
客が来たようだ。
そろそろ俺も自分の部屋に戻ろうかな。
俺は洗い場で身体を洗い、手ぬぐいを肩にかけて脱衣所に戻る。
ちょうどその時、一人の客が脱衣所に入って来て俺と鉢合わせた。
「え……」
「え」
「え……?」
「え?」
その客は緑がかった金色の長い髪で、肌は色白で耳は長くペティくらいの小柄で美形の女の子だった。
首に奴隷の印である紋様がある。
ペティくらいの年頃なのにこの娘も奴隷なのか。
女の子の気配が近づいているのは気付いていたけど、まさか男性用の脱衣所に入ってくるとは計算外だった。
だから当然だけど今の俺は下半身丸出しの全裸だ。
その少女の視線が俺の下半身にゆっくりと向けられた直後。
「ミョ……」
「みょ?」
「ミョアァァァァァァァァ!!」
その少女は奇声を上げて全身を硬直させ、その場にバタリと倒れてしまった。
その少女の後から慌てて追いかけて来た数人の女性達が倒れる少女を見つけてから俺の下半身を見る。
そして倒れた少女の名前を叫んだ。
「ファ、ファンタゼシル様っ! お気を確かにっ!!」
また一波乱ありそうな展開だ。
どうしてこう次から次へと問題が起きるんだよ。
やっぱり俺って呪われてるのか?
その時、まるで俺の苛立ちに反応したかのように、アウレナの管理AIの声が俺の脳裏に情報を伝える。
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シークレットスキルが解放されました。
◆パッシブスキル【トラブル体質】レベル一を解放しました。
◆パッシブスキル【トラブル体質】レベル二を解放しました。
◆パッシブスキル【トラブル体質】レベル三を解放しました。
◆パッシブスキル【トラブル体質】レベル四を解放しました。
◆パッシブスキル【トラブル体質】レベル五を解放しました。
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嘘だろ!? 【トラブル体質】なんてスキルが俺にあったのかよ!




