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翠玉色の輝き

 



 イナンナは最後に幸せそうに微笑んでいた。

 あの小柄で華奢な身体も、無表情だけど可愛い顔も俺の目の前で消失した。

 俺は慌てて周囲を見回す。


「イ、イナンナ? おい! イナンナ何処だ!? 返事をしろ!」


 しかし彼女からの返事はない。

 出っ歯達が血相を変えて甲板に飛び出てきた。


「ス、スフィアは!? 私のスフィアを何処にやった!?」


 もしかしてイナンナはあの光に飲み込まれて転移したのか?

 だとしたら何処に?

 この洞窟内か?

 いや、この世界の他の場所?

 それとも……。


「おい! 聞いているのかっ!? 私のスフィアを何処に隠したと聞いている!!」


「……スフィア? そんなものは知らない。それより今の光る現象は一体なんだ? 転送か?」


「そんな事知るわけないだろうが! それよりも私のスフィアを返さないというならば、お前の首から上が吹き飛ぶぞ! いいのか!?」


 俺にはスフィアについての情報が無いに等しい。

 この様子だと出っ歯もイナンナが消えた理由を知らないようだ。

 これからどうする?


 まずはツクモと旅館に帰ってからイナンナの事をみんなに相談してみるか。

 彼女達ならイナンナを探すいい方法を思いついてくれるかもしれない。


 イナンナはああ見えて寂しがりなんだ。

 あいつはよく俺の布団に潜り込んでくるし、食事が必要ない身体だというのに、みんなで食事をする時には必ず話の輪に入って来る。

 もしも何処かに転送されていたら一人で心細いだろう。


 俺はそんなイナンナを一人にしておきたくない。

 あいつにの側にはいつも家族である俺達がいるべきなんだ。

 絶対に見つけ出して連れ戻してやる。


 そうなると善は急げだ。

 こんな場所で出っ歯に構っている場合ではない。


 俺は縄を引きちぎった。


「それ以上動くなっ! 殺す! 本当に殺すぞ!」


「やれるものならやってみろ」


 俺は出っ歯に向かって歩き出す。


「し、死ねいっ! 首輪の術具発動!『頭部爆散」!」


 俺の首から上が爆発した。

 しかしこれくらいの爆発でやられるほど俺は弱くない。


 俺は爆発の寸前【硬甲殻】を首と頭に集中させて防御力を上げていたからな。

 少し熱さは感じるけど、これくらいでは痛くない。

 出っ歯は俺が無傷なのを見て驚き床に尻をついた。


「え、な、なんだお前! どうして死んでない!?」


「これくらい皮膚が硬くないと地下では生き抜けなかったんでな」


「何? 地下? おいお前ら! あいつを撃てっ! あの化け物を撃てっ!!」


 化け物とは心外だな。

 これでも人間なんだけど。


 出っ歯の部下達四人が俺に銃を向けて発砲した。

 俺は【動体視力強化】と【視覚強化】のスキルを同時に発動する。

 そして右手の平に【硬甲殻】を集中させ、放たれた弾丸を全てつかみ取った。

 俺は手のひらを開き潰れた弾丸を床に落とす。


「じゅ、銃の弾丸を素手で防いだだとっ!? し、信じられない!」


「イナンナに危害を加えようとしたお前らは許さない」


 俺は出っ歯以外の男達の首を瞬時に斬り飛ばした。

 周囲に鮮血が撒き散らされる。

 出っ歯は状況を理解できずに呆然としているな。


「スフィアの事を詳しく聞かせろ。そうすれば苦しまずに殺してやる」


「……は、は? だ、誰がお前なんぞに教えるものかっ!! こうなれば仕方が無い。この洞窟ごとお前を葬ってやる。スフィアを他国に奪われるよりは何倍もましだ!」


 出っ歯は懐から手の平に乗る大きさの白い三角錐を取り出し立ち上がる。


「何だそれは」


「こ、これはあるお方から頂いた『衝波爆弾』というものだ。これに力を注いだ少し後に大爆発を引き起こす事ができる。ひひゃ! そうすればこの洞窟全体が崩壊するだろう」


「おい待てよ。この洞窟は都の真下にあるんじゃないのか? その爆弾をここで使ったら地盤が崩れ、都でどれほどの死者がでるか分らないんだぞ!?」


「し、知るか! 庶民がどうなろうと知った事じゃないわっ!! スフィアを他国に渡さぬ事が優先されるのだ!」


「自分も死ぬ気か!? 洞窟が崩れるとこの場所もただじゃ済まない!」


「ひひゃ! ひひゃひゃひゃひゃっ!! この先の逃げ道を知っているから、私だけは逃げる事ができるのだっ!!」


 こいつ、何万人もの人が犠牲になるかもしれないのに笑ってやがる。

 自分だけ生き残れるように下調べもしていたようだ。

 腐りきったゴミクズ族だな!


「お前っ!!」


「この洞窟とともに死ねいっ!!」


 出っ歯は術具に力を注いだ。

 すると白い三角錐の術具は出っ歯の手の平から離れ宙に浮く。

 そしてまるで生き物のように三角錐が高速で回転しながら変形を繰り返し、中から莫大なエネルギーが放たれようとしているのを感じる。


 ものすごい力の気配だ!

 全身に電撃を受けたかのよな感覚を覚える程だ。


 出っ歯は空船から下船し何処かに走り去っていった。

 今は出っ歯に構っている場合ではない。


 この爆弾を何とかしなければ東江の都で大勢人が死ぬ。

 どうすれば爆発させないで済むんだよ!?


 考えろ!

 そうだ、【闇沼】に沈めるか?

 いや駄目だな。

 この【闇沼】はその名の通り水深五メートル程しかない沼だ。

 大きな爆発を抑えるには浅すぎる。

 

 それなら【遅延】で動きを遅くしてみるか?

 それも駄目か。

 【遅延】の消費MPを大幅に越えるエネルギー量を抑える事はできない。


 じゃあ破壊してみるか?

 これも爆発が止まる可能性は低い。

 ここにツクモがいれば爆弾を【倉庫】で収納する事で、一時的に爆発を止める事ができたかもしれないのに!


 参ったな。

 完全に万事休すか。


 俺が逡巡している間にも『衝波爆弾』は蠢きながら膨らんでいく。

 こうなったら俺の命を代償にして、あのスキルを使うしか道はないか。

 こんな俺の事を好きになってくれた妻達には悪いけど。数万人の命には変えられないよな。

 


「イナンナ、悪い。お前にも……会えなくなる」



 俺は弱気になっていたのか無意識に呟いていた。

 自分の口から出た言葉を聞いて胸が苦しくなってしまう。

 せめてお前をみんなの所に送り届けてやりたかったよ。


 しかしその時、船長室からエメラルドグリーンの光彩が溢れ出した。


「な、なんだ!?」


 すぐにその美しい翠玉すいぎょくの色にも似た光りは消えた。

 すると操舵室から全裸の女性がゆっくりと甲板に出て来る。



「ユラリはイナンナの幸せ」



 あ、あれはまさか。



「イナンナはユラリの幸せ」



 ついさっき消失したはずの彼女の声。

 そして見覚えのある顔。



「ユラリはイナンナが! 護るっ!!」



 そこにいたのは、全身からエメラルドグリーンの光を放つウトだった。

 彼女は優しげな声音でゆっくりと術の詠唱を始めた。


永久とわに不死なるむくろ達よ、我の言霊ことだまに応え今一度現世うつしようごめき這い出よ。深淵なる奈落の番人達よ我の言霊ことだまに応え、その腐臭で現世うつしよを瘴気で満たせ。【百獄千界ひゃくごくせんかい屍人夜行しびとやぎょう】!』


 ウトの長い詠唱が終わるやいなや周辺の空間に数えきれない程の切れ目が入り、そこから数百という亡者の大軍勢が現れた。

 剣と盾を持つ骸骨や腐乱した屍人、さらに骨の馬に乗る骸骨騎士や背中に翼のある種族の骸骨、身長が二十メートルを超える巨人の骸骨など人族だけではなく様々な種族の屍が溢れ出す。


 その光景はまさに俺のイメージする地獄絵図そのものだった。




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