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キャプテンバンジーの航海日誌

 



「どうして、キャプテンバンジーの航海日誌が日本語なんだ!?」


 最も可能性が高いのはキャプテンバンジーが『異者こともの』だという事だ。

 それも日本からやってきた可能性が高い。


 俺は航海日誌を素早く流し読みしていると、最後のページに『大零石と少女』という気になる見出しを見つけた。

 その部分を読んでみよう。



=====


 空賊として活動し始めてから千五百五十日目。


 今日はいつもより体調が良かったので転送装置の起動実験をした。

 しかし、起動準備中に装置の制御を司る俺のスフィアが、外部からアクセスされ転送先に指定されてしまった。

 つまり、強制的に俺の近くに何かが転送されてくるという事だ。

 

 転送装置が異常な光りを放ち、あまりの眩しさに目を開けていられなかった。

 俺は恐る恐る目蓋を開けると転送装置の発光現象は収まっていたが、驚いた事に近くで動力を溜めている最中だった大零石の中に、見た事も無い少女が入っていたのだ。


 恐らくこの少女は何処かの空間から強制的に転移させられたんだろう。

 その際、転移先が大零石の中になってしまったと考えられる。


 この零石というものは人の強い想いに反応する事が知られている。

 なので少女を大零石の中から出すには、家族や恋人がこの少女を救いたいと強く想えばいい。

 その強い想いに反応し零石は中にいる少女を外に出してくれるだろう。


 しかしこの洞窟は俺達のアジトになっている場所だ。

 空賊団以外には知られていないため一般人は入って来れない。

 だからこの少女を大零石から出せる者は現れないだろう。


 それに少女が大零石の中に入っていても動力として使用可能だと判明したので、少女をこの中から出す必要もないのだ。

 可哀想には思うが仕方が無い。


 今回の外部アクセスの原因を究明したいが、それには膨大な時間が必要だ。

 判明する頃には俺はこの世にいないだろう。

 俺の身体は今、『穢命病あいめいびょう』に犯されているからな。


 この少女については部下達に知らせていない。

 奴らは戦闘専門の脳筋だ。

 俺の言う事の一割も理解できないだろう。


 それに今のあいつらはキャプテンバンジーランドの建設作業で忙しい。

 余計な事で煩わせたくはない。


 あいつらには建設作業が終わったら空賊団を解散すると伝えた。

 財宝も好きなだけ持って行って後は好きに生きろと言ったが、誰一人船から離れると言ったやつはいなかった。


 バカ共だな。

 大バカ共だ。

 何の為に今まで空賊していたのだ?

 金を奪って贅沢な暮らしをする為ではなかったのか?


 あいつらが自分で決めた事だから俺がとやかく言う事ではないがな。


 キャプテンバンジーランドの完成まで後少しだ。

 完成するまで俺の命が持つかどうかはわからない。


=====



 ここで航海日誌は終わっている。

 次のページは強引に引きちぎられていて無くなっていた。


 しかし変だな。

 キャプテンバンジーがこの洞窟を作ったのは今から約三百年前だ。

 という事は、ウトは今から三百年前へ転移した事になる。


 俺やチドリが転移してきたのは今から約三十年前。

 どうしてウトは転送した年代が一桁も違うんだ?


 その時、俺は甲板に人の気配を感じた。

 甲板から聞こえてくる知らない男の声が俺を呼ぶ。


「日乃光旅館の総支配人ユラリ! そこにいるんだろ? お前の大事な娘は俺達が人質に取っている。大人しく出てこい! さもなくば可愛い娘が破廉恥な事をされてから殺される事になるぞ! ひひゃひゃひゃひゃひゃっ!」


 俺は航海日誌を【食料庫】に収納し、船長室から操舵室を抜け甲板に出た。

 甲板には五人の武者鎧を来た男達がいて俺に長銃を向けている。


 あの銃は形状から見て後装式こうそうしきの銃だな。

 銃砲身の尾部から弾と火薬を装填する銃の事だ。

 逆に銃砲口から装填するのを前装式というんだ。


 前装式は発砲した後、銃口を手元に戻して弾を込めななければならないのに対し、後装式は発射した姿勢のまま手元で弾込めができる。

 だから後装式の銃は、前装式の銃に比べて弾丸の装填が簡単で素早く行え、しかも発射速度が早いという長所もあるんだ。


 その長銃を持つ男達の前には、縄で両腕を後ろ手に縛られたイナンナがいた。

 縛られているにも関わらずイナンナの表情はいつも通り無表情だ。


「ユラリに言われた通り、大人しくしてた」


「ああ。偉いぞイナンナ」


 神族だからか死神だからなのかは分らないが、イナンナは生物の命を奪う事に関して躊躇がない。

 だからイナンナが簡単に人を殺さないように、自分の命を狙われない限りは人を殺すなと言ってあったんだ。


「……おい、お前ら。イナンナを解放しなければ、全員殺す」


「ひひゃひゃひゃひゃひゃっ! 動くな! 動くとこの娘の首から上が粉みじんに吹き飛ぶぞ!」


 イナンナの首を見ると金属製の首輪がはめられている。

 何かの術具だろうか。


 首から上を吹き飛ばすと言っていたな。

 イナンナは人じゃないから胴体を切断されても死ななかったけど、首から上を吹き飛ばされるとどうなるか分らない。

 ここはこいつらの言う事を聞いておくか。


「分った。従おう」


 俺は両手を挙げて殺気を抑える。


「よしよし。物わかりのいい奴は長生きするぞ。ひひゃはは! おい、あいつの首にも術具を付けて縄で縛れ」


 指示を出しているのは一際豪華な武者鎧を装備している男だ。

 この痩せの出っ歯な男がこいつらの頭だな。

 年齢は二十代後半くらいだから部隊の隊長にしては若い。

 身分の高い奴なんだろう。


 出っ歯の指示で俺はイナンナと同じ首輪をはめられ、両手を後ろ手に縄で縛られた。


「よし船長室へ行くぞ」


 ん? こいつら湖に入る前から俺達を尾行してきた奴らだよな。

 なんか人数が少なくなってないか?


「おい。他の奴らはどうしたんだ?」


「ちっ。俺達の尾行に気がついてたのか。他の奴らは私が安全に洞窟を進む為の尊い犠牲になってもらったよ。ひひゃひゃひゃひゃ!」


 つまりこいつは部下を犠牲にして罠をかいくぐって来たという事か。

 クズ族決定戦で上位入賞間違い無しだな。


 俺とイナンナを含めた合計七人は操舵室を抜けて船長室へ入った。

 こいつらの目的も大零石か?


「ひひゃはは! あった! とうとう見つけた!」


 出っ歯は大零石に近づき手を伸ばす。

 やっぱり出っ歯の目当ては大零石かと思いきや、大零石を素通りしキャプテンバンジーの骸骨に近づいていく。


「これだ! これを探してたんだ! 所有者未設定のスフィアをっ!」


 え、スフィアが目的だったのか。

 でもあのスフィアって光ってないぞ。

 壊れてるんじゃないのか?

 出っ歯が俺の顔を見る。


「ん? どうしてそんな物を欲しがるのか理解できないという顔だな。光を失ったスフィアの価値を知らないのも無理は無い。庶民は知らなくてもよい事だからな。ひひゃ!」


 あのスフィアで一体何ができるっていうんだ?

 スキルを習得したりレベルを上げたりする他に用途があるのかもしれない。

 航海日誌には転送装置をスフィアで制御していたようだし、もしかしたら様々な事に使える便利アイテムなのかもしれないな。


 出っ歯が大零石の中にいるウトに気付いたようだ。


「ん? なんだこの大零石は。中に娘が入っているだと? こんな物は見た事が無い。まあいい、目的はスフィアだ。スフィアを頂いてから財宝部屋の宝も頂いて帰るとするか」


 出っ歯はキャプテンバンジーのスフィアを持ち上げる。

 するとカチャリと小さい音がした。


「ん? 何だ今の音は」


 財宝、船長、航海日誌ときたら最後に罠が発動するのもお約束か!

 出っ歯が抱えるスフィアに刻まれた文字が徐々に光りはじめ、すぐに全体が輝く光の玉になった。


「なにっ! 何も操作していないにも関わらずスフィアが起動した!?」


 出っ歯は突然の発光現象に驚きスフィアを床に落としてしまった。

 光りを増し続けるスフィアは俺の足元に転がってくる。

 俺達を拘束していた男達は強い光に動揺し後ずさった。


 その時、男達の拘束から抜け出し縄を力づくで引きちぎったイナンナが、俺を追い越しスフィアの前に立ちはだかった。


「ユラリ」


「イナンナっ!? 何をするつもりだ!?」


「ユラリはイナンナの幸せ。イナンナはユラリの幸せ」


 イナンナは振り返る。

 その時の彼女は微笑んでいた。


「だから、イナンナはユラリを護る」


 そして光り輝くスフィアを抱えたイナンナは甲板に飛び出した。

 俺は嫌な予感がしてイナンナの後を追う。


 イナンナは船首の先に到着した直後、スフィアから溢れ出る強い光に呑まれ、周囲三十メートルにある物を巻き込んで光の粒子となり消えてしまった。


「イナンナぁぁぁぁっ!!」




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