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オウカと食事




※ユラリ視点




 俺はオウカの言葉に甘え風呂に入った。

 城の敷地内に広い風呂場があるのにも驚いたが、母さんの実家の旅館にあった檜風呂と同じ安らぐ木の香りがしたのにも驚いた。


 この世界にも檜があるのかもしれないな。

 地下生活の疲れを癒すかのように湯船に浸かる俺の体は、芯から暖まっていく。

 オウカから食事に誘われているから、気持ちいいからといって長風呂はできない。


 俺は体を洗い脱衣場まで戻ると、俺の為に着易い紺色の着物が用意されていた。

 俺の着ていた服は所々破れていたり土で汚れていたので、新しい服を用意してくれたようだ。

 まあ、あの汚れた服でお姫様と食事は無いよな。


 俺はその着物に着替えオウカの従者に案内され、オウカのいる座敷に向かった。


 畳の上にはすでに料理が並んでいた。

 想像していたよりも見た目は質素な料理だが、味はうまかった。

 久しぶりに食べたまともな料理だったで、俺は一心不乱に食べているとオウカが質問してきた。


「それでユラリよ。先ほどお主は言うておったが、地下で生活していたというのはどういう事なのじゃ?」


 俺は白身魚の刺身を食べながらオウカの質問に答えた。

 何の魚か分らないけど旨いなこれ。


「そのままの意味なんだけどな。まず何から話せばいいかな。……実のところ俺はこの世界の人間じゃない。地球の日本という国から来た人間なんだ」


「ほう。やはり異世界からの者か」


「驚かないという事は異世界からの人間は珍しくないのか?」


「そうじゃ。妾の国ではお主のような異世界からの来訪者を異者ことものと呼んでおる」


「そうなのか。じゃあこの国にも異世界人は大勢いるのか」


 俺は次に 肉料理を口に放り込み味わった。

 旨い! やっぱり人間の作る料理が一番だな!


「いいや。人族の異者ことものは多くない。その殆どは何の前触れも無く突如として現れる。現れる場所も様々で、中には空高くに現れそのまま地面に落ち、命を落とす者もいると聞いたことがある」


 転移場所がランダムって……バグッてんのかこの異世界。普通は神様みたいなのがいて転送システムとかを管理してるんじゃないかよ。

 もし俺の友人達も一緒にこの世界に転移してきていたとしたらまずいな。

 考えたくはないが死んでいる可能性もある。


「俺の転移先が地中で良かったよ。空の上や海の中に出てたら死んでたからな」


「普通は地中に現れても死ぬと思うのじゃがな。まあ良い。現れるのは人間だけではないぞ」


「どういう意味だ?」


「この世界には異世界から多種多様な魔物も飛ばされて来る。ケモノのような者、液体状の生物、物質の体を持たぬものなど様々じゃ」


「それは賑やかで楽しそうだな」


「楽しいわけがあるか! 中には人を襲ってくる輩もおって、妾達は日々その者達に脅かされながら暮らしておるのだからな」


「そうかー、地下も大変だったけど、地上も地上で大変そうだな」


「その中でも穢れは最も危険な存在じゃ」


「穢れ?」


「生物なのかも定かではない瘴気を撒き散らす化け物。それを妾達は穢れと呼んでおる。穢れの発生は人の異者以上に稀じゃが、動物や魔物と違い特殊なスキルでしか消滅させられぬ厄介な存在じゃ」


「なんかやばそうだな。おおっ、この果物の寒天もうまい」


「それはそうと、なぜ地下に現れたのにユラリは生きておる?」


「蟻の巣だ」


「蟻の巣とな?」


「ああ。俺は運良くヘヴンズアントの巣の中に転移したらしい」


「ヘヴンズアント? それなら妾も知っておる。体は大きいが弱い魔物じゃな」


 そうか、地上の人々からヘヴンズアントはそういう風に認識されてんのか。

 自分達を取るに足らない弱い魔物として人族に認識させ、敵視されない事で余計な敵は作らないという作戦。

 蟻の女王の考えた作戦は成功してるって事だな。


 実はヘヴンズアントがすごく強い魔物だと知らせても、オウカは混乱するだけだろうから適当に話しを合わせておくか。


「そうそう。その最弱の蟻の魔物だ。それから俺はその蟻達に捕まり奴隷のように働かされ続け、とうとう嫌気が差して逃げて来たってわけだ」


 今言ったことは嘘じゃない。

 実際は蟻の女王に気に入られて兵隊蟻達の指揮を任せられ、日夜地中の侵略者共から蟻の巣を護っていたんだ。


 そう、三十年もの間だ。

 三十年だよ、三十年。

 本当に長かった……。

 それこそ気が遠くなるほどの時間、地下で戦い続けてきた。

 地中は地中で多くの外敵がいたんだ。


 そしてとうとう女王引退の時期がきて、彼女から俺が次代の蟻の王になってくれと頼まれて困ったんだよな。

 俺は蟻じゃないからいずれは地上で人間らしい生活がしたいと思っていたし、もう戦う毎日には飽き飽きだったから断った。


 女王は俺が断る事も予想していたのか、ちゃんと女王候補は産んでいたようだから、俺が後を引き継ぐ必要もないんだよ。

 オウカにそれを詳しく説明しても、さらに質問攻めにされそうだから黙っておこう。


「なるほどの。お主のその強さも異者ことものならば納得じゃ。異者ことものは総じて何らかの特異な能力を持っているからの」


「特異な能力? そんなもの俺にあったかな。あっ、そうだ。他に俺のような日本出身の転移者、えーと、この国で言う異者ことものが現れたという報告は受けてないか?」


「妾は知らぬな。なぜそのような事を聞くのじゃ?」


「俺の友人達もこっちの世界に来ているかもしれないんだ」


「そうであったか。それは気の毒に思うが異者ことものが現れる場所は様々じゃ。もしユラリと共にこの世界へ来ていたとしても、この国以外の場所かもしれぬ」


「まあ、そうだよな。あれから三十年も経ってるし、今から探しても遅すぎるか……無事に生きていてくれればいいけど」


「三十年?」


「こっちの話しだ。気にするな」


「それでユラリよ」


「何だ?」


「このまま我が国の兵の指南役として働いてはくれまいか?」


「指南役? つまり戦い方を教えろと?」


「そうじゃ。先ほどのお主の強さには驚いた。お主が兵の指南役をしてくれるならば、この国の軍事力の底上げになるじゃろう」


「断る」


「んな!? 即答じゃと!? き、給金も弾むぞ?」


「俺が今まで培ってきた戦闘術は集団で戦う軍隊の兵士には向かないよ。どちらかというと俺のスキルは暗殺者に近いからな。それに面倒な仕事はしたくない」


「そ、そうか、仕方が無いの」


 俺は出された料理を一通り食べ終えたので箸を置いた。

 ごちそうさまっと。


「これから俺は地上で人間らしい生活をしたいと考えてる。だが俺はこの世界の常識に疎い。俺がこの世界で生きて行く為に色々基本的な事を教えてくれ」


「それは構わぬが、色々と言われても何から話せばよいかのう。そうじゃな、まずはこの世界の事から話してやろう」




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