恐怖の具現化
洞窟に入ってから何時間経過しただろうか。
俺達は数々の罠を回避しながら、洞窟の奥へ奥へと進んで行った。
「ユラリ。上から槍」
「これくらいは楽勝だ」
「ユラリ。壁から毒矢」
「おっと。危ない所だった」
「ユラリ。坂の上から大きな岩石」
「イナンナっ! こっちの窪みに隠れろ!」
「ユラリ。左右の壁に押しつぶされそう」
「わ、わかってる! 蟻スキル発動!【超怪力】!!」
俺は迫る左右の壁を両手を支えにして押さえ込み、壁の動きを止めた。
「今のうちに二人は先に進めっ!」
「わかった」
「言われなくても行くでふ!」
俺はツクモとイナンナが安全な場所に辿り着いたのを確認すると、【縮地】の重ねがけで瞬時にその場から逃げ出した。
イナンナ達の元についた直後、俺の後ろで左右の壁が完全に合わさり隙間を無くす。
「ユラリ」
「こ、今度は何だ!?」
「上からタライ」
ゴンッ! という金属音が洞窟に響き渡る。
「お約束かよっ!」
ごろんごろんと地面に転がったタライの底を見ると、『その通りだ! ぶははははは!』と書いてあった。
「……なあ、ツクモ」
「何でふか?」
「この洞窟。大地震起こしてぶっ壊してもいいか?」
「だ、だだ、駄目に決まってるでふ! この洞窟の上には東江の都があるでふよ!? ここが崩れたら都もただじゃ済まないでふ!」
「え、今俺達は都の真下なのか?」
「そうでふ。距離と方角を考えると東町の辺りだと思うでふ」
「そうだったのか。じゃあ大地震はやめだ」
「ふぅ。時々ユラリが魔物よりも恐ろしい事言うでふよ」
「だってよ、タライだぜ、タライ」
「タライが落ちて来ても死にはしないでふ。何をそんなに怒ってるでふか?」
「絶対にキャプテンバンジーって奴は俺達をバカにするためにこの洞窟をつくったんだよ。間違いない。今ごろ地獄で俺の頭にタライが当たったのを見て、飛び跳ねて喜んでいるに違いない」
俺達はキャプテンバンジーに翻弄されながらもさらに奥へと進んだ。
そして俺達は今までと雰囲気の違う場所に辿り着いた。
「ここは……?」
端から端まで五十メートル程の広い円形の空間。
床はしっかりとした白い大理石でできており特に罠は無さそうだ。
天井には今までのようにびっしりと『逆さ光茸』。
俺達がいる場所の反対側には高さ五メートルの、大きく豪華な装飾が施された扉があった。
あ〜来たよ。
遂に来てしまったよ。
こういう洞窟にはつきものの『あるある』だよなこれ。
そう、これはボス部屋というやつだ。
こういう場所では財宝を護る守護者が出てくるんだよな。
それも巨大で恐ろしくて超強いやつだよ。
覚悟はしていたけど、いざとなったら面倒だ。
だってさ、ここまで七時間も飲まず食わずで罠、罠、罠だよ?
さすがの俺でも疲れた。
俺と比べてイナンナは全然平気そうだ。
まあそうだろうな、こいつ人じゃないし。
そもそも睡眠も食事も必要ない完璧超人だからな。
あと少しの所まで来て愚痴ってても仕方が無いか。
俺達はその部屋の真ん中で立ち止まる。
セオリー通りなら、この辺でボスが登場するんだけど……。
すると大扉の前に光の粒子が集まり、何かを形作っていく。
やっぱりか。
ここでボスと戦えって事だろうな。
その光は徐々に人の姿へと変わって行く。
そして見覚えのある二人に姿を変えた。
「ま、まじかよ……。あれって……」
そこに立っていたのはなんと、俺とイナンナだった!
これってあれか!?
自分と同じ能力を持つ偽者と戦うっていうやつか!?
だとしたらまずいぞ!
俺の能力を再現できているって事は……!
まさかあのスキルも!?
俺達の偽者は戦う構えを見せた。
今にも襲いかかってきそうだ。
しかし、偽者達の行動は俺の予想の斜め遥か上を行っていた。
「どうも〜わいの名前はユラリで〜す。そして相方の名前は?」
「ウト」
「そうそう、ウトちゃんいいます〜。ってちゃうやろっ! あんたイナンナちゃうんか? 自分でそう言ってたやんけ〜! ほな、気を取り直して自己紹介をもう一回や!」
なんと俺達の偽物は、へったくそな大阪弁で漫才を始めたのだった。
イナンナの偽者の口調はいつも通りだ。
俺の頭の中では疑問符と疑問符が結婚式を挙げてしまった。
「どうも〜わいの名前はユラリで〜す。そして相方の名前は?」
「イナンナ」
「そうそう、イナンナちゃんで〜す。ってちゃうやろっ! ここはもう一回ボケる所やろ!? そのほうがおもろいって打ち合わせで決めたやないか! ほらお客さんも白けてるで! これお前のせいや! ほんまに勘弁してや! 今度は打ち合わせ通りたのむでっ! 自己紹介からやり直しや!」
俺達は何が起きているのか理解できず呆然と立ち尽くす。
俺の頭の中では夫婦になった疑問符に三人の小さな疑問符が産まれてしまった。
「どうも〜わいの名前はユラリで〜す。そして相方の名前は?」
「イスカンシア・ナザリンディド・ンティピアット・ナーヴァタラマライテル」
「そうそう、イスカンシア・ナザリんふぃどンティピえ? ナーば? たふらいまーなんとかちゃんで〜す!」
「相方の名前くらい覚えんかい」
「こんなん覚えられるかいっ!」
「「ありがとうございました〜」」
俺とイナンナの偽物は、そう言い残して光の粒子となって霧散してしまった。
俺の頭の中では疑問符の老夫妻が数十人の孫やひ孫の疑問符達に囲まれていて、すごく幸せそうに微笑んでいた。
「ユラリ。あれ何?」
「……お、俺が聞きたいんだけど」
「今ではもう再現できないと言われている古代の超技術。【具現化】の仕掛けでふ」
「【具現化】だって?」
「ぶーも古文書の記録でしか知らないでふけど、【具現化】は人の記憶や感情に作用すると書かれていたでふ。恐らくこの場所にやってきた者の苦手な物や、恐れているものを作り出し、財宝を護る守護者として戦わせる為のものでふ」
「え? さっきの偽者、ただ漫才をしただけで消えてったぞ」
「ユラリかイナンナのどちらかの苦手なものが【具現化】したはずでふけど、戦わないなんて変でふね。もしかして二人には苦手なものってないでふか?」
「特にないな」
「ない」
「だからあれだけで済んだでふね」
ん? もしかして、俺の称号が『お笑い芸人』に変わるのを恐れていたからか?
だから【具現化】の仕掛けが漫才をする俺とイナンナを作り出したのかも。
そのとき豪華な装飾の扉が光を放ち、ガチャリと大きな金属音が響く。
俺達はその扉に近づき、重い扉を押し開いて中を覗いた。
扉の先には眩しく輝く金銀財宝が山と積まれていた。




