洞窟へ行こう
俺とイナンナとツクモは錦鯉の助けを借り、無事に湖の底にある洞窟に入る事に成功した。
俺達は泳ぎながら湖底に辿り着くと、そこには縦穴が空いていた。
その穴をしばらく降りると横穴があり、その横穴を進んだ先を上に向かって浮上した。
水面がゆらゆらと揺れているのが目に入る。
という事はこの先に空気があるという事。
それに水面から光が射しているようだから照明もあるんだろう。
俺達はゆっくりと水面から顔を出し周囲に危険が無いか確かめた。
そこには予想通り空気があり、洞窟がさらに奥へと続いているようだ。
俺は明るさの正体は何か気になり洞窟の天井を見ると、そにはLED電球もびっくりな程の光を放つ何かがびっしりとくっついていた。
俺は水からあがり、天井をまじまじと見る。
「光るキノコ?」
「あれは『逆さ光茸』でふ。ほとんどの洞窟の天井に生えている特に珍しくもないキノコでふよ」
「そうなのか。まるで昼間のように明るいんだな」
「光の術具の材料になったりするでふ」
「あ、そういえば最近。旅館の経費削減のために維持費のかかるロウソクから、維持費のかからない光の術具に変えたはずだ。あのランプのような術具の材料になっているのか」
イナンナも俺の隣に立ち、天井のキノコを見上げている。
「おいしいの?」
「ブーは霊体なので食べた事ないでふけど、『世界珍味見聞録』という本には油臭くて食べられないと書かれていたでふ」
霊体ならどうして金貨は食べれるんだよ。
あ、ツクモの本体がブタの貯金箱だからか?
あまり深く考えるのはよそう……。
この『逆さ光茸』の天井がずっと洞窟の奥まで続いているようだな。
暗い洞窟を探索すると思って、【暗視】スキルを持つ俺とイナンナで来てみたけど、【暗視】を使う必要はなさそうだ。
俺は洞窟の入り口を見ると、島文字が刻まれた石碑があった。
俺には判別できないのでツクモに解読してもらおう。
『よく辿りついたじゃねーか! 歓迎するぜ! ここは俺様が作った賢い大人の為の恐怖と死のテーマパーク。その名もキャプテンバンジーランドだ! 第一の試練は、よく考えないと死んじゃうよ三択だぜ! せいぜい頑張れよ! ぐはははははは!』
なんだよキャプテンバンジーランドって。
かなりあぶない系の人だな。
それに三択って何?
俺の勘ではこれ以上この先に行くと碌な事にならない。
危ないのは分っていた事だ。
行くしか無いからさっさと先に進むか。
俺達は洞窟の奥に向かって進んで行く。
「ん? 行き止まりか? ……いや扉がある」
そこには三つの錆びた鉄製の扉があった。
その扉には『一』から『三』までの数字が刻まれている。
扉の手前にはさっきと同じような石碑もあった。
『ここ日乃光の国で実際に大地震を起こす事のできる魔物は何だか分るか? 一、木登りモグラ。二、超巨大泥喰いナマズ。三、ヘヴンズアント』
三択ってこれの事か。
つまり、この問題の答えになる数字が刻まれた扉に入ればいいんだろ?
というか、ツクモは壁や扉をすり抜けられるじゃなかったか?
「なあツクモ。あの扉の先に何があるか通り抜けて見て来てくれないか?」
「そ、そんな発想はぶーに無かったでふ。本当にユラリは楽する事にかけてはいろいろ思いつく奴でふね」
「まあな。できるだけ安全に進みたいってのもあるけどな」
ツクモは浮遊しながら『一』の扉をすり抜けようとした。
「むむ? これ以上進めないでふ」
「え、お前霊体だよな?」
「そうでふけど、何かの結界か術具の効果で扉から先に行けないでふ」
「じゃあ横の岩壁から回り込んでみたらどうだ?」
「……むむむ? 岩壁も通り抜けられないでふよ」
「まじか」
俺達がズルをできないようにしているのか。
キャプテンバンジーって奴はふざけた奴だけど、抜け目のない奴だな。
だとしたら、どれが答えだ?
「正解は超巨大泥喰いナマズでふね」
「どうしてそう言えるんだよ」
「木登りモグラは木の上や地中に生息する中型の魔物で、大地震なんて起こせないでふ。ヘヴンズアントは温厚で力も弱く最弱の魔物として有名だから絶対にありえないでふ。それに比べて超巨大泥喰いナマズは、大きいし地下に生息していて獰猛だったはずでふ」
この国の人々のヘヴンズアントに対するイメージは確かに最弱の魔物だったな。
普通に考えればツクモが言うように正解は『二』だけど、なにかが引っかかる。
問題が簡単すぎないか?
だってこれ『よく考えないと死んじゃうよ三択』だろ。
何か見逃している事があるようでならない。
俺は今まで得られた情報の中にヒントが隠されていないか思い出す。
すると、ある言葉を思い出した。
たしか地図の殴り書きにはこうかいてあったな。
『財宝に辿り着けるのは愚かで命知らずな奴だけだ』
命知らずは分るけど、愚かな奴って少し違和感があるな。
愚かとは知恵や思慮が足りない事だ。
つまり考え無しの奴なら財宝に近づけるんだ。
今回の三択問題で一番愚かな答えというのは……。『三』のヘヴンズアントだ。
つまり開くべき扉は『三』だ。
実際ヘヴンズアントが大地震を起こせるかどうかだけど。
その答えは、できる、だ。
ヘヴンズアントの働き蟻の一種である『掘削蟻』というのがいる。
この『掘削蟻』はその名の通り地中を掘る事に特化した蟻で、土術はもちろん穴を掘る為のスキルを数多く持っている。
そのスキルの中に【震動波】というアクティブスキルがある。
このスキルを使い地盤の弱い所へ集中的に震動を加えれば、大地震を起こす事も理論上は可能だろう。
俺は『三』と刻まれた扉を開けた。
その瞬間、眩い光に包まれる。
そして身体がふわりと重力から解放され、光の粒子に変換されていく感覚を覚えた。
こ、これってまさか転移の術か!?
この世界に転移してきたときも同じ感覚だ!
気付くと端から端まで五メートル程の広さで、円形の小さな空間に立っていた。
俺が今までいた洞窟と同じ洞窟内だろうけど、場所は移動したんだろうな。
前方に出口が一つだけ見える。
ツクモとイナンナはいない、と思った瞬間眩しい光と共に俺の左右にツクモとイナンナが現れた。
「ここどこ?」
「ぶふっ! ど、どこに転移されたんでふ!?」
「二人とも。大丈夫か?」
「大丈夫。眩しかっただけ」
「ぶーも大丈夫でふよ。それにしても【転移】の仕掛けを作れるなんて、この洞窟を設計した奴は天才でふね」
「この世界では【転移】というのは一般的じゃないのか?」
「当たり前でふ! あんな高度な術を使えるのは、この世界に一人いるかどうかって位の大天才でふよ」
「そうなのか」
アニメの中の世界では結構【転移】を仕えるキャラがいたんだけどな。
この世界では貴重な才能という事か。
ひとまず周囲を見回し危険は無いようだ。
つまり俺の選んだ扉は正解という事。
「まさか『三』が正解だったとは思わなかったでふよ」
「ユラリ賢い」
「ちょっと地図の殴り書きが気になってな。それがヒントかもしれないと思ったんだ。実際にヘヴンズアントが大地震を起こせるかどうかも考えると、答えが『三』になったんだよ」
「おかしいでふね〜。ヘヴンズアントは大地震なんて起こせるような魔物じゃないはずでふけど」
あまりヘヴンズアントの事を追及されても困るからごまかしておこう。
「まあ、正解したんだから細かい事はどうでもいいじゃないか」
「そうでふね! さあ、どんどん次に行くでふ!」
単純なブタさんでよかったよ。
俺達はさらに洞窟の奥へ進む。
すると先ほどと同じように文字の刻まれた石碑が見えてきた。
「今度は何だって?」
『第一関門突破おめ! なははははは! 次の問題はハズレを踏むと深い地の底へ落とされる恐怖の床板だぞ! ヒントは『ビリビリ』だ! さあ度胸を示せ強者共よ!』
石碑の先には縦横五メートルの床板が、十枚かける十枚の全百枚敷かれている広い空間があった。
これは冒険ものの映画ではよく出てくやつだ。
天井はわざと低めに作られており、ジャンプして飛び越せないようにされている。
間違った床を踏むとそのまま奈落の底へ真っ逆さまという仕掛けだろう。
「ヒントは『ビリビリ』か……何の事だ?」
「ユラリ。床にいろんな絵が描かれてる」
「本当でふね。これはかなり昔の忍者達が仲間と連絡を取るために使っていた記号でふね。太陽、雨、雲、風、雷の五つの記号でふ」
「ん? 雷? これってヒントになっていた『ビリビリ』じゃないか?」
「そ、そうでふよ! そうに違いないでふ!」
つまり、雷の記号が描かれた床だけを踏んで進めという事か?
もしそうだとしたら簡単すぎるだろ。
今回も何かあるな。
イナンナが床板の近くまで行き絵柄を眺めている。
「ユラリ」
「どうした?」
「『ビリビリ』あった」
「え? ああ、雷の絵柄の事だろ?」
「違う。あれも『ビリビリ』」
イナンナは一列目の床板の一つを指差した。
俺はその床板を見ると、確かに『ビリビリ』だったんだ。
「これは、ひび割れか?」
その床板は太陽の絵柄だったけど全体がひび割れていた。
俺は先ほどの石碑の文字を思い出す。
最後に度胸を示せとあった。
つまり度胸がないと進めないという事。
踏みしめるのに度胸が必要な床板といえば、今にも壊れそうな程にひび割れている床板か。
このひび割れも見ようによっては『ビリビリ』と言えなくもない。
間違いなさそうだな。
「イナンナ。お前のおかげで答えが分ったよ」
「そう? イナンナ役に立った?」
「ああ。ありがとな!」
「うん」
俺は一列目のひび割れた床板を踏んでみたが、見た目に反して崩れなかった。
それからすぐに一列目の残り九枚の床板が全部崩れ落ち、破片が地の底に落ちて行く。
破片が落ちて行った穴の底は光が届かない真っ暗闇。
未だに破片が底に達した音が反ってこない。
それはこの穴がものすごく深い事を意味している。
「深っ! 落ちたら一巻の終わりだな」
俺は二列目の床もひび割れを選んでそこまでジャンプした。
先ほどと同じように俺の立っている床以外が地の底に落ちて行く。
そうして十列目まで全てクリアした。
イナンナは俺と同じひび割れた床板だけを踏み俺の元までやってきた。
俺達はさらに奥へと進む。
今度は引っ掛け問題ではなく純粋な罠だった。
俺が先頭を歩いていると急に地面がパッカリと開く。
「うわっ!」
下には鋭い刺が無数に突き立っていた。
俺は何かに捕まる事もできず落下する。
直後にイナンナが召喚した十体の骸骨騎士達が次々に手を繋ぎ、俺の着物の襟を掴んでくれた事で、俺は串刺しにならずに助かった。
まあ、俺は【硬甲殻】が使えるから、落ちたとしても怪我はないんだけど助けてくれた事には感謝だな。
「ふぅ。助かったよイナンナ。それに骸骨達も」
「ユラリを護るのはイナンナの役目」
十体の骸骨騎士達が一斉に親指を立てた。
え、こいつらってこういうジェスチャーをするんだな。
意外だな。
遺骸だけに……。
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◆パッシブスキル【死の冗談】を獲得しました。
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し、しまった……。
また冗談のスキルを得てしまった。
この洞窟の仕掛けや罠よりも、俺の職業が『旅館の総支配人』から『お笑い芸人』に変わりそうなのが怖い。




