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◉番外編 アサハナと富くじ

 



 今日は俺とアサハナの二人で『富くじ』の抽選場所である清浄教の寺院に向かっている。


『富くじ』とは抽選によってくじを購った者が賞金を得て、くじを発行した者がくじ代金での収入を得るという賭博の一種。

 つまりは現代で言う宝くじだな。


 日乃光の国では賭博厳禁だけど、『富くじ』に限っては国公認で月に一度抽選が行われている。

 とはいえ誰でも『富くじ』を行っていいわけではなく、国が許可した清浄教の寺院の幾つかに限定されている。


 参加者はまず、抽選日や抽選番号、当選金額なんかが書かれている富札とみふだというクジを購入する。

 それから抽選日当日に開催場所である清浄教の寺に行く。


 その場所には抽選番号が書かれた木札の入った箱が設置されており、興行主が手にしたきりを箱の穴から突き刺す。

 刺さった木札に書かれた番号が「アタリ」になるんだ。


 なんと一等賞の金額は金貨千枚にもなって庶民の間では結構人気がある。

 しかし当選しても全額はもらえず三割ほどは手数料や清浄教への奉納金などとして天引きされるらしい。


 清浄教ってサツキの所属している組織だ。

 そういえば、どういう教えを説いているのか全く知らなかった。

 まあ、そのうち知る機会もあるだろう。



 そして俺達は『富くじ』を開催している寺院に到着し開かれた門を通り抜け、白い砂利が一面に敷かれている広場へと足を踏み入れた。

 その広場の奥を見ると黒い瓦屋根に真っ赤な柱の古めかしい寺院が目に入る。


 西町での『富くじ』の抽選はここで行われているらしい。

 その広場はすでに大勢の人々が、今か今かと抽選が開始されるのを敷かれた御座に座って待っている。

 数人の奉行所の役人も立ち会っているようだ。


「あ、丁度始まるようっす」


 大勢の人々の視線の先には一辺が五十センチ程の木箱がある。

 その木箱の隣には日本でいうところの巫女さんが二人立っていた。

 二人のうち一人は目隠しをしていて、手には長い棒の先に針が付いている抽選するとき専用のきりが握られている。


 きりを持っていない巫女さんが箱を回し始めた。

 箱の中の木札を混ぜる為だろう。

 それから木箱の側面の穴に錐を入れて木札を突き刺した。

 今から当せん番号を発表するようだ。


 アサハナの手には長さ約十五センチメートルほどの短冊形の紙が握られている。

 その紙の表には当選番号や割印、抽選会場になっている寺院の名前が記られている。

 これは富札というもので引換券にあたるものだ。


 次々に当たりの木札が発表される。

 今の所アサハナは当選していないようだ。


  「いや〜、この番号が発表されるまでの緊張感がたまらないっす! 例え当たらなくても興奮するっすね!」


「なあ、アサハナ。もう当たりの数は残り少なくなってるみたいだけど?」


「ユラリさん。あせっちゃ駄目っすよ。この『富くじ』の一等賞は一番最後に発表されるんっすから」


「そうなのか?」


「ほらほら、いよいよ最後の発表っす」


 目隠しした巫女さんが最後に錐で突き刺した番号は三三七番だ。

 俺達はアサハナの手元の富札を確認すると、なんと三三七番だった。

 つまりアサハナは一等賞を引き当てたという事だ。


「お! 当たってる! 当たってるぞアサハナ!」


「そ、そうみたいっすね! うはっ! 富くじを買うのは初めてなんすけど、当たってよかったっす!」


「もしかして、お前の幸運の数値が高いからなのか?」


「だぶんそうっすね。元々おいらの幸運は千位だったっす。それがユラリさんの守護者になったことで幸運が倍くらいになったから、富くじが当たったっすよ」


「ああ、やっぱりか。じゃあ何回も挑戦して荒稼ぎできるな」


「残念ながらそれは無理っすね」


「え、どうしてだ?」


「他の賭博をしていてもそうなんすけど、自分の為にお金を稼ごうとすると途端に当たらなくなるんす」


「なんだそれ」


「おいらも詳しい事は分らないっすけど、そういうもんっすよ」



 俺達は賞金として金貨千枚から三割を差し引かれた金貨七百枚を受け取った。旅館に戻るために大通りを歩いていると、結構な頻度でアサハナに怪我や病気を治してもらったという人々に声をかけられた。


「お、アサハナ先生。この前もらった薬、すごく良い効き目でしたよ!」

「闇医者の先生! 先日うちの子の怪我を治してくださり、ありがとうございました」

「アサハナのお姉ちゃん。擦り傷もう痛くないよ!」

「亭主の命を救ってくださり本当に感謝しています!」

「ありがたや、ありがたや」


「いえいえ〜当然の事をしたまでっすよ!」


「お前って結構人気者なんだな」


「そんな事ないっすよ」


 闇医者なのに堂々と往来を歩いてもいいんだろうか。

 奉行所の役人に見つかると厄介な事になるんじゃないのかよ。

 まさにそう考えた矢先、進行方向からなじみの同心がやってきた。

 彼は旅館周辺の見回りに来る同心だ。


「おお、闇医者のアサハナ殿ではないか!」


 おいおい、同心に完全に名前と顔が知られてるぞ!?

 まずいんじゃないのか?


「あ、同心のおっちゃんじゃないっすか。娘さんの喘息の調子はどうっすか?」


「それがな、驚いた事にアサハナ殿から頂いた薬を飲ませたら咳が引いてきたのだ。最近は発作も少なくなって夜もよく眠れているようだ」


「そうっすか。それはなによりっす!」


「本当に感謝する。薬の代金は後ほど旅館に出向き支払おう」


「代金は必要ないっすよ」


「え? しかしそれではアサハナ殿の生活に支障があるのではないか?」


「おいらはお金に困ってないっすから大丈夫っす。おいらに薬代を払うよりも娘さんに精のつくものを食べさせてあげて下さいっす」


「そ、そうか? そう言ってもらえると正直助かる。つい先日家内が二人目を身ごもった事が分り、これから何かと入り用なのだ」


「おおっ。おめでとうっす! また何かあったら遠慮なくおいらに言ってほしいっす」


「あい分った。本当にかたじけない。これからもよろしくお願いする」


 同心の男はアサハナにお辞儀をして見回りを再会した。

 ア、アサハナって闇医者だよな。

 非合法で医者をしているはずなのに、あの同心はアサハナを捕えるどころか感謝して礼儀正しくお辞儀までしていったぞ。


「な、なあ。いつもあんな感じなのか?」


「そうっすよ」


「どうして闇医者なのに捕まらないんだよ」


「その理由はたぶんっすけど、みんなの役に立っているからじゃないっすかね」


「それに薬の材料は高価だと聞いたぞ。薬代も受け取らなくて本当に大丈夫なのか?」


「それは富くじの賞金もあるし、いっつも賭博で稼いでるっすから、大丈夫っす」


 アサハナは大きな胸プリンを揺らし胸を張る。

 さっきアサハナが言っていた他人の為にじゃなきゃ幸運にならないとう言葉。

 恐らく人それぞれ幸運による効果は変わるんじゃないだろうか。


 つまりアサハナが幸運だと思うのは、賭博で稼いだお金を使い無償で都の人々を治療できる事。

 それが彼女の思う幸運なんだろう。

 ただ単にお金を沢山得てもアサハナとしては幸運に感じないのかもな。


 それから旅館に帰るまでの道すがらアサハナは多くの人に声をかけられ、時には急患の治療をし、さらには傷ついた動物までも診てあげていた。


 俺はアサハナが町の人々を無償で救う姿に感心した。

 これはいくら非合法の闇医者だとしても捕らえる事はできないな。

 もしそんな事をしたら庶民から大ブーイングだ。


 実際に人々に害を与えるどころか貧しい人々から大商人に至るまで、多くの人の役に立っている。


「なあ、アサハナ」


「なんっすか?」


「沢山の人々の役に立っていて、お前はすごいよ」


「そんな事言われたら照れるっす。おいらはただ、賭博を楽しみながらついでに人助けしてるだけっすよ。そんなにすごくないっす」


「いや。お前はすごい奴だよ」


 アサハナは頬を赤く染め照れているようだ。

 照れ隠しだろうか。

 アサハナは急いで話を変えた。


「というかユラリさん。いつおいらを本当の女にしてくれるんすか?」


「へ? 本当の女?」


「おいら、ユラリさんの妻になってから少し経ったすけど、一度も夜に呼ばれた事ないんすけど?」


「え、いや、それはお前が毎晩賭場に行ってるから、そういう事にあまり興味ないのかと思って」


「ええ? おいらも女っすよ? 興味ないわけないじゃないっすか。誘われたらいつでもオッケーなんすよ〜」


「そ、そうだったのか?」


「そうっすよ〜! それにペティさんやセルフィナさんやイチゴさんに聞いたっすけど、ユラリさんってそういう事が上手だっていうじゃないっすか。なんかすごいらしいじゃないっすか?」


 俺の妻達はそういう話を普段からしているのだろうか。

 なんだか恥ずかしすぎて頭が痛い……。


「じょ、上手かどうかは分らないけどな……」


「おいらの胸でアレして、アレして、アレしたくないんすか?」


「そ、それは男である以上したいに決まっている。というかアサハナよ、年頃の可愛い娘がアレとか連発するもんじゃないぞ。もう少し慎み深くお淑やかにだな」


「おいらの胸はプルンプルンのプルンっすよ。腰が抜けるまでアレしてあげるっす!」


「よ! よろしくお願いしますっ!!」


 紳士ぶってみても所詮チョロい俺の理性君は本能君に逆らえないのであった。




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