料理とはカエデ命である
「カエデよ。世界一の料理人を目指す戦いは始まったばかりだぞ」
「はい。承知しています」
「え、この大会に勝ったら世界一じゃないの?」
「世界には料理人の腕を競う大きな競技会が三つある。一つはここ日乃光の国で行われる『世界料理戦技大会』。二つ目は大陸で行われる『料理天下一競技会』。三つ目はこの二つの大会で優勝した者のみが挑戦できる『天の食卓』だ。その三つの大会で優勝した者が世界一を名乗る事が許される」
つまりこの三つの大会で優勝しなければ世界一になれないのか。
俺達が話している所に、立派な長い二本の角を生やした老齢の審査員が近づいてきた。
「マツ爺様」
カエデが俺に耳打ちで教えてくれた。
この爺さんはカエデ達の高祖父らしい。
つまりは、ひいひい爺さんだな。
「見事な戦いぶりであったなイチョウ」
「マツ爺様もお元気そうでなによりです」
「うむ。カエデもその年で【心の調味料】を習得するとは驚いたぞ」
「このスキルはユラリさんの助けがあってこそのものです。あたいは料理人としてはマツ爺様に遠く及びません」
「謙遜なのは良い事じゃ。謙遜であればさらに料理人として成長できるじゃろう」
「はい。これからも精進したいと思います」
「うむ。鬼人族の始祖の血を継ぐベニシグレ一族がこの大会に優勝するという事の意味を理解しておるな?」
「はい。理解しております」
ん? カエデがこの大会で優勝すると何かあるのか?
「お主には結婚が許可され、鬼人族の族長になる権利が与えられる」
上位入賞で結婚の許可がおりるのは聞いていたけど、優勝すれば鬼人族の族長になれるなんて初耳だ。
「あたいはユラリさんの妻になって、今までどおり料理人として働きたい。そこで多くの人を幸せにできる料理人を目指し、修行を積みたいと思います」
「そうか。小さな頃より喜びに満ちて料理をしていたお前には相応しい決定じゃな。しかし、優勝者が里の外に出た場合、無条件で他の料理人からの挑戦を受ける義務が生じる。それも覚悟の上での決断かの?」
「もちろんです」
「うむ良い目じゃ」
という事は頻繁に挑戦者が旅館に現れるという事か。
また面倒な事になりそうな予感がする。
いや、待てよ。
もしかしたら、これは旅館の知名度を上げるチャンスになるかもしれない。
「ユラリ殿。カエデを頼みますぞ」
「任せてくれ。俺の命に代えても幸せにするよ」
「うむ! 夫婦揃ってよい目じゃっ!」
こうして俺達の『世界料理戦技大会』は終了した。
結局モミジは俺達が里から出るときになっても見送りに姿を現さなかった。
俺は旅館に戻る旅の途中、カエデのステータスをアウレナで確認した。
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◆カエデ・べニシグレ
種族:鬼人族 性別:女 年齢:22 職業:料理長
LV:28 HP:1440 MP:1390 SP:1800
物理攻撃力:830 物理防御力:790 敏捷力:510
術効力:460 術抵抗力:400 幸運:280
アクティブスキル:鬼料理人の基本術技6、栄養成分解析7、縮地6、豪炎槍6、蒼炎6、超高速作業6、狛犬召喚、心の調味料
パッシブスキル:鬼料理人の心得6、成分知識6、気配感知6、殺気感知6、豪腕8、握力8、痛覚耐性6、火術耐性6
合成術:火弾の豪雨、乾燥地帯、加湿地帯、千手の鬼神、鬼神化
称号:ユラリの妻、料理の探求者、族長の娘、天才料理人、世界一の料理人を目指す者、世界料理戦技大会の優勝者
※ユラリの二十四守護者の一人:戦車
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おお、全体的にステータスが上昇しているな。
スキルも鬼人族固有のものが増えている。
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◆鬼料理人の基本術技6
味覚強化8、臭覚強化8、高速作業8、鬼斬り6、鬼神旋風斬6、着火6、火弾6、火柱6、火炎剣8
◆蒼炎
鋼鉄をも瞬時に溶かすほどの高温の炎を自在に操る火術。
◆心の調味料
人の心に作用する調味料。懐かしさ、楽しさ、悲しみ、怒りなど他にも多くの感情を調味料として使用でき、その料理を食べた人の心に様々な感情を湧き上がらせる事ができる。
◆鬼料理人の心得7
日乃光料理知識10、食材知識8、調理10、器用8、美的感覚8、食材察知7、腐敗感知7、鬼包丁8、火術7
◆加湿地帯
指定した空間の湿度や物の水分を増加させる術。必ず二人以上の術者による同時詠唱が必要。
◆千手の鬼神
千の手を持つ鬼神を召喚する術。その身体は実体ではないが千手を攻撃や防御に使用する事ができる。必ず三人以上の術者による同時詠唱が必要。鬼人族固有スキル。
◆鬼神化
使用者は鬼神の姿となり各種能力が大幅に上昇する。変化時限定で使えるスキルも存在する。必ず三人以上の術者による同時詠唱が必要。鬼人族固有スキル。
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まさに戦う料理人といった感じだな。
カエデが【鬼神化】するとどうなるんだろうか。
千手の鬼のように肌が赤くなって筋骨隆々になるんだろうか。
できればムッキムキのカエデは見たくないな。
***
地上生活百二十二日目。
鬼人族の里から旅館に戻って一週間後の朝。
俺はいつもの朝礼に顔を出してみると、そこにはなんとモミジがいた。
「え? 確かお前は、モミジだっけ?」
「あたし、今日からここで働く事にしたから!」
「は? どういう事だ?」
「何よ文句あんの?」
「お、おい、カエデ?」
「す、すみませんユラリさん。モミジは鬼人族の里から出てきて今朝早くにここに到着したらしく、何度言い聞かせても帰らないの一点張りで……」
「仕事ならするわよ! これでも里じゃ甘味を作らせたら一番だったんだからね!」
甘味という言葉にペティの目が一瞬キラリと光った。
ペティは甘味好きだからな。
「ご、ご主人様! 私はいいと思います! 美味しい甘味を専門に作れる料理人がいたら話題にもなりますし、その、あの……私もモミジさんの作った甘味を食べてみたいかな、なんて……」
ペティは賛成という事か。
セフィリアはどう考えているのかを聞こうと俺は彼女に目を向ける。
「わたくしも賛成です。最近さらにお客様が増えてきていますので、有能な料理人は何人いてもよいかと思いますよ」
続けてイチゴとアサハナが自分の意見を述べた。
「あたしも賛成。どうしても女性の多いこの都でも甘味の売り上げ額は、主食である米の売り上げに匹敵すると言われているの。モミジがうちの旅館に来てくれれば約一割の収益増が見込めるかしら」
「おいらも賛成っす。もうすぐ完成する賭場にも女の人が沢山くるはずっすよ。美味しい甘味を景品にすれば賭場も繁盛間違い無しっす!」
妻達は賛成か。
マコトも意見を述べる。
「ぼくもいいと思いますよ。都の女性達の関心事といえば甘味の美味しいお店は何処だとか、新発売のお菓子が美味しかったとかですから。女性達からさらに注目されるのは間違いなしですね」
「なるほどな」
そう言えば母さんの旅館には喫茶スペースがあったな。
そこではお茶と甘味と軽食を出していた。
この旅館のロビーを改装して喫茶スペースを作るのもありか……。
俺は皆の意見を聞いて最終的な決定を告げる。
「という事でこの旅館で働いてくれモミジ」
「ふん! しょうがないから働いてやるわ!」
いや、俺の方がしょうがなく雇う感じなんだけど。
まあいっか。
俺の決定でカエデの表情も明るくなったようだし。
新しく妻になったカエデが喜んでくれるんならいいや。
「あんたなんかにカエデ姉様を独り占めさせないんだからね!」
こうして『カエデ命』の少し騒がしい従業員が増えてしまったのであった。




