料理とは口づけである
今までに無く真剣な表情になったカエデは俺の頬に両手を添え、多くの観衆が見ているにも関わらず口づけをしてきた。
「ちゅっ……んん……んっ……ん……んんっ」
慣れない舌使いで俺の口のなかに舌を侵入させてくる。
カエデは興奮しているのか息が荒いまま口づけを続けゆっくりと唇を離した。
そして俺達は少しの間見つめ合う。
カエデの顔は真っ赤だ。
カエデは再びゆっくりと俺の唇に自分の唇を重ねた。
「んんっ……ん……んちゅ……んちゅっ……んんっ」
カエデは名残惜しそうに唇を離す。
「……こ、これで【守護者契約】できますか? セルフィナさんが【守護者契約】の前には舌をからめた濃厚な接吻をしないといけないって教えてくれたんです」
やはりセルフィナか。
カエデは化粧をしないが綺麗な娘だ。
そんな彼女とキスできるのは正直に言って嬉しい。
だけど妻を増やそうとするセルフィナの術中に、まんまとはまっている気がする。
有能で美しい妻が増えていくのは嬉しいんだけど、このままじゃイチゴが言っていたように妻が十二人を超える日も近いかもしれない。
俺達の熱い接吻に会場の観客からは溢れんばかりの拍手が鳴り響く。
一部の観客からは祝福の言葉を叫ぶ者もいた。
俺もまさかこんな大観衆の真ん中で、プロポーズの返事をもらうなんて思わなかったよ。
俺はカエデとキスをしたことで高鳴る鼓動を落ち着かせ、スキルの発動に意識を集中した。
「この者の名はカエデ・ベニシグレ。我が敵を刺し貫く剣となり、我を護り支える盾となれ! 我の元に集いし二十四守護者の一人として、ここに守護者契約を結ぶ! スキル【守護者任命】発動っ!!」
カエデの体はまばゆい光を発し宙に浮き俺の中の力がカエデに流れ込む。
そしてカエデの額の位置に光が集束し、一枚のカードを形成していく。
白と黒の二頭の大きな犬が仰々しい戦車を牽いていて、その戦車には頭に二本の角が生えた女が乗っている。
その女は料理人の白衣を身に着けており、大剣にも見える巨大な包丁を肩に担いでいた。
「情熱や前進、新しい世界の開拓を意味し、困難を克服し勝利する人を意味する守護属性。戦車のカードか」
カエデの体の発光現象が収まり、彼女はゆっくりと地面に着地した。
「溢れてきます! 力が、知識が……それにあたいを好いてくれるユラリさんの気持ちがすごく伝わってきます……」
え? 今、俺の気持ちが伝わってきたと言ったのか?
「セルフィナさんから、契約を済ませた後はユラリさんの気持ちが感じられるようになると聞いていはいましたが、まさかここまで強く感じられるなんて想像以上でした」
え、【守護者契約】をすると俺の気持ちを感じ取る事ができるようになるのか?
そんな事初めて知ったんですけど。
今まで契約した皆はある程度俺の気持ちを感じ取れるのか?
後ろめたい気持ちは無いが、すごく恥ずかしいな。
エロい事を考えていたらそれも分るんだろうか。
こ、これからは理性君にフルタイムでがんばってもらうしかあるまい。
カエデは生まれ変わった自分の身体の状態に驚いているようだ。
俺も少し驚いている事があった。
それは何かというと、カエデの両脇に二匹の獣が行儀良く座っているからだ。
その二匹の獣は犬の様な外見で、毛並みはグルグルと渦を巻くようにうねっていて、どちらもギョロッとした大きな目をしている。
俺の知っている限りでは、あの白と黒の二匹の獣は狛犬というものだ。
神社の神殿や社寺の前庭に置かれる一対の獅子に似た獣の像で、ライオンを基に形象化され犬に似ていて、古くから魔よけの効果があるとされている。
その狛犬がどうしてカエデとの【守護者契約】で現れたんだ?
今までの【守護者契約】ではこんな事は無かったのに。
俺がそう考えてると白い狛犬がカエデに話しかけた。
「主よ我らに命令を」
続いて黒い狛犬も声を出した。
「主の命令は必ずや果そう」
「あんた達は?」
「我は鬼人族の守護獣、シロコマ」
「我はクロコマ。我らは鬼人族を守護せし精霊界の獣なり」
「もしかして祠に祀られている里の守り神かい?」
「我らは太古の昔より鬼人族と共にあった」
イチョウが料理の手を止め、その二匹の狛犬を見て目を見開いた。
「イチョウ兄? どうかした?」
「そ、そんな……あの方々はこの里を築いた初代族長に仕えていたとされる神獣様方……」
カエデは二匹の狛犬に話しかけた。
「あたい達の今の状況は分るかい?」
「この里の事は全て把握している」
「そうかい。それなら、あたいが料理を作り終えるまでユラリさんと一緒にあたいを護ってくれないか?」
「「承知した」」
二匹の狛犬が調理場の前に立つ俺の左右にやってきた。
「ユラリ殿は主と契りを結んだ者だな?」
「契り? 【守護者契約】ならさっき済ませたけど」
「主の愛する者は我らの守護対象となる」
「我ら守護獣の力を見せよう」
その時イチョウとモミジが同時に大きな声をあげた。
「「料理完成!」」
ということは、俺達からイチョウとモミジへの攻撃はもうできないという事だ。
しかし、あの二人は料理ができていない俺達に対して攻撃できる。
俺の予想した通り、二人はカエデの料理を完成させまいとして、腰に差していた太刀を抜き襲いかかって来た。
「「鬼斬り!」」
二人は俺に向かって同時に斬りつけてきた。
白と黒の狛犬が俺の前に進み出て同時にスキルを発動する。
「「月夜には門に出で立ち。【月壁】」」
狛犬達の前方に淡く光を放つ半透明で円形の障壁が出現し、二人の斬撃が弾かれた。
攻撃を防がれても動じないイチョウとモミジはさらに次の攻撃を繰り出す。
「「鬼神旋風斬!」」
二人は舞うように高速で回転しながら斬撃を繰り返す。
しかし、狛犬達の障壁を壊す事はできないようだ。
この二匹になら防御を任せられるな。
しかし、【食料庫】から食材は出せない。
出した途端に乾燥させられるかもしれないからな。
その時カエデが俺に声をかけてきた。
「ユラリさん。食材を出してくくれませんか?」
「え、大丈夫なのか? また食材を乾燥されたら今度こそ負けてしまうぞ」
「どちらにしても、このままじゃ負けます。それならあたいのできる最速で料理を完成させます!」
「わかった」
俺は【食料庫】から食材を取り出して調理場に置く。
「カエデ!」
「はいっ! 任せて下さい!!」
食材を受け取ったカエデは何を思ったのか全ての食材を真上に投げた。




