姫の思惑
「こいつの職業が暗殺者だったから、始めは姫ちゃんのお抱え暗殺者だと考えたんだ。でも今ので分ったと思うが、ずっと姫ちゃんの命を狙ってたみたいだぜ。だから俺が殺した。問題なかったよな?」
「あ、え……?」
「ああ悪い悪い。吹き出した血で綺麗な着物汚しちまったな。申し訳ないが弁償はできないぜ。地上で使える通貨は持ってないんだ」
「え、は? え?」
「おい、大丈夫か姫ちゃん。着物汚しちまったのがそんなにショックだったか? たぶん洗濯したらまた着れると思うからさ。この通り、すまん!」
「い、いや、き、着物は、どうでもいいのじゃ。それよりも、な、なぜこの者が暗殺者だと気付いたのじゃ?」
「え? それは俺も他人の能力値を見ることができるからさ。そこのゴロウだっけ? そいつだって使ってただろ?」
つまりこやつも鑑定スキルを持っているということじゃな。
「この城に仕える者は入城する度に【鑑定】スキルで能力値を調べられ、身分の証明をしなければならぬ。よって暗殺者が城に紛れ込むはずはないんじゃが……」
「そうなのか?」
「そうじゃ。この者が暗殺者であったのは妾を殺そうとしたことから明白じゃが、なぜ入城する際に気付かれなかったのかと思うてな」
「あ、それは【能力隠蔽】スキルの効果だ」
ユラリは妾が持っていた鑑定結果記録用の紙を取り上げ、首の無いゴロウの胴体の懐から筆や墨壷を取り出し、それらを使って紙に何かを書き始めた。
何をするつもりじゃろうか。
「これで良しっと。これが俺の見たこいつの能力だ。かっこ内は隠されていた部分だぜ」
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◆ゴロウ イツミ【シンペイ クワシタ】
種族:人族 性別:男 年齢:40 職業:鑑定士【暗殺者】
LV:30 HP:1340 MP:890 SP:840
物理攻撃力:350 物理防御力:350 敏捷力:240
術効力:340 術抵抗力:330 幸運:30
アクティブスキル:俊足2、鑑定8、高速筆記3
【急所突き5、高速手裏剣投げ4、瞬間変装5、聴覚強化3】
パッシブスキル:見切り2、筆記3、算盤3、刀剣術2、武士道の心得2
【罠察知4、気配感知5、暗視3、急所看破5、消音行動5、毒知識5、演技5、手裏剣5、苦内5、能力隠蔽8】
称号:姫のお側付き鑑定士、忠実な従者
【雇われ暗殺者、指名手配人、殺人者、裏家業】
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ユラリが紙に書いたのはゴロウの真の姿じゃった。
確かに【能力隠蔽】スキルレベル八を有しておるな。
城の衛兵が入城の際に行う【鑑定】レベルも八。
ゴロウの【能力隠蔽】レベルも八だったために正体がばれなかったということか。
それを見破ったユラリの【鑑定】スキルのレベルは九以上という事になる。
しかしスキルレベル八を持つ者は都に十人いるかどうか、レベル九ともなると一人いるかどうかの貴重な能力者のはずじゃ。
しかし、先ほどこやつを【鑑定】したときにはスキルなんぞ持っておらんかったぞ?
スキルも無しにどうやって能力値を見破ることができるというのじゃ。
う〜む、謎じゃ、このユラリという少年は謎ばかりじゃ。
ふふふ……じゃが、面白そうな奴よ!
騒ぎを聞きつけた他の侍達が、廊下をドタドタと足音を響かせて中庭に走ってきたか。
「姫っ! ご無事ですか!?」
妾の血まみれの姿を見て目を丸くしておる。
それに知り合いであるゴロウの首が転がっておるのだから無理も無いか。
「妾に怪我はないぞ」
「これは一体……ぬっ! 曲者め!!」
後からやってきた数人の侍達は刀を抜いたが、ユラリに勝つ事はできまい。
「お主ら全員、刀を納めよ! 良いのじゃ、この者は妾の客じゃ」
「ひ、姫! このような怪しい者をっ!?」
「くどい! 妾は良いと言うたぞ」
ユラリの正体については未だ謎が多い。
じゃが強さは本物じゃ。
兵の指南役選定試合に集まった者共を一瞬で倒しおった。
こやつは異世界からの来訪者である異者。
特殊な異能を備えているのかもしれぬ。
妾を殺そうとしておったゴロウを始末してくれた事からわかるように、こやつはそれなりの良識も備えておる。
こやつをうまく飼い慣らす事ができれば、覇道を歩むと決めた妾の役に立つのう。
妾が天下統一に乗り出そうと決めたこのタイミングで、ユラリが妾の前に現れたのは天啓かもしれぬ。
このまま兵の指南役になってくれぬだろうか。
そうすれば軍備も増強できて日乃光国の改革も捗りそうじゃが。
この日乃光の国は死病に犯され、すでに末期になっておる。
政治体制の根本を変革しなければ、いずれ大陸の国々に食いつぶされ、数十年程で世界地図からこの国の名が消えるであろう。
早く大陸の国々と対等に渡り合える強き国にできなければ、滅ぶのも時間の問題じゃ。
そうなる前に誰かが病巣の排除をしなければならぬ。
この国の政治の中枢には金や権力に目がくらみ、大国と手を結んだ大バカ者共がいる。
そやつらを一掃するのは、この期を逃せば後は無い。
どれだけ血を流そうが滅ぶよりはましじゃ。
将王の父上が病で伏し、回復の見込みがない現状では手段を選んではおられぬ。
妾が女だからと言い訳をしている場合ではない。
この国の民のため、妾は血塗られた覇道を歩むと決めたのじゃ。
例え地から這い出て来た地獄の魔神に魂を売ったとしても。
こやつほどの強さを持つものであれば妾を邪魔する者を排除するのも容易にできよう。
そのために如何なる手段を用いても、ユラリを手駒としてみせようぞ。
そういえば先ほどユラリはこの国の事をいろいろ聞きたいと言うておったな。
まずは食事の席でも用意して話しをしながら、胃袋から攻め落とすとするかの。
「のう、ユラリとやら」
「なんだ?」
「腹は空いておらぬか?」
「んー、そうだな。何時間も穴掘りしてきて腹は減ってるかな」
「そうかそうか。ならばこの城で食事をして行くがよい。妾が食事を用意させよう。この城の料理人は優秀なので味は保証するぞ」
「いいのか? なんか悪いな。どちらかっていうと俺があんた達に迷惑かけた方なのに」
「それは気にするでない。妾はお主に興味が湧いた。お主ともっと話がしたいのじゃ。遠慮するでない」
「そういう事なら頂こうかな」
「まずは体の汚れを落とす為に湯浴みをしてはどうじゃ?」
「そんな事まで甘えちゃっていいの?」
「構わぬ」
妾の従者に後の事は任せようかの。
「そこの者!」
「はっ!」
「この者の名はユラリと言う。妾の客人として丁重にもてなせ。湯浴みをさせたあと新たな着物を与えよ。妾と食事を共にするからの」
「し、しかし姫……」
「これ以上妾に口答えをしようものなら、そこの死体のようにお主の首も床に転がるぞ」
「っ!? し、承知致しました!」
脅してやっと言う事を聞くか……。
まだまだこの城での妾の発言力は遠く父上には及ばぬな。
女の身では仕方がないの。
それも今しばらくの辛抱じゃ。
徐々に発言力を増していきこの国の実権を握ってみせるのじゃ。
それにしてもこのユラリという者。
人を殺したというのに、無邪気な笑顔を浮かべておるの。
頭が狂っておるのか戦いに慣れておるのか分らぬが、ほんに不思議なやつじゃ。
妾は湯浴みに向かうユラリの背中を見送りながらそう思うた。




