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料理とは決意である

 



 イチョウとモミジは【乾燥地帯】という合成術を使った。

 しかし、俺やカエデの身体には特に影響がない。

 どういう事だ?

 あいつらの術が失敗したのか?

 大会の決勝にまで勝ち残る二人が術を為損じるなんて考えづらい。

 何か嫌な予感がする。


「ユ、ユラリさん、食材が!」


 俺はカエデの驚く声を聞いて料理の為に取り分けておいた食材を見てみると、それらが見る見るうちに水分を失い萎れていく。

 そうか、食材を乾燥させ使えなくし料理をできなくする作戦か!?

 さっきのスキルの対象は俺達ではなく食材だったんだ。


「途中まで調理していた野菜もダメにされたか。俺が食材置き場から新しい食材を持ってくるよ!」


 俺は【縮地】を使い予備の食材が積まれている場所まで行き、料理に必要な食材を集める。

 俺が調理場から離れた隙を狙い、イチョウとモミジは【火炎剣】を作り出し二人でカエデに向かって走り出した。

 俺は調理場に戻りながら術を発動。


「【闇沼】!」


 二人は暗い闇の沼に脚をとられて動きを鈍くする。

 俺は二人に追い打ちをかけようとしたが、それよりも先にイチョウの火術が発動した。


「【豪炎槍】!」


 イチョウの頭上に炎の槍が具現化しカエデに放たれる。

 俺は【縮地】を重ねがけして瞬時にカエデの側まで戻り、炎の槍の前に立ちはだかった。


「カエデには指一本触れさせないっ! 【遅延】!」


 俺の目の前で速度を落とした炎の槍を手刀で両断する。

 その時すでにイチョウとモミジは【闇沼】から脱出し自分達の調理場へ戻っていた。


 今の攻撃は【闇沼】から脱出するための揺動か。

 さすが兄妹と言うべきだな。

 言葉を交わさずとも引き際も同時で息があっている。

 イチョウが俺を睨んでいた。


「カエデ、今からでも遅くはない。そんな人族とは別れてもっと相応しい男を見つけた方がいい」


「イチョウ兄様。あたいは一度決めた事を曲げるつもりはないよ」


「イチョウ兄の言う通りだよカエデ姉っ! 現にわたし達に翻弄されて料理の作業が止まってんじゃん! そいつの力ではカエデ姉を護れないんだよ!」


「どんな困難があってもあたい達なら乗り越えていける。そう思える人だから二人でこの大会に参加したんだ」


 俺は集めてきた食材を調理場へ置く。


「足りない食材を持ってきたぞ」


「ありがとうございます! これで料理を続けられます」


「カエデ。お前達をここで負かす。そうすればお前の熱くなった頭も冷えて冷静な判断ができるようになるだろう」


 再び鬼人族の兄妹は術を使う。


「「乾燥地帯っ!!」」


 またか!

 今度こそ食材を守らないと。


「【食料庫】で一時的に保存する!」


 黒い立方体が空中に現れて俺が持ってきた食材を吸い込んだ。


 なんとか間に合ったな。

 カエデの料理に使う食材に影響は無い。

 だけど会場に予備として積まれていた食材が全て乾燥していた。


 これは非常にまずい状況だ。

 次に【食料庫】に保存した食材をダメにされると料理を作れなくなる。

 食材を【食料庫】から出した瞬間に【乾燥地帯】を使われたら終わりだ。

 食材を出さずに料理を作る事はできない。

 どうしたらいい?

 いつものように諦めず考えろ俺!


 カエデはこの大会で優勝したいと言っていた。

 だから俺はカエデをこの大会で優勝させてやりたい。

 それがカエデへの恩返しになると思ったからだ。


 無言で考え込む俺に希望の光を差し込んでくれたのはカエデだった。


「あたいはユラリさんに感謝してるんです」


「どうしたんだこんな時に」


「こんな時だからこそ言わなきゃいけないと思いました」


 カエデの表情は試合中の厳しい雰囲気が消えていて、柔らかい微笑みを浮かべている。


「ユラリさんはあたいを違法な奴隷状態から救ってくれただけじゃなく、あたいに自由に料理を作っていいと言ってくた。その一言であたいは様々な料理を作れるようになりました」


「それはお前の実力だ。俺はただ許可を出しているに過ぎないよ」


 カエデはゆっくりと首を横に振る。


「あたいにとってはユラリさんの言葉は特別なんです」


 カエデは俯く。

 カエデの頬は少しだけ赤くなっているように見える。


「……こんな色気の無いあたいなんかを欲しいと言ってくれた」


「お前は十分に女として色っぽいよ。料理をしている時の姿は特にな」


「……あ、あたいの料理を一生食べていたいと言ってくれた」


「当然だろう。あんなに上手い料理を毎日食べ続けられたらどんなに幸せか。今でも俺はそう思っている」


 カエデはさらに頬を赤くし、目に涙を溜めているようだ。

 料理を作っているときは熟練した職人の様な厳しい表情をするのに、ふとした事で涙もろいところが可愛いんだよな。

 いままでカエデの努力する姿をずっと見てきたから、カエデをもっと嬉し涙で泣かせてやりたいと思っている。


 カエデは意を決したように宣言した。


「あたいは覚悟ができました!【守護者契約】をしてくださいっ!」


「……その事はセルフィナから聞いたのか?」


「はい。この里へ向かう旅の準備をしている時に教えてくれたんです。ユラリさんに身も心も捧げてもいいという覚悟があるなら、【守護者契約】ができると。それにその契約をすると潜在能力が開花し特殊なスキルが手に入るんですよね? 世界一の料理人を目指すあたいとしては願ったり叶ったりです」


「じゃあ身体の組成が変化して、今までの自分じゃなくなるというのも聞いたはずだ」


「はい、それも聞いてます」


 全て知っていての決断か。


「あたいの料理を一生食べていたいと言ってくれたユラリさんだからこそ、死ぬまで料理を作ってあげたいと思えるんです」


 カエデは旅館にとっても俺にとってもすでに無くてはならない存在になった。

 だから機会があれば俺の守護者になって欲しかったんだ。

 でも、カエデの覚悟が心からのものかを判断するため、あえてこういう質問をしなければならない。


「【守護者契約】をしても、お前の望む結果にならないかもしれない。料理勝負に勝てるスキルを習得できるかどうかもわからないんだぞ?」


 カエデは俺の目を真っすぐに見つめ、しっかりと頷いた。


「そうか。お前が決意してくれるのをずっと待ってたよ」


「今まで待たせてすみません。この大会であたいの気持ちを伝えたかったので」


 この大会で言う必要があったんだろうか。

 わざわざ大会の開催まで待たなくてもいいのに。

 俺ならいつでもオッケーだったよ。


 イチョウは串刺しにして焼いた肉を削ぎ落としている。

 モミジはヨーグルトベースのソースを作り始めた。

 二人の作るドネルケバブはもうすぐ出来上がるだろう。


 料理を中断した俺達への妨害をやめて料理に集中しているようだ。

 俺もスキル発動に集中できて好都合だな。


「じゃあ始めるぞ」


「その前に……あ、あれをしなきゃいけないんですよね?」


「え? あれって?」




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