料理とは戦いである
「【縮地】!」
俺は料理中のカエデを狙って放たれた数十本の石柱全てを、一瞬にして叩き落とした。
すぐに巨大な岩石がカエデの頭上から落下する。
「【影牢】で止める!」
カエデと調理場を囲むように【影牢】を発動し、巨大な岩石の落下を食い止めた。
大会会場の周囲では数千人の客達が歓声を上げている。
俺達は順調に予選を勝ち進み、今は準決勝の最中だ。
この試合に勝つといよいよ決勝戦になる。
今回の題材はパスタ。
カエデはパスタソースを作りながらパスタを茹で始めたところだ。
ここまで勝ち進む過程で様々な手段で妨害された。
飛び道具を投げてくる者や、料理を台無しにしようと毒物を使う者。
武器を使って襲いかかって来る肉体派や、さっきのように術攻撃をしてくる者など様々だ。
対戦相手の術師は余裕の表情で嫌らしい笑みを浮かべた。
「へっへっへっへ、なかなかやるじゃねーか。これは防げるかな! 【局所地震】!」
術師の男は地術を唱えた。
カエデを中心に半径十メートルの地面がグラグラと揺れはじめる。
ま、まずい!
まさか地面自体を揺らしてくるとは計算外だ。
「【重唱】【闇沼】を半径十メートルで展開!」
俺は即座に【闇沼】を【局所地震】の効果範囲と同じ大きさに展開し、地震の震動を全て吸収した。
もちろんカエデには影響は全くない。
でもあぶないところだった。
少しでも【闇沼】の発動が遅ければカエデの作業に支障が出ていたかもしれない。
観客から歓声が上がると対戦相手の術者が悔しがる。
「ちっ、器用なやつだ」
分っていたつもりだったけどカエデを護り続けるのは難しいな。
「これでどうだ! 【しびれ毒霧】!」
術師はカエデの周囲に黄色の霧を発生させた。
カエデは霧を気にせず黙々と料理を続けている。
ものすごい集中力だ。
「霧を【洗浄】!」
空中に黒く四角い立方体が出現し黄色の霧を即座に吸い込んでいく。
術師の男はさらに唱えた。
「これならどうだ! 【泥雨】!」
俺達の調理場の上空に雲が出来上がり今にも局所的な雨が降りそうだ。
この【泥雨】は水術と土術の合成術だ。
殺し合いの戦闘ではあまり役に立たない術だが、料理を妨害するには効果的な術だな。
雨というだけあって水滴の全てを【洗浄】で吸収しきれないか。
俺は他のスキルを使う事にした。
「カエデの周囲に【蟻繭】を展開!」
俺の蟻スキル発動と共に泥の雨が降り出したが、間一髪でカエデや料理に被害は無い。
ドーム状で半透明の壁がカエデと調理場全体を包み込み泥の雨を防いでいた。
「な、なんだその術は!? 土? 風? いや水術か? そんな術見た事ないぞ!?」
それもそのはずだ。
魔物のスフィアから習得した蟻スキルだからな。
この【蟻繭】というスキルは物理攻撃には弱くすぐ破壊されてしまうけど、術攻撃に対してはかなりの防御力があるんだ。
その時、カエデが声を張り上げた。
「あたいの料理ができたよ!」
「よしっ! 何とか間に合った」
料理が完成してから攻撃を加えるのは禁止されているのでもう安心だ。
続いて対戦相手の料理も完成したようだ。
カエデが作ったのは俺が作り方を教えたニンニクとベーコンのパスタ、ペペロンチーノだ。
対戦相手は卵と生クリームを使用したカルボナーラのようなパスタだ。
お互いの料理を五人の審査員の前に並べ審査が開始される。
まずはカエデのパスタから審査するようだ。
審査員達が一斉にカエデのパスタを口に入れる。
「ん! こ、これは! シンプルだけど止められないうまさだ!」
「まあ! お、おいしいわ! ベーコンとニンニクの相性が最高ね!」
「ニンニクの風味を最大限に活かしきっていて絶品です!」
「んほっ! うまいっ!! とにかくうまい! おかわり!!」
最後の一人は老齢の審査員で、ペペロンチーノを完食してフォークを置いた。
「うむ。パスタの茹で加減は完璧じゃ。麺の中心に芯が残るか残らないかの絶妙な頃合いを見極めておる。この辛味の効いたニンニク味のソースはアイゼナーグの郷土料理の味に似ているが少し違う。これまでこんなパスタは食べた事が無い。パスタを口に含む度にニンニクとベーコンの旨味が口の中で踊り、次から次へとわしの食欲を誘う。使われている食材は少ないがそれ故に奥深く万民に愛されるパスタじゃ!」
「ありがとうございます!」
カエデが審査員達にお辞儀をした。
俺もつられてお辞儀をする。
料理の勝敗は五人の審査員のつけた合計点で決まる。
今回の結果は対戦相手のパスタの得点が四十八点で、カエデのパスタは満点の五十点となり俺達の勝利だ。
次はいよいよ決勝戦。
予想通り決勝の相手はイチョウとモミジに決まった。
挨拶した時にただ者じゃないと感じたが、やはりあの二人は料理人としても戦士としても一流だったようだな。
少しの休憩をはさみ俺とカエデは会場の調理場に立つ。
イチョウとモミジも厨房に立ち準備ができたようだ。
「なあカエデ」
「なんですか?」
「あの兄妹に勝てると思うか?」
「分りません。ここまでの兄様達の試合を何度か見ましたけど、あたいらが今まで戦ってきた相手の数段上ですね」
「そんなにか」
「十年以上離ればなれだったので真の実力は分りませんが、二人の料理人としての実力はあたいと同等かそれ以上でしょう。兄妹で組んでいるだけあって息の合った連携攻撃と、強力な術も使えるようになっています」
決勝に勝ち残るだけはあるという事か。
向こうは二人とも料理人だけど、こっちはカエデしか料理が作れない。
俺がもう少し料理ができる奴だったらカエデに負担をかけないで済んだのに。
そもそも料理人じゃない俺がここにいるのは場違じゃないだろうか。
どうしてカエデは俺をパートナーに選んだんだろうな。
「そういえば聞いていなかったけど、カエデはどうして俺を相棒に選んだんだ? 他に料理のできる奴なんて五万といるのに」
「そ、それは……」
その時、大会の司会者が決勝戦の題材を発表した。
「これより決勝戦の題材を発表します。題材は『肉料理』です!」
題材の発表は戦いが始まる合図だ。
俺は身構え相手の動きを観察する。
イチョウとモミジは二人で料理を作りはじめた。
という事は俺達への妨害をしないつもりだろうか。
それなら楽でいいな。
俺の淡い期待はイチョウとモミジの声を揃えた術の詠唱で打ち砕かれた。
「「火弾よ降り注げ! 【火弾の豪雨】!!」」




