世界料理戦技大会
地上生活百十五日目。
現在俺はカエデと共に東江の都から徒歩で三日の位置にある鬼人族の里に来ている。
ここはカエデの故郷でもある。
彼女にとっては十二年ぶりの帰郷らしい。
どうしてこの里に来たのかというと、四年に一度行われる料理の腕前を競う世界大会、『世界料理戦技大会』に出場するためだ。
俺の旅館で料理長をしてくれているカエデは、この大会に俺と一緒に出たいと言ってきた。
カエデには旅館の中軸を担ってもらっているので俺に手伝える事があるならばと快諾したんだ。
もちろんカエデがいない間の旅館の料理に抜かりはない。
カエデの部下達は一人前の料理人として申し分ないし、カエデが今まで研究していた料理のレシピ等も料理人達の間で共有されているから、客に出す料理の質が落ちる心配はない。
それにカエデは今まで一度も休みを取らずに仕事していたから、この機会に休暇を与える事にしたんだ。
彼女はいつも旅館の仕事で手を抜けないと言って休みを取ろうとしなかったので、俺はどうやってカエデを休ませようか考えていたところだったので丁度よかった。
という事で俺達は鬼人族の里に到着したところだ。
「ここがカエデの生まれた里か。すごい人の数だな。それに様々な種族もいる」
「『世界料理戦技大会』は世界中から様々な種族の料理人が集まりますから」
お、あの全身ウロコの種族はリザードマンってやつじゃないか?
おお、あそこにいるのは一つ目の大男、という事はサイクロプスだろう。
あいつらも料理人という事か。
どんな料理を作るのか楽しみだ。
「カエデは小さい時から料理を学んできたんだよな?」
「はい。鬼人族の子供は将来優秀な料理人になるよう教育されます。既に引退していますが、あたいの両親は世界的にも有名な料理人で、あたいは兄妹達と共に厳しく料理を教えられて育ちました」
「カエデの家族皆が料理人なんだな」
「そうです。あたい達だけでなく鬼人族全てが料理人といってもいいでしょう。この里に済む鬼人族には料理のできない者など一人もいません」
さすが世界に優秀な料理人を数多く排出するという鬼人族だ。
この里への道すがらカエデから鬼人族の話をいろいろ聞いていた。
今回の料理大会は世界中の優秀な料理人達が一同に会し、それぞれが培ってきた料理の腕を競い合う大会なのだそうだ。
鬼人族の子供は十歳になると世界各地の調理場へと奉公に出され、そこで料理人としての修行を積む。
驚いた事に鬼人族の子供達は期限付きの奴隷として売られるんだそうだ。
わざわざ奴隷にならなくてもいいじゃないかと思ったけど、カエデが言うには料理の腕前は過酷な環境でこそ磨かれるものなんだそうだ。
奴隷として売った時の資金は里の料理人育成に使われたり、大会の開催費用に回されるといった徹底ぶり。
奴隷として馬車馬の様に働かせられながらも料理の腕を磨き、二十歳になると奴隷期間が終了し里に戻って来るのが普通らしい。
カエデの年齢は確か二十二歳だったな。
彼女は前の副支配人の奴隷になったまま二十歳になっても解放されず、二年も過酷な職場で働かされていた。
さぞかし里帰りしたかっただろう。
さらに驚いたことに鬼人族の若者はこの料理大会で上位入賞しないと結婚が認められないという事だ。
結婚したくても上位入賞できなかった者は来年また挑戦するか、鬼人族の里とは縁を切り他の町で結婚して一生を送るかを選ぶらしい。
異常なまでに料理に対してストイックな民族だ。
性比率が偏って女性が多いこの世界で、結婚を制限したりなんかしたら種が絶えるんじゃないかと思うが、それは大丈夫らしい。
大会で上位入賞さえすれば一夫多妻は当然認められているし、人族より五十年ほど平均寿命が長い種族なのに、人族と子供の出生率は変わらないらしい。
だから里の総人口は少しずつ増えているとカエデは話してくれた。
俺達は料理大会出場受付を済ませるため、里の入り口に設けられた天幕に向かう。
天幕の前には行列ができていて様々な種族の料理人が順番待ちをしていた。
俺達は三十分程待ってから受付を済ませ、出場者用に設けられた天幕に向かう。
「あの広場が料理大会の本戦会場です」
俺はカエデが指し示す方向を見ると、野球場ほどの円形の広場の中心に立派な調理場が二組向かい合って設置されていた。
側には様々な食材が山と積まれている場所があり、その広場を囲むように客席が設けられている。
すでに数千人の観客達がひしめき合い料理大会の開始を今か今かと待っていた。
「おお、あそこで料理を作るんだな。すごい観客数だ。ん? 会場が無駄に広くないか?」
「そうですか? 料理中は動き回るのであの位広い方がいいと思いますけど」
旅館でカエデが料理する時ってそんなに動き回ってたか?
俺は会場の広さに疑問を感じながら歩いていると、前方から来た鬼人族の男女がカエデに話しかけた。
「久しいなカエデ」
「おっひさ〜カエデ姉!」
「イチョウ兄様とモミジ?」
イチョウと呼ばれた長身の鬼人族はカエデの兄のようだ。
右頬に『辛』という文字が入れ墨してある。
久しぶりの妹との再会だというのに眉間にしわを寄せ険しい表情をしている。
反対にモミジと呼ばれたドレットヘアの若い娘は妹だろうか。
左頬に『甘』という文字が入れ墨してある。
「お久しぶりですイチョウ兄様。それにモミジもずいぶん大きくなったわね」
「お前も元気そうで何よりだ。十年経っても里に戻らないから心配したぞ」
「カエデ姉! 超ぉ〜会いたかったよ〜!」
モミジはカエデに抱きつき顔をすりすりしている。
イチョウが俺を鋭い目つきで睨む。
「カエデ。その男はもしや」
「はい。今回の大会であたいと一緒に出場する予定の」
「ユラリだ。よろしく頼むよ」
俺が自己紹介するとイチョウとモミジは俺を見たまま固まった。
ど、どうした?
俺の顔によだれの跡でもついてたか?
さっき顔を洗ったからないはずだけど。
「カエデ……正気か?」
「カエデ姉! 嘘でしょ!? こんなひ弱な人族を大会のパートナーに選ぶなんて!」
「ユラリさんはあたしの職場の上司なんだ。見かけによらず腕っ節も強いし料理の事にも詳しいんだよ」
イチョウが俺に近づき見下ろすように睨みつけてきた。
俺より頭二つ分身長が高いから威圧感を感じる。
「こんな弱そうな男に料理対決を勝ち抜く力があるのか?」
「あたい達はこれでも優勝を狙ってる」
今度はカエデの言葉にイチョウとモミジが驚き硬直している。
いちいち反応がおおげさな兄妹だな。
たかが料理を作って競うだけじゃないか。
「……本気、なんだな?」
「ああ。あたいは本気さ」
「わたしは認めないっ!」
「モミジ……あんた……」
「こんな弱々しくて種族も違う男がカエデ姉に釣り合うわけないじゃない!」
なんだか初対面なのにさんざんな言われようだな。
「カエデ。今回の大会で私とモミジは定まった相手がいなかったので、兄妹で組む事になった。お前達は私たちには勝つ事はできない」
「あたいらは必ず勝つよ」
カエデの簡潔な一言に彼女の自信と確信が込められているのを感じる。
「そうか。せいぜいがんばる事だな。だが無様な戦いはしてくれるなよ。私たちは鬼料理人の名門、ベニシグレ一族の者なのだからな」
イチョウはそう言うとモミジを伴って去って行った。
二人が去ってからカエデは俺にお辞儀をして謝った。
「すみません総支配人! あたいの兄妹達が失礼な事を」
「別に気にしてないから頭を上げてくれ。それにここではユラリって呼んでくれないか? その方が俺も気楽でいいからさ」
「は、はい。わかりましたユラリさん」
「それにしてもただの料理対決なのに大げさな物言いだったな」
「……もしかして、この大会が普通の料理対決でないのを知らないのですか?」
「え、い、いやそんな事はないぞ。し、知ってたけど俺達が組めばどんな大会でも楽勝だと思っていたから、そんなに気負わなくてもいいと思っただけだよ」
「世界的な大会なのにその余裕の発言。さすがはユラリさんです!」
カエデは俺に尊敬の眼差しを向けてくる。
ま、まずいな。
ただの料理対決だと思い込んでいて大会の詳細を調べてなかった。
アウレナで大会の概要を調べてみよう。
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◆世界料理戦技大会
四年に一度、鬼人族の里で行われる料理の腕を競い合う世界大会。世界中の料理人達が一同に会し開かれるこの大会は、二人一組の参加者達がトーナメント形式で争う。基本的なルールは決められた課題に沿った料理を作りその出来で勝敗を決めるが、料理を作っている最中の料理人への妨害はなんでもありとされている。したがって料理の腕と戦闘力の両方を持ち合わせていなければ予戦を勝ち抜く事もできない過酷な料理大会として有名。
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え、つまり、対戦相手と戦いながら料理を完成させないといけないのか!?
なんちゅうルールだよ。
だから本戦会場があんなに広かったのか。
料理人であるカエデのステータスを見たときに、戦闘系のスキルがあったのも納得がいった。
今のうちにカエデの能力を再確認しておくか。
アウレナ起動!
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◆カエデ・べニシグレ
種族:鬼人族 性別:女 年齢:22 職業:料理長
LV:28 HP:840 MP:790 SP:1100
物理攻撃力:530 物理防御力:490 敏捷力:410
術効力:260 術抵抗力:200 幸運:80
アクティブスキル:味覚強化4、臭覚強化4、高速作業4、着火3、鬼斬り5、鬼神旋風斬5、着火5、火弾3、火炎剣5
パッシブスキル:日乃光料理知識8、調理8、美的感覚7、痛覚耐性5、腐敗感知6、器用6、豪腕5、握力5、火術耐性3、火術3
称号:料理の探求者、族長の娘、天才料理人、一途な女、世界一の料理人を目指す者
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やはりそうだ。
戦う事も考慮にいれてスキルを習得していたのか。
前に見た時からレベルが上がっているな。
お、幾つかのスキルレベルも上がっている。
俺が旅館の総支配人になってからの三ヶ月も、怠ける事なく料理の腕を磨き続けていたんだな。
この大会で俺達が優勝したら、大陸で俺の旅館の知名度がうなぎ上りだろう。
カエデの料理の腕前は間違いなく一流以上だ。
料理勝負では負ける気がしないけど、俺には料理を作るのに役立つスキルはないから、勝敗を左右するのは俺がカエデを護りきれるかどうかだな。
というか俺の旅館の大事な料理長を傷付けさせるものか。
俺の全力で守る!
「ただいまより、『世界料理戦技大会』を開始いたしますっ!」
本戦会場の真ん中で大会の司会者が大会の開始を宣言すると、数千人の観客達の歓声が鬼人族の里全体に響き渡った。




