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再会

 



 髪の毛を剃っているが間違いなくあれはオボロだ。

 チドリからオボロがこの世界に転移してきているのは聞いていたけど、どうしてこんな所にいるんだ?


 それにあの上空に浮かぶ巨大な黒い軍艦は何なんだ。

 チドリが乗って来たアイゼナーグの大型空船よりも二回りも大きい。

 チドリも空中に浮いている男をオボロだと気付いたようだ。


「ね、ねえユラ。あれオボロよね!?」


「ああ。間違いないな」


「え!? オボロ君? でも髪型が変わってますね」


「ねえサツキ。オボロがどうしてこの日乃光の国にいるのか知ってる?」


「いえ何も聞いていません。この世界に来てから彼の姿を見るのは初めてです」


 チドリとサツキはオボロがどうしてここにいるのか知らないようだ。

 俺はオボロに向けて呼びかけた。


「おいオボロ! お前、オボロだろ!?」


 黒い軍艦に向かって上昇していたオボロは俺達に気付き空中で停止した。

 空中浮遊できるスキルでも使っているんだろう。


「お? もしかしてユラリじゃね? それにチドリとサツキも一緒か」


「ああ。久しぶりだなオボロ」


「ほんっとに久しぶりだな!」


「お前、こんなところで何やってんだよ」


「オレか? オレは今仕事中だ」


「仕事? 何の仕事だ?」


「今はトランゼシアから雇われて、邪魔な奴らを殺して回ってる」


「は!?」


 今確かにこいつは人を殺して回っていると言ったな。

 雇われて人を殺すなんて暗殺者でも始めたのかよ。

 チドリがオボロに声をかけた。


「オボロ。あんた自分が何言っているのか分ってんの?」


「チドリか。何が言いてえの?」


「雇われて人を殺すって、そんな事は許されないって言ってんのよ!」


「おいおいチドリ。あれから三十年も経ってんのに未だに学生気分してんじゃねーよ。もうあんときとは何もかも違うんだぜ」


「そんな事は分ってる。でも、あんたのやってる事はただの人殺しじゃないの」


「んな事はわかってんだよ。それの何が悪いってんだ? この世界じゃ弱ければ死ぬし、強い奴は生き残るんだよ。ただそれだけの事だぜ」


「そんなわけないでしょ! この世界でも人々が社会を作って暮らしてる。だから好き勝手は許されない!」


「この世界のゴミ共なんて生かす価値なんてねえんだよ。……あ、そうか。お前らは何も知らねえんだったな」


 オボロは今この世界に住む人々をゴミと言ったな。

 なんだかカンザキの言っていた事に似ている気がする。

 もしかしてこの世界の真実について何か知っているのかもしれない。


「おいオボロ!」


「あん?」


「もしかしてお前。『堕ち人の宴』と関係あるのか?」


「へえ、『堕ち人の宴』を知ってんのか」


「詳しくは知らない。いったいその組織は何なんだ? 穢れと何か関係があるのか? 世界の真実って一体何なんだ?」


「あ〜それな。え〜とな、え〜……詳しい事は忘れちまった」


「はあ? お前、三十年経っても脳筋のままかよ!」


「うっせえな。ただ一つ分るのはこの組織で活躍して認められると、神にも匹敵する力を得る事ができるんだ。オレにはそれさえ分っていればいいんだよ」


「神にも匹敵する力?」


「ああ、そうだ。お前もオレと一緒に来るか? バカみてえに強くなれっぞ」


「いや、俺は……」


 その時黒い軍艦から拡声器のようなもので拡大された男の声が聞こえてきた。


『オボロ。処分が終わったなら早く戻ってくれ』


「わかってるって、今戻るから焦んなよ、シュン」


 今オボロはシュンって言ったか?

 確かに言ったな。

 サツキが険しい表情になり上空に現れた黒い軍艦に向けて叫ぶ。


「シュン君! そこにいるの!?」


『もしかしてその声はサツキか。それにユラリとチドリも一緒か。ウトを除いて五人が揃うのは初めてだね』


「どうしてあんな事をしたんですか!?」


『あんな事とは、君の所属している宗教のご神体を奪った事か?』


「そうです! あの時シュン君が送り込んだ穢れのせいで、多くの罪無き人々が命を落としたんですよ!」


 ご神体?

 穢れ?

 俺が地中で生活していた間にシュンとサツキとの間に何かが起きていたらしい。


『僕達の目的は多くの破壊と殺戮をもっていずれ世界中に知られるだろう。悪いがもう時間だ』


 気がつくとオボロが黒い軍艦に乗り込みを済ませていた。


「シュン君! どうしてあなたがあんな事をしなければいけなかったの!? 答えて!!」


 サツキの問いにシュンはそれ以上答える事はなく、黒い軍艦の姿が徐々に消えていき空に溶け込むように見えなくなってしまった。


 後に残されたのは、昔の友人との突然の再会に戸惑いを隠せない三人。

 その場に沈黙が流れる。


 西町奉行所の屋敷の一部からは木材が燃えていて焦げくさい臭い。

 そこからは未だにモクモクと煙が立ち上っている。

 ようやく騒ぎを聞きつけた門衛や近所の住人達が様子を見に来たようだ。


「俺はともかくチドリはここにいると面倒な事になる。ひとまず旅館に戻ろう」


「そうね」


「私もそれがいいと思います」


 俺達三人は口数少なくその場を後にし旅館に帰った。




== 15時21分 ==


 俺は旅館に到着してからすぐにマコトを情報収集に向かわせた。

 戻って来たマコトから聞いた話では、西町奉行所に突然現れたオボロは蛙奉行とカンザキを殺してしまったらしい。


 俺が『堕ち人の宴』についてオボロに質問したとき、あいつは何かを知っているようだったな。

 オボロも組織の一員なのかもしれない。

 もしもそうだとしたら、オボロの雇い主であるトランゼシア帝国皇帝になったシュンも無関係じゃないだろう。


 じゃあどうして同じ組織の人間を殺しに来た?

 考えられるとすれば口止めか。

 俺達が辻斬りの正体を見破り、カンザキを生け捕りにした事がきっかけだろうな。


 でも奴らの目的が分らない。

 カンザキはあれほどの強い力を持っていたにも関わらず、こそこそと辻斬を続けていた。

 ただ人を殺すだけなら堂々と殺したほうが効率がいいはずなのに。

 そうしなかったのには何か理由があるんだろう。

 あいつらの情報が少ないから断定はできないけどな。


 俺とチドリとサツキの三人はロビーにあるソファに座っている。

 チドリは神妙な顔になっていた。


「この三十年の間にシュンとオボロに何があったのかは知らないけど、何かを企んでいるみたいね。ねえサツキ、シュンが清浄教のご神体を奪ったっていうのは本当なの?」


「はい、数年前のある日の事です。清浄教本部のある京華の都に穢れの群れが突如として出現し、大勢の人々が命を落としました。その混乱に乗じ清浄教で神の右手と言われ祀られているご神体が奪われたんです」


「その犯人がシュンだって言うのか?」


「その通りです。シュン君と大勢のトランゼシア兵はご神体が祀られている本殿に侵入し、大勢の罪の無い人々を殺しご神体を奪って逃げ去りました。彼らの力は非常に強くご神体を守護していた僧兵隊はほぼ壊滅してしまいました」


 サツキは過去の惨劇を思い出しているのか拳を握りしめ唇をきつく結んでいる。


「そう……そんな事があったのね。あの二人はそのご神体を奪って何を企んでいるのか分る?」


「伝承によるとご神体は神の身体の一部とされ、頭、胴体、右腕、右脚、左腕、左脚の全てを集めると神にも匹敵する力を得られるらしいのです。恐らくシュン君達は神の力を得ようとしているんでしょう」


「何の為にそんな力を求めてるんだ? 世界征服でもしようっていうのかよ」


「……ユラの言う事もあながち間違っていないと思うわ。アイゼナーグの調査結果でもトランゼシアは軍備増強を続けているの。四大国の戦争が終わったばかりだというのにね」


「という事は、また大陸で戦争が始まる可能性があるのか」


「可能性は十分にあるわね」


 俺達が話しているとロビーにチドリの部下の騎士が駆け込んで来た。


「だ、団長っ! 大変です!」


「どうしたの?」


「レイゼルが牢から姿を消しました!」




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