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お前の正義は負けることはない

 



「希望?」


「正義のヒーローは絶対に負けないんだ。どんなに悪が強大だったとしても、何度でも挑戦し最後には必ず悪を倒す存在、それが正義のヒーロー。子供達はその勇敢な姿を見て自分も正義のヒーローになりたいと夢を抱く」


「某が祖父を目標にしたようにでござるか?」


「その通りだ。俺はお前とここ数日一緒に行動していて、お前が西町の皆から慕われているのがよく分って感心してたんだ。お前は老若男女全ての人々に親切で、困っている人を見かけたら進んで助けていたよな」


「都の人々のために働くのが某達役人の役目でござるからな」


「他の役人達を見ていてもお前程人々に善を行おうとする奴はいなかったよ。そんなお前を見ていた子供達の中には、将来大人になったらお前のように都の人々を守りたいと言う子供もいたぞ」


「拙者のように……」


「お前がここでカンザキにやられたまま立ち上がらないなら、その子供達の将来はどうなるだろうな。もしかしたら目標を見失い第二のカンザキのような奴になるかもしれない」


「そ、それは一大事でござる!」


「だろ? 今回はカンザキと戦って力では負けたけど、お前の正義が負けたわけじゃない。お前が正義を貫く事をあきらめない限り、そんなお前の姿を見た子供達の心の中には正義が受け継がれていくんだ」


「子供達に受け継がれていくでござるか……。確かに某のこんな情けない姿を都の子供達に見せるわけにはいかぬでござるな」


 リンドウは弱々しく笑った。


「お前を応援してくれる人々がいる限り、お前の正義は負けることはない」


「……某は勘違いしていたようでござる。正義は自分だけのもので一人で行うものだと考えていたでござる。いつの間にか某の正義を受け継ごうとしてくれる子供達がいたのでござるな」


「そう思えるならもう迷う必要はないな。俺も弱きを助け悪を断つみたいなのは結構好きだぜ。お前のように自分の信念を曲げずに貫き通そうとする奴にはあこがれる。なんかさ、それってすごく格好いいじゃないか」


「お主にそう言ってもらえるとすごく励まされるでござるよ」


 リンドウは俯きつつ微笑んだ。

 彼女の瞳には微かだが以前のような強さが戻ったように感じる。

 しかし、精神的な痛手が回復するのはしばらく時間がかかるだろう。

 精神的なダメージは身体の傷よりも治りにくいものだからな。


 俺はリンドウに挨拶をしてから執事のガルグユに案内され洋館を出た。

 玄関を出たところでガルグユが俺に話しかけて来た。


「ユラリ様。お嬢様を元気づけてくださり感謝いたします」


「感謝だなんておおげさだ」


「お嬢様はある事情により幼少の頃より同年代の友人もおらず、ずっと寂しい思いをしていらっしゃっいました。ユラリ様とお話を終えたお嬢様は今までになく安らかな表情をされていた。それはお嬢様がユラリ様を友人として認めている証拠でございます。お嬢様の僕である私どもにはできません」


 え、この屋敷に来たとき何人かリンドウと年の変わらぬ奴がいたけどな。

 見た目によらず長生きしている系だったのか。


「お嬢様がお認めになられたユラリ様に、折り入ってお願いがございます」


「お願い?」


「どうかこれからもリンドウお嬢様の元へいらしていただけませんか? あなたが来られればお嬢様もきっと、さらに元気になられると思うのです」


「俺なんて何の役にも立てないと思うけど?」


「いいえそんな事はございません。お嬢様には私どものような僕ではなく、ユラリ様のような対等に付き合える者が必要なのです」


「まあ、よく分らないけど、たまにここに顔を出しにくるよ。リンドウの様子は俺も気になるからな」


「ありがとうございます。本当にありがとうございます……陰と陽の未来を託されし者よ」


 そう言い残してガルグユは深くお辞儀をしてから館の中へ戻って行った。

 なんかさっきの執事の言葉。

 どこかで同じ事を言われたような、言われてないような?


 どこだったかな。

 まあいいか。


 早く旅館に帰って賭場の設置に関して進展があった事を伝えねば。

 アサハナは飛んで喜ぶだろう。

 俺も飛んで喜ぶアサハナを見て喜ぶだろう。

 なんせ揺れるからな……。


 俺はそんなくだらない事を考えながら旅館への帰路についた。




 ***




 地上生活百一日目。


== 8時45分 ==


「ユラっ!!」


 チドリとサツキが公務を終え城から戻って来た。

 そして再び俺の全身が万力の様な強い力で締め付けられる。


「チ、チドリっ、く、苦しいっ! ていうか内蔵出てきて死ぬわっ!!」


 俺の言葉を無視してチドリは俺に抱きついたまま離れない。

 これHP半分はもってかれたな。

 普段のチドリはこれほど力が強くないのに、どうして俺に抱きつく時には怪力になるんだ?


 サツキが苦しむ俺を見かねてチドリに声をかけた。


「チ、チドリ、気持ちは分るけど、ユラリ君がペッタンコになっちゃうよ」


 サツキのおかげでようやく死の抱擁から解放された俺は、咳き込みながら深呼吸した。


「あっ、ご、ごめんユラ……嬉しくてつい……」


「つい、で殺されそうになるのは嫌なんだけど」


「本当に良かった……」


 チドリの瞳は潤んでいる。

 そんなに俺の事を心配してくれてたんだな。


「心配をかけたようですまない」


「心配したわよ! すごく心配したのよ! もしかして目覚めないかもとか、後遺症が残ってしまわないかとか、このまま死んじゃうんじゃないかとか……本当に、ほんとに、心配したんだから……」


 チドリは優しく俺に抱きついてきた。

 また死にそうな程の怪力で抱きつかれると思ったが大丈夫だった。

 チドリは俺の胸の中で誰にも聞こえないように声を殺して泣いている。


 チドリに護られた上に彼女に心配され泣かせてしまう俺はダメダメだな。

 思えば昔からそうだった。

 いい加減な俺をいつも戒めてくれて、何かと世話を焼いてくれる。


 ん? いい加減でダメダメな男?

 確かチドリの好きな男って……。


 チドリは涙を拭い俺の胸から離れ、無理に笑顔になって話を変えた。


「き、今日は奉行所に行くのよね?」


「あ、ああ。旅館の発展の為に蛙奉行を脅しに行くんだ」


「はぁ。そんな事をして、また厄介な事に巻き込まれるわよ」


「この異世界で俺の夢を実現する為には必要なことなんだ」


「どうせ、ゆるゆる人任せ異世界生活とかくだらない事考えているんでしょ?」


「お、お前は人の心が読めるのかっ!?」


「そんなわけないでしょ。まったくもうあんたは何年経ってもあんたのままね」


「お前にはいつも、スキルを超えた能力を見せられて驚かされるよ」


 サツキは俺達のやり取りを見てクスクスと笑っている。

 サツキも昔のように笑えているなら、性格が変わっているわけではないようだな。

 チドリが小さく溜息をつく。


「あたしも一緒に行くわ」


「は? お前は明日にはアイゼナーグへ帰るんだろ? 準備とか忙しいんじゃないのか?」


「それは騎士団の部下や外交官達がしてくれるから大丈夫よ」


「おいおい、騎士団長様がそんなんで示しがつくのかよ」


「騎士団長なんだからどっしりと構えておくのも大事なことなのよ。それにちゃんと話して置きたい事もあるし」


「まあ、着いて来るのは構わないけど」


「チドリが行くなら私も護衛の為に一緒に行きますね」


「というかお前達の立場は微妙なんだから、面倒な事にならないように奉行所の門前までな」


「そうね。それでいいわ」


 俺達は三人だけで西町奉行所に向かった。




== 11時12分 ==


 俺達が奉行所に到着し門衛に挨拶をしたその時、奉行所の屋敷の一角が轟音と共に爆発した。


「な、なんだ!? 何が起きた!?」


 俺はモクモクと上がる煙を見ていると奉行所の上空の空が歪むようにしてうねり、巨大な黒塗りの空船が徐々にその姿を現した。

 チドリが目を見開き驚いている。


「ど、どうしてここにトランゼシアの軍艦がいるのっ!?」


 そして爆発し煙が上がっている場所から坊主頭の男がその軍艦に向かって空中を浮遊しながら昇って行く。

 その男の顔には見覚えがあった。


「あ、あれは……オボロ?」




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