賭場
「えっ!? じゃあもしその時の博打で外れていたら、お前は死んでたのか!?」
「えへへ。これはユラリさんに言うつもりはなかったんすよ。だって言ったら恩着せがましいじゃないすか」
だとしたらアサハナは俺の命の恩人だな。
アサハナが命を賭けてくれたおかげで、本来二割だった成功確率が四割に上昇したという事だ。
俺が無事に済む確率を倍にしてくれたアサハナは、間違いなく俺の命の恩人に違いない。
「おいらは放浪の旅の途中で一つの真理を見いだしたんっす。それは幸運な者には巻かれろなんてものっす」
長い物には巻かれろと似ているな。
確かその意味は目上の者や勢力の強い相手とは争わないで、それに従った方が得策だという意味だったはず。
「おいらはユラリさんに命を賭けて一か八かの勝負に勝ったんすよ。その報酬にユラリさんの妻になる権利をもらいたいっすね」
「ユラリ様。わたくし達からもお願いします。ユラリ様が意識を失っている間に私達四人で話し合いは済んでいます。アサハナさんがユラリ様の妻になる事に反対する者はいません」
俺が寝ている間にそんな話し合いをしていたのか。
セルフィナはそういうことにはいつも積極的で抜かりは無いな。
「ご主人様の命の恩人ですから私も賛成ですっ! それにお客様や従業員のみんなが急な怪我や病気になった時に活躍してくれると思いますっ! 前にもお腹を壊して食事を食べれなかったお客様もいましたし」
そうか。
ペティは旅館の事も考えてくれたのか。
ペティらしいな。
「あたしにも異論はない。ユラリのようなすごい人に妻が三人なんて少ないもの。あたしの計算ではユラリの才覚なら十二人までなら問題なく養えるようになるはずよ。いいえ、それ以上かも……」
じゅ、十二人って……イチゴは本気で言っているんだろうか。
カンザキの行動予測も的確だったし、あながち間違ってはいないんだろうけど。
そんなに妻を娶ってもこの国の法に触れないんだろうか。
その前に十二人も妻を持って俺の身体がもつのか?
「みんなの考えは分った」
俺は深呼吸してアサハナの目を真っすぐに見つめる。
「アサハナ。何も俺の妻にならなくても、この旅館でずっと働いていてもいいんだぞ?」
「もしかしておいらの覚悟を疑ってます? それなら今ここで【守護者任命】をしてくださいっす」
「その話も聞いているんだな」
「ええ。もしおいらに覚悟がないと判断されたなら、ユラリさんの妻になるのは諦めて大人しく普通の従業員になってここで働かせてもらうっすよ」
「分ったよ。俺の命の恩人なのは変わらないし、アサハナを里に帰れなくしたのは俺の責任でもある。もし【守護者任命】が成功したなら、俺も覚悟を決めてお前を一生面倒見るよ」
「はははっ、今回の賭けは負ける気がしないっす」
俺は【守護者任命】をする為に意識を集中する。
「この者の名はアサハナ。我が敵を刺し貫く剣となり、我を護り支える盾となれ! 我の元に集いし二十四守護者の一人として、ここに守護者契約を結ぶ! スキル【守護者任命】発動っ!!」
アサハナの体はまばゆい光を発し宙に浮く。
空中に浮いたという事はスキルが発動したという事だ。
アサハナに強い覚悟があるという証拠。
俺の中の力がアサハナに流れ込む。
そしてアサハナの額の位置に光が集束し、一枚のカードを形成していく。
そのカードの中央には時計の文字盤のように丁と半の文字が刻まれた輪があり、その輪の上に裸の女性が座っている。
その輪の周囲には病人や怪我人が大勢描かれ、女に助けを求めている。
「幸運や転換期、現状からの脱却を意味し、運に身を委ねる人を意味する守護属性。天運の輪のカードか。賭け事の好きなアサハナらしい」
アサハナの体の発光現象が収まり、属性を表すカードも光の粒子になって消えていく。
彼女はゆっくりと床に降り立った。
「わおっ! 今のおいら、どんな賭けにも勝てる気がするっすよユラリさん!」
「スキルは問題なく成功したな。お前の覚悟は本物だったよ」
「牢屋敷でユラリさんに賭けた時からおいらの覚悟は決まってたっすよ。どんな形であれこの人に一生ついて行くってね」
「アサハナさんっ! ご主人様の健康の為に一緒にお支えしましょうねっ!」
「ペティちゃんっすよね。今までよりもユラリさんを健康にしてみせるっすよ」
「わたくしも歓迎しますよ。ユラリ様はわたくし達の為に無理をなさる事が多いので、共に護り支えていきましょうね」
「セルフィナさん、おいらにできる事ならなんでもするっす」
「あなたの医術の腕には期待しているわ。同じユラリの妻同士協力していきましょう」
「こちらこそよろしくお願いするっす、イチゴさん」
「早速だけどアサハナのステータスを確認させてもらうよ」
「ええどうぞどうぞ。おいらの身体はすでにユラリさん仕様になってるっすよ。いろんな意味でね」
「俺仕様になってるって、意味が分からないけど?」
「ユラリさんがチドリさんと仲良しなのを見て、胸の大きい人が好みなのかなって思ったっす。だからおいらは女の身体に変化する時に胸を大きくしたんすよ。おいらの大きな胸はユラリさんの為なんすから、好きに使ってくれていいんすよ。アレとかアレする時とかアレなんかもご自由にしていいっす!」
な、なんだって……。
ビック胸プリンを自由にできる、だとっ!?
旅館の総支配人になった時よりも嬉しいのはなぜだろう。
両性人族だっけ?
性別を決めるときに身体の特徴を本人の意思で決める事ができるのか。
アサハナは俺が胸の大きい人を好きだと思い、自らの胸をビックなプリンにしたと。
確かに。
確かにビック胸プリンは大好物です!
イチゴが瞳を潤ませて俺を睨んでいるのは気のせい、ではないな。
そういえばイチゴは自分の胸プリンの大きさを気にしていた。
だけどイチゴの胸は決して小さいわけではないぞ。
たぶんCカップは余裕である。
だから俺はイチゴプリンも大好物です!
そんな事よりアサハナのステータス確認だ。
考えてみれば今回初めて見るな。
俺はアサハナの身体に視線を合わせてステータスを確認した。
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◆アサハナ
種族:両性人族 性別:女 年齢:18 職業:闇医者
LV:10 HP:950 MP:910 SP:1590
物理攻撃力:240 物理防御力:220 敏捷力:190
術効力:340 術抵抗力:410 幸運:2090
アクティブスキル:詳細診断7、運気上昇7、医者の基本術技7、精根流転、乾坤一擲、応病与薬、無病息災、銀鱗躍動、医食同源
パッシブスキル:医者の心得7、度胸7、賭博7、幸運7、如何様察知7、幸運感知7
称号:ユラリの妻、自由奔放、博愛主義者、賭博好き、勝負師、闇医者、里抜け人、大人の女にされた者、医術の天才、ビック胸プリンの女
※ユラリの二十四守護者の一人:天運の輪
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おっと、四字熟語のスキルが多い。
ここは知ったかぶりは止めてアウレナ先生に任せよう。
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◆医者の基本術技7
高速診断7、殺菌消毒7、毒素抽出7、高速縫合7、高速手術7、
◆精根流転
健康な者の生命力を他の者へと移し替える緊急時の治療スキル。
◆乾坤一擲
自分の命を賭けて大博打をする。勝てば他のスキルの成功確率を倍にできる。
◆応病与薬
怪我や病気の種類に応じて最も適した薬と対処法が脳裏に浮かぶ。
◆無病息災
このスキルの効果中は状態異常にならない。
◆銀鱗躍動
対象の最大SPを一定時間二倍にする。
◆医食同源
食物や薬に使用すると含まれている栄養素や有効成分が大幅に上昇する。
◆医者の心得7
応急処置7、診断7、医学7、医術7、薬学7、調合7、手術7
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幸運の数値が二千を超えてる。
アサハナに宝くじでも買わせれば、前後賞含めて大当たりを引くんじゃないか?
この世界に宝くじのようなシステムがないか後でマコトに調べさせよう。
スキルを見ると、医者と賭け事に関するスキルがほとんどだな。
それにレベル表示のあるスキルは全て七レベルだ。
ラッキーセブンとかいうやつか?
もしかしたら天運の輪のカードの特性かもな。
称号を見ていくと、やはりあったか。
賭博好きと勝負師の称号。
出逢ったばかりの俺に自分の命を賭けるとか、どんだけ勝負師なんだよ。
乾坤一擲のスキル説明を見たけど、負ければ死ぬとか俺なら怖くて使えないぞ。
他には……大人の女にされた者ってある。
お、俺じゃないぞ。
そりゃあ裸で抱き合って胸を揉んで、アサハナを女にしたのは俺だけど。
う、なんか、そこまで言うと俺がアレしたっぽいな。
というかなんだよビック胸プリンの女っていう称号は。
もしかして俺がアサハナの事をそう思っているから称号になったのか?
だとしたらアサハナには申し訳ない事をしてしまったな。
こんな称号つけられたら恥ずかしくて都を歩けないだろう。
やはりビック胸プリンの女にした責任は取らないとな。
うん、仕方が無くだ。
決して喜んでいるわけではないぞ。
「アサハナ。俺からもよろしく頼むよ。この旅館の事で分らない事があったらここにいる三人に聞くといい。お前にはここで医者として働いてもらうけど、それでいいか?」
「もちろんです。従業員でもお客さんでも治すっすよ」
「ありがとな」
ひとまずアサハナの事はこれでいい。
「なあセルフィナ。チドリやサツキは今どうしてるんだ?」
「チドリ様とサツキ様は城で条約締結の会議に出席されています。なんでも条約の最終調整の為に今日から三日程城に滞在する予定のようです」
そういえば一ヶ月の滞在期間のうち、すでに二十六日が経過してるんだったな。
条約締結の会議も大詰め。
セルフィナの話では三日後の二十九日に二人は戻るのか。
三十日目にはチドリはアイゼナーグへ帰るので、あと一日しか会えないな。
一度アイゼナーグへ帰ったら次に会えるのはいつになるか分からない。
仕方が無い事だけど少し寂しい気持ちになる。
いや、素直に言い直そう。
かなり寂しい気持ちになる。
昔のように俺の側でいつも世話を焼いてくれるチドリはもういない。
今は大国の騎士団長という責任のある立場だからな。
「あの〜ユラリさん。おいらから一つ提案があるんですがいいっすかね?」
「なんだ?」
「ユラリさん。この旅館に賭場を作らないっすか?」




