謎の少年
※オウカ視点
「先ほども言ったが、俺に敵意は無い。話しを聞いてくれ」
地中から現れ侍達を軽くいなした十代後半の少年はそう言ったのじゃ。
何者じゃこやつは!
鑑定役のゴロウにこやつを調べさせてみても、庶民となんら変わらぬ数値だったのう。
ゴロウが【鑑定】スキルを失敗したのか?
いや、それならば能力値さえ見れぬはず。
スキルレベルの高い【能力隠蔽】を所持しとるのかもしれぬ。
倒れた者達をよく見ると呼吸はしているから死んではおらぬだろう。
あのテンゲンを赤子の手を捻るかのようにあしらうとは恐ろしい程の強さじゃ。
見た目は少年じゃが、外見に騙されてはならぬのはこの世界の常か。
この世界は見た目では年齢の分らぬ種族も多いのじゃからな。
服装は大陸人が着ている服と似ておるが、顔立ちと黒髪黒目から察するに我が日之光の国の民の血を引いているに違いない。
大陸のいずれかの国に依頼され、妾を殺しに来た暗殺者か?
もし暗殺者だとしたら人目につく中庭へわざわざ現れるというのは愚策じゃ。
その可能性は低いのう。
敵意は無いと言うておるが本当じゃろうか?
妾の油断を誘っているという可能性も……いやしかし、この場にいた強者共を容易く倒してしまう者が、わざわざそんな回りくどい事をするはずもない。
うぅむ、解せぬ。
何が目的なのじゃ?
妾の護衛の者共が全て倒されたゆえ、ひとまずこやつに話しを合わせるしかあるまい。
「は、話とは何じゃ? 日之光国、将王タケミツの一人娘であるこのオウカが、お主の話を聞こうではないか」
「お? やっと話ができそうだな。俺はユラリっていうんだ。話しの前に、まずは謝るよ。すまん!」
こ、こやついきなり頭を下げて謝りおった。
「な、なぜ謝るのじゃ?」
「それは、ほら」
ん? ユラリと名乗った少年は周囲を見回して倒れた者達を見ておるな。
この者達を倒した事について謝っておるのか。
「見た所死んではおらぬようだし気にせずともよい。本来は妾を護るべき者達であるのにほんに情けない話じゃ」
「話しが分かる姫ちゃんでよかったよ」
「ひ、姫ちゃん!?」
「さっきも言ったけど、俺はあんたらに危害を加えに来たわけじゃない。というか助けを求めいていると言った方がいいかな」
「助けて欲しいじゃと? 武術の心得のない妾にも、お主が凄まじく強い武人であるのは分るのじゃ。そのようなお主に助けが必要なのか?」
「いろいろあってさ、俺は長い間地下で暮らしてきたんだけど、地下生活が嫌になって地上へ逃げて来たんだ」
「ち、地下で暮らしていたとな!? お主は牢に入れられておった罪人か何かか?」
「まあ、似たようなものだ。だからさ、地上の事やこの国の事なんか全然知らなくてさ。できれば色々教えてくれると助かるんだけど」
「うーむ。いまいち話が見えぬが、それしきの事であれば妾が教えてやろう」
「ほんとか? 本当に助かるよ。さっそく一つ聞きたいんだけど」
「何じゃ?」
「姫ちゃんってさ、配下に暗殺者っていんの?」
「ぬ? 暗殺者とな? い、いや妾の側にはそのような者は置いておらぬが?」
「そうか、それを聞いて安心したよ」
なぜそのような事を聞くのじゃろうか。
そのとき妾の側で倒れておった鑑定持ちのゴロウが起き上がり、素早い動きで刀を抜き妾の心臓目がけて突いてきたのじゃ。
妾は咄嗟の事で身動きがとれず、ただ目をつむることしかできなんだ。
じゃが、少し経っても刺された感覚はなく、代わりに生暖かい液体が全身に降り掛かったようじゃった。
妾は恐る恐る目を開けてみると、妾を斬ろうとしたゴロウの首から上が無くなっておって血が吹き出しておった。
頬に感じた感触は真っ赤な血飛沫であったのじゃ。
何が起きたのか理解できずに呆然としていると、ゴトリという音と共に首が床に転がり、首の無くなったゴロウの胴体はどさりと崩れ落ちた。
床一面にぬるりとした血の池が広がっていく。
な、何じゃこれは。
ど、どういう事じゃ?
訳が分からぬ!
妾の側で仕えていたゴロウが、どうして妾を殺そうとした?
それよりも誰がゴロウをこのような姿に?
その問の答えは、人の首が転がっているというのに、涼しげな表情の少年から告げられた。




