表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青眼の野望  作者: えんどう なん
6/15

智星の章 (1)

 黒く重たい雲が空を覆う。

 風は強いが、雪には降られずにすんでいた。

 網代笠(あじろがさ)を被り、背中には荷箱を担いだ雲水(うんすい)の一団が、越前木ノ芽峠に差し掛かる。

 六人二列になって進む一団の中に青眼寺の僧、智龍(ちりゅう)がいた。

 歩を進める智龍には、気になることがあった。

 武士の一団が朝、敦賀を出発してから、着かず離れず付いてくる。


 「ここで半刻ほど休もう」


 智龍は、峠に入る前に休憩を取り、武士の一団をやり過ごそうと考えた。

 智龍の掛け声で雲水たちは道端に避け、それぞれに休憩を取る。

 竹筒に入った水に口を付ける者、地べたに座る者もいた。

 (さむらい)烏帽子(えぼうし)直垂(ひたたれ)姿の帯刀をした七人が、近づいてくる。

 智龍は、座ったまま視線を上げ、横を通り過ぎる武士の顔を見た。

 どの顔も浅黒く、全員が無精髭を生やしているが、武士というには違和感を感じる。

 七人が通り過ぎたが、何も起きない。

 智龍が深く息を吐き、顔に安堵が広がった。

 武士の一団が、五間ほど進んだところで足を止め、一斉に刀を抜く。

 振り返った顔は皆、口元をひん曲げ、不気味な笑いを浮かべていた。


 「おい坊主、背中の荷物を置いて立ち去れ。去らねば、ここで切り捨てるぞ」


 頬に刀傷の跡が残る大男が、抜いた刀を肩に担いで一歩前に踏み出す。

 刹那。智龍の耳元に風切り音が聞こえた。

 刀を肩に担いだ大男は、「うっ」と短い声を発して前のめりに倒れる。

 また、風切り音がした。今度は、大男の両脇にいた男が二人倒れる。

 倒れた男の胸には、矢が突き刺さっていた。

 智龍が、矢の放たれた方を見ると、同じ身なりをした長身で細身の雲水が、四尺ほどの小ぶりの弓矢を構えている。

 七人いた男たちは、瞬く間に四人に減ってしまった。

 男たちは、お互いの浅黒い髭面を見合わせて目で合図を送る。

 その顔は、先ほどまで見せていた人を舐めたような不気味な笑い顔は消え、恐怖に引き吊っていた。

 男がひとり、刀を投げ出して逃げ出したが、二歩踏み出したところで背中に矢が刺さった。


 「た、助けてくれ」


 残った三人の男は、刀を放り投げてうずくまる。

 知龍の耳にまた、風切り音が聞こえた。

 うずくまった三人の男に続けざまに矢が刺さる。

 四尺弓を持った雲水は、無抵抗な男たちにも容赦はしない。

 智龍が、ゆっくりと弓矢を放った雲水に歩み寄る。

 近づいて網代笠に隠れた顔を覗き込むと、あどけなさが残るのっぺりとした顔と目が合った。十代かも知れない。


 「私は、青眼寺の智龍と申します。ここは礼を申しておきますが、無抵抗の者まで手に掛ける必要があったのでしょうか? 」


 のっぺり顔の雲水は、四尺弓を細長い袋にしまい込んでいる。


 「こいつらは武士じゃねえ、敦賀の船乗り崩れだ。敦賀からあんたらを着けていた。ここで逃がしても、また、いつ襲って来るか分からね」


 「船乗り崩れが、この荷を狙って敦賀から着けてきたというのか? 」


 智龍は、峠で船乗り崩れに襲われたことに驚いていた。


 「ところで何故、私たちを助けた? 」


 「仁兵衛様からの指示だ。智龍様を守れと」


 「霞仁兵衛の手の者か? 名はなんと申す? 」


 「霧氷」


 のっぺり顔の雲水は、霧氷と名乗り、四尺弓を入れた袋を背負った。


 「ここから越後まで同行する」


 霧氷の言葉は短い。

 智龍は、霧氷を迎え入れることにした。

 木ノ芽峠から振り下ろす冬の風が、頬に突き刺さった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ