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第91話:飛躍していくF.S.V

 暦が明けて8月末になっていた。

 ドイツ二部リーグが開幕してから、4週間が経つ。

 我らがF.S.Vは3勝1分けと、好調なスタートダッシュを決めていた。


「ふう……今年も順調なスタートだな」


 クラブの練習場にて一人で自主練しながら、オレはこれまでの4試合を振り返る。

 今季のF.S.Vは2部リーグで、強豪クラブとも互角以上の戦いをしていた。

 

「今シーズンのF.S.Vは、去年以上に戦力が整っているからな……」

 

 前シーズン、昇格直後で4位という好成績を収めていた。そのため昨年以上に、実力ある選手が移籍しいてきたのだ。


 その新加入組に負けじと、古株の選手たちも奮起していた。

 1軍のチーム内ではし烈なレギュラー争いが繰り広げられていた。その結果として前からいた選手も大きく成長する。


 F.S.Vに新しい刺激が加わり、新旧の選手が融合していったのだ。


「チームメイトたちは年棒が更にアップして喜んでいたな……」


 昨年4位というともあり、大手のスポンサーの申し出が急増していた。そのためF.S.Vの平均年棒はアップしている。


 一番多い人だと年棒で1億円を超えていた。これはドイツ1部リーグの選手並みの大金である。


「まあ、ボクは試合に多く出られるようになったから、そっちの方が嬉しいんだけどね……」


 学生なオレは特別選手であり、今年も年棒は0ユーロである。

 だが昨年以上に試合に出る機会が増えていた。


 まずはメインの1軍でのドイツ国内リーグ戦が年間で34試合に出場。


 あとF.S.Vヤングチームとして、ヨーロッパ各地で戦うUCLヤングリーグ

 が年間で20試合。


 更に今年はドイツ国内のカップ戦にも参戦している。

 これらを全部計算したら、1年間で80試合くらいにオレは出場していた。


 単純に計算して4日に1度は試合をしている感じかな? そう考えたら、かなり貴重な試合経験である。


 ちなみに中等部の方は欠席が多くなってしまった。

 だがレポートを完璧に提出しているので、単位は大丈夫。サッカーに集中できていた。


「これも15歳になってスタミナアップしたお蔭かな?」


 中学3年生になったオレは、心肺機能や骨格が成長の最終期に入っていた。そのお蔭で80分近い試合にも出場できていた。


 それに若いオレは一晩寝たら、スタミナがほぼ100%まで回復する。だからハードなスケジュールでも試合をこなせていたのだ。


「練習も好きだけど、試合は何倍も勉強になるからな……」


 ドイツ国内とヨーロッパでの試合をこなしている内に、オレは多大な経験値を積んでいた。


 特に各国のクラブと試合が出来るのは、本当に勉強になる。

 国によって戦術やスタイルは違うために、オレは多くの戦術に対応できるようなっていた。


「あと各国の若手選手と会えるのは、最高にテンションが上がるよね!」


 オレの根幹はサッカーオタクである。

 だからオレはどんな時でも、サイン色紙を持ち歩いていた。

 現時点での有名な各国の選手のサインは、もちろんお願いして全部貰っていた。

 

 また18歳以下の若手の選手で、将来有名になる選手のサインも収集している。オレは前世の記憶があるために、誰が将来有名になっていくか知っていた。

 そのサイン集も今では数百枚になっている。


「今季はどんな有名な選手と卵たちに会えるかな……今から楽しみだな……うふふ……」


 想像しただけでもよだれが出てきた。

 これはいけない。ハンカチで拭かないと。でもハンカチなんて持っていたかな?


「はい、ハンカチ」

「あっ、ありがとう……って、エレナ⁉」


 いきなりエレナが背後にいたのでビックリした。

 誰もいない練習場に、いったい何をしにしたのであろうか?


「何じゃないわよ、コータ。仕事で通りかかったら、涎を垂らしながらニヤニヤしながらリフティングしている同級生がいたからよ!」

「あっ、そうか。いやー、面目ない。はっはっは……」


 ドイツ3年目になるが相変わらず、エレナには頭が上がらない。


「それにしてもこんな朝早くから仕事って、特に最近なんか忙しいよね、エレナ?」

「最近は新スタジアム建設の仕事が多いからね。お蔭で寝不足よ」

「えっ、新スタジアムを⁉ もう⁉」


 まさか計画にびっくりする。 

 たしか去年の今ごろにエレナは「いつかは5万人クラスのスタジアムを新設できたらいいわね……」と言っていたはず。


 それが早くも動いていたのだ。


「まあ、土地はヴァスマイヤー家が所有している候補地があるからね。それにスタジアムの命名権を水面下で申し出てきた超大手のスポンサーもいたの。だから建設の準備を急いでいたのよ」

「超大手スポンサーの命名権か……それは凄いね……」


 この時代のドイツでは、命名権でスタジアム建設費と維持費を補填するクラブが多かった。

 超大手スポンサーになると、その金額だけ総額数十億円を超えることもある。それだけサッカービジネスは大金が動いているのだ。


「これも選手たちが結果を出してくれているお蔭よ。各企業は投資先としてF.S.Vに注目しているのよ」

「なるほど。勝ち続ければ夢が必ず叶うんだね……サッカーの世界は」


 オレがサッカーを好きなところは、この夢への一本道があることである。

 どんな国の無名なクラブでも、ずっと勝ち続ければ世界大会へ出場する可能性がある。


 またどんな無名な子どもでも、サッカーの才能を開花させれば、ビッグクラブからスカウトがある。貧しい少年が億万長者になった伝説は実際にあるのだ。


「ここまでF.S.Vがこられたのも、全部コータのお蔭よ……」

「えっ、そうかな? ボクは普通にサッカーを楽しんでいただけなんだけど」


「普通にって……相変わらず、自覚がないのが力の源なのかしら? まあ、いいわ。とにかく今季は1部昇格を目指していかにと」

「うん、そうだね。新スタジアムのためにも絶対にだね!」


 超大手スポンサーを正式に契約を結ぶために油断はできない。

 とにかくF.S.Vは勝ち続けるしかない。


「そういえば話は変わるけど、エレナ、髪が伸びたのかな? 前と雰囲気が違うけど?」

「こ、これは……前にコータが長い髪の毛の女の子が好きだって言っていたから……」


「えっ、そうだけっけ? 前のエレナの方が似合っていたのに?」

「ちょっと⁉ もう、知らないわ!」


「うん、それじゃあ、またねエレナ!」


 何故かエレナはほおを膨らませて行ってしまった。

 何か怒らせることで言っちゃったのかな? 

 まあ、気にしないでおこう。


「それにしても新スタジアムか……楽しみだな……」


 完成には何年かかるか分からない。少なくともオレがドイツにいる間は、基礎工事も始まらないであろう。

 でも数年後に完成するかもしれない新スタジアムの夢にワクワクしていた。


「よし、これまで以上に頑張らないとな!」


 気合を入れ直して自主練を再開する。

 いまのところF.S.Vを取り巻く環境は順調そのもの。


 あとはリーグ戦で勝ち続けていくしかない。


「あっそうだ……今度また、特訓をしないとな」


 大人のプロリーグで戦っていると、自分の苦手な分野が浮き出しになる。

 オレそのつど特訓をしていた。


 オレの個人的な今の目標は“凄いサッカー選手”になること。

 そのためには一日たりとも無駄にできない。


「またユリアンさんやチームメイトのみんなに相談しよっと!」


 こうしてオレは試合と自主練の充実した日々を過ごしていくのであった。


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