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素人おっさん、転生サッカーライフを満喫する【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【中学生編】

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第83話:暗い霧の底から

 ユベトスとの試合から、数日が経つ。

 今日は日曜日。二部リーグの試合の翌日なのでで、チーム練習も全休である。


「ねえ、コータ! 今度はあのジェットコースターに乗りましょうよ!」


 そんな日曜日の午前中。エレナに連れられて、オレはドイツ国内の遊園地に来ていた。

 エレナとのいつもの日曜の定例会議に来たら、急に誘われて強引に連れてこられたのだ。


「次は、あっちの乗り物にしましょう! ちょっと怖そうだけど、面白そうよね!」


 今日のエレナは少し変であった。

 いつもよりもテンションが高くて、強引にオレを連れ回している。


 しかも恰好が、いつものフリフリのお嬢様の格好ではない。

 短いホットパンツにタイツと、活動的なファッションであった。でも、こういう格好も似合っている。


「次はあれにしましょう、コータ! ドイツでも一番凄い乗り物なのよ、あれは?」


 こんなハイテンションなエレナは初めて見た。

 彼女は学校ではいつもお嬢様風である。

 またF.S.Vのクラブでは特別アドバイザーとして、ハッキリとした感じだ。


 それに比べたら今日のエレナは、年頃の女の子っぽい……というか、無理してハイテンションにしているように感じた。

 いったい、どうしたのであろうか?


「少し休憩しましょう。次はあのジュースを一緒に飲みましょう?」


 いつの間にか午後の三時になったので、お茶をすることになった。

 フードコートでポップコーンを食べながら、ジュースを飲むことにした。


 そのジュースのカップには、サッカーボールのイラストが描かれていた。

 さすがはサッカー大国ドイツ。こんなところにもサッカーのイラストがあるのか。



(えっ……サッカー?)


 オレの動きは止まる。


(サッカーボール……サッカーの試合……ヒョウマ君との再会……ヒョウマ君から逃げ出したオレ……)


 それを見て我に返った。

 ずっと地面を見ていたら顔を上げる。

 瞳に眩しい光が差し込んできた。


「眩しい……?」


 数日ぶりの光であった。

 今まで暗い霧に中にいたような感覚が、急に晴れわたったのだ。


「あれ、エレナ? ここはどこ? なんで、こんな所に、ボクたちは……? 」

「ようやく目線を合わせてくれたのね、コータ。調子は、どう? 大丈夫?」


 今日初めてエレナの顔を見た。ここ数日は地面しか見ていなかった気がする。


「うん……よく分からないけど、良くはないかも。何でだろう……?」

「やっぱり、そうね。イタリアから戻って来てから、あなたはずっと死にそうな顔をしていたのよ。覚えている?」

「えっ? でも、そういえば、そうかもしれないね……ボクは……」


 段々と記憶が戻ってきた。

 オレはこの数日間、暗い霧の底のような場所にハマり込んでいたのだ。


「そんなにショックだったの? ユベトスU-18に負けたことが? それともレオナルド・リッチに完璧に抑え込まれたことが?」


 オレが霧の中に堕ちたのは、ユベトスU-18に負けた直後である。

 後半から出場してきたレオナルド・リッチ。彼にマークにつかれたオレは後半、何もさせてもらえずに、更にチームも敗北した。


 その試合を観ていたエレナは、心配していたのだ。


「まあ、負けて悔しいのは仕方ないわよね? 私もよく分かるわ。それにあのレオナルド・リッチが下のU-18の試合に、いきなり出場してくるなんて卑怯よね? 本当ずるいわ!」


 エレナがほおを膨らませて、怒っているのも無理もない。


 何しろレオナルドさんはセリエAの大事な試合を控えていた。

 だから彼が出場してきることは、あの場にいた誰も予想していなかったことなのだ。


 ちなみにユベトスU-18のメンバーに登録されていたのも、クラブの宣伝のためだったらしい。


「なんで天下のユベトスのトップ選手が、たかがU-18のリーグ戦に出てきたのかしら? 誰だって、あんなのに勝てるはずはないわ。まったく、もう!」


 たしかにセリエAのトップの選手であるレオナルドさんは凄かった。


 あの時、彼の登場が告げられた瞬間、スタジアムは大きく揺れていた。

 何しろヤング世代を見るために来たはずの試合で、トップ選手のレオナルド・リッチが出場したのである。

 それに大興奮したユベトスのサポート団が、大歓声をあげたのだ。


 その後、レオナルド・リッチの出場の情報はあっとう間に広がっていく。

 あの日の試合が終わるころには、空席だらけのスタジアムは、ユベトスサポートで埋まっていた。

 レオナルド・リッチのプレイをひと目見ようと、市民が押し寄せてきたのである。


「うん、そうだね。レオナルドさんは凄かったね……」


 彼のプレイを思い出しながら、感慨にひたる。

 レオナルドさんが一人投入されただけで、ユベトスU-18は別チームと化していた。

 その圧倒的に変化した前に、オレたちF.S.Vは歯が立たなかったのである。

 

「だからコータも元気だして。レオナルド・リッチに一度負けたからといって、気にすることはないわ!」

「ありがとう、エレナ。でもボクが落ち込んでいたのは、実はそのことじゃないんだ」

「えっ? じゃあ、なんで?」

「それはヒョウマ君……ボクの元チームメイトが、レオナルドさんに生かされていたことが、原因なんだ……」


 あれは本当にショッキングな事件であった。

 レオナルドさんが司令塔になったことで、ヒョウマ君のプレイが別次元のものへと覚醒した。


 レオナルドさんからの絶妙なパス。

 相手の長所を超えた、更に一段階上へのゲーム展開。

 その芸術品のようなプレイに反応して、ヒョウマ君は見たこともないプレイを繰り出してきた。


(ボクでは引き出せなかった、本当の姿のヒョウマ君……それをレオナルドさんが……)


 それを見たため、オレは試合後に放心状態に陥った。

 話しかけてきたヒョウマ君から逃げ出し、スタジアムを後にしたのだ。


「少しだけ、聞いてくれるかな、エレナ?」

「ええ。私でよければ」

「ここだけの話、自負があったんだよね……『ヒョウマ君を世界で一番上手く生かせるのは、このボクだ!』って……」


 彼と出会ったのは小学二年生の時。

 その日の衝撃を、オレは今でも忘れていない。

 オレの中ではヒョウマ君は憧れの選手であり、尊敬できる人であった。

 そして自分の中での最大のライバルであり、最高のコンビだと思っていた。


「彼と組んだジュニア時代は、本当に楽しい日々だったんだ……」


 ヒョウマ君とオレは数多の激戦を、共にくぐり抜けてきた。


 数々の大会やトーナメント、地区と県大会。

 更にU-15日本代表として、アジアとの強豪とも戦った。


 またU-12ワールドカップでは、世界各国のクラブとも死闘を繰り広げた。

 スペインのあのセルビオ・ガルシアのチームにも勝てたのは、オレとヒョウマ君のコンビネーションが決まったからだ。


「ヒョウマ君とボクは……」


 彼との自主練は何百回したか覚えていない。


 ヒョウマ君との1対1の勝負を記録したノートは、オレにとっての宝物だった。


 彼に出したパスの数と感動の全てを、オレは今でも忘れていない。


 ヒョウマ君と過ごした5年間は、オレにとって宝であり、誇りある日々だったのだ。


「でも、ヒョウマ君を一番良く生かせたのはレオナルドさんだった……」


 あの衝撃はオレの全てを否定した。

 一年未満にも過ぎないあの二人のプレイは、オレとの5年間の宝を否定してしまったのだ。


「ボクは何のためにサッカーを……」


 ヒョウマ君と約束をしていた。

 彼はオレの夢を手助けしてくれると言ってくれた。

 J1に導くための可能性をの夢を……『コータ5%+ヒョウマ6%』で夢を叶えようと宣言してくれた。


 でも、あの時に語った夢ですら、今は不安で仕方がない

 何しろFWの選手にとって、自分を生かせるパートナーは何より大事。

 もしかしたらヒョウマ君は、このまま一生ユベトスに残るのかもしれない。


 そんな不安の暗い霧の底に、この数日間のオレは落ちていたのだ。


「そう……そんなことがあったのね。コータに……」


 エレナは話を静かに聞いてくれた。

 ここまで深い話をしたのは、彼女が初めてである。それだけでも少しだけ心が軽くなった。


「それで、これからどうするの、コータ? サッカーのこと嫌いになった? サッカーを止めるの? 凄い選手になる夢を諦めるの? 教えて?」


 エレナは真剣な表情で問いかけてきた。

 きっとオレがサッカーを辞めると心配しているのであろう。


「サッカーを辞める……それは……」


 それはない。

 どんな暗い霧の底に、たとえ何度堕ちようが、それだけは絶対にない!


 何故なら今世のオレは覚悟を決めていた。

 サッカーに全てを捧げて生きていくと。


 よし、そうと決めたら行動を開始しないと!


「よし、復活した! エレナ、ありがとう!」

「えっ、もう? ちょっと復活するのが早すぎるわよ⁉ こう時は、もう少し迷って、私とかに涙を見せながら、それから立ち直るものなのよ!」


 えっ、そんなものなのであろうか?

 楽天的なオレはあまり気にしないでおこう。


「でもコータらしくて、良かったわ」

「うん、ボクらしいね! とにかく今から戻ろう、エレナ!」

「えっ? 今からどこに?」


 今はまだ遊園地で遊んでいる最中である。

 地元に戻る頃には夕方になっているであろう。


「それは決まっているよ、エレナ。今から特訓の準備だよ! ボクがパワーアップするために特訓しないと!」


 オレが導き出した答えはシンプルであった。

 悔しいけど現時点では、レオナルドさんの方が優れ選手である。

 それなら、あの人を超える特訓を積んで、更に成長するしかない。

 今まで以上に凄い選手になって、オレ自身がヒョウマ君に相応しい男になる作戦なのだ。


「あなた、特訓って……急に漫画みたいなことを言わないでよね。ところで特訓の方向性の考えはあるの、コータ?」

「うーん……実はボクも、それがよく分からないんだよね。だからユリアンさんに会いに行こうと思うんだ!」

「えっ、これからユリアンお兄さまに?」


 エレナの兄であるユリアン・ヴァスマイヤーは、身近にいる最も才能がある選手。

 更にユリアンさんは過去に、ユベトス・ジュニアに所属していた。あのレオナルドさんとチームメイトだった。


 そんなユリアンさんなら、もしかしたら何か知っているかもしれない。

 オレとレオナルドさんの現時点での差を……何か特訓のヒントを見抜いているかもしれない。


「なるほど、そういうことね。せっかく二人きり遊園地に来たのに……でも、いつものコータに戻って良かったわ」


 エレナは苦笑いする。でも今日一番の笑顔で笑っていた。


「あと、エレナ。今日はありがとね」

「えっ……ありがとうって、な、なんのことかしら?」

「ボクを元気づけるために、遊園地に連れてきてくれたんだよね。エレナらしくないハイテンションで?」


 霧の底に堕ちていたオレを、彼女は助けようとしていた。

 きっと今日は自分の仕事のスケジュールを、エレナは無理矢理キャンセルしてくれたのであろう。


 オレをサッカーの環境から離すために、わざわざ遊園地に連れてきたのだ。


「そ、それは遊園地のチケットが余って、今日は暇だったからよ……」

「じゃあ、そういうことにしておくね。よし。ユリアンさんに会いにいこう!」

「ちょっと、待ってよ、コータ。いきなり走りださないでよ⁉」


 こうしてオレは暗い霧の奥底から帰還した。

 そして新たなる道に挑戦することを決意する。


(ヒョウマ君……待っていてね……)


 次のユベトスU-18との試合までは、2ヶ月の猶予しかない。

 オレは特訓の道を模索するのであった。


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