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第79話:新たなる戦場

 ドイツ二部リーグが開幕してから、三週間が経つ。

 我らがF.S.Vは2勝1分けと、好調なスタートダッシュを決めていた。


「ふう……二部リーグは強敵そろいだったな……」


 クラブの練習場にて一人で自主練しながら、オレはこれまでの三試合を振り返る。

 好調なスタートをしていたが、楽な試合は一度もなかったのだ。


「特に個人の質の高さが3部リーグの時とは、段違いだったな……」


 ドイツ2部リーグは世界的にも、ハイレベルだと言われている。

 その分かりやすい指数の一つに、選手の平均年棒があった。


 去年まで戦っていた3部リーグは、一人の選手の平均年棒は約1,400万円。

 それに比べて今季の2部リーグの平均年棒は、5,500万円だというデータが公開されていた。


「2部なのに5,000万円越えか……他の国のトップリーグの平均年棒を軽く超える、ドイツの2部リーグ。本当に凄いな」


 平均年棒がリーグの実力ではないが、選手の質に直結していたのは確かである。

 世界各国の代表クラスの選手がドイツの2部リーグに、わざわざ出場の機会を求めて移籍してくる時代なのだ。


「それだけハイレベルだということか……」


 2部リーグのライバルチームには当たり前のように、各国の代表と世代別の代表が顔を揃えている。

 それに加えてドイツの優秀な選手が、宝石のように散らばっていた。


 彼らは更なる高みを目指して、2部リーグで日々しのぎを削っているのだ。


「でもF.S.Vも戦力が増強したから、今後も上手くいけば……」


 新生F.S.Vは2部リーグの強豪クラブを相手に、今のところ互角以上の戦いをしていた。

 それは昇格に備えて、F.S.Vもパワーアップしていたからだ。


 まずは地元ドイツの才能ある選手が、クラブに加入してきた。また外国人枠として、世代別の代表クラスの選手も移籍してきた。

 昨年まで順調だったF.S.Vに、更に新しい力と刺激が加わった形になったのだ。


「これも2部昇格の効果か……やっぱりヨーロッパのサッカーマネーは、凄いな」


 2部に昇格したことでF.S.Vのスポンサーは倍増した。

 また放映権による収入は数倍になり、チケットとグッツの売上高も急増中だという。


 そうしたクラブ収入の増収を、選手の年棒やスタジアムの増設などに当てている。勝ち続けていけば、好循環でクラブは強化されていくのだ。


「そういえばチームメイトの皆も、年棒が上がって喜んでいたよな……」


 昨年までF.S.Vの平均年棒は約2,000万円だった。それが今季は平均で6,000万円に増えていた。

 その急増金で、高級車の新車で買っていたチームメイトもいた。カッコイイ真っ赤なスポーツカーだった。


 ちなみにこの時代の日本のJ1の平均年棒は2,000万円である。

 それと比較してもヨーロッパのサッカーは、世界トップクラスの環境なのかもしれない。


「サッカーマネーか……まあ、ボクには関係ない話なんだけどね!」


 オレはまだ十四歳の中学生で、ドイツには勉強のために来ていた。

 だからF.S.Vとの契約も、特殊なものになっている。


 簡単にいうと中学生の間は、オレには1円も貰えない。その代わりに特別選手として、大人の試合に出られるのだ。


「サッカーにさえ集中できれば、ボクは最高だからね」


 年棒が出ない分だけ他の経費は、すべてクラブが負担してくれる。

 また面倒くさいビザの申請や法律問題なども、クラブの専門家がやってくれていた。


 ちなみに年棒に関してはオレが高校生になった時に、後払いで振り込まれるみたいだ。

 まあ、その辺のお金のことは気にしない。

 何故ならオレはサッカー修行中のためにドイツに来た。大人の試合に出して貰えるだけも有りがたいのだ。


「よっと。さて、今日はこれからどうしようかな?」


 自主練も一区切りついた。

 昨日リーグ戦があったため、日曜日の今日はチーム練習が全休。練習場にはいない。


 また、こんな時にいつも遊んでくれるF.S.VのU-15の連中も、遠征で違う街に行っていた。

 だから久しぶりに一人ぼっちの自主練で、けっこう寂しい状況なのだ。


「あっ、コータ。やっぱり、ここにいたのね?」

「あっ、エレナ。おはよう!」


 そんな時、エレナが練習場にやってきた。

 彼女は資料を手に持っているから、今日もクラブ経営の仕事中かな?


「何を言っているの、コータ。あなたは今日クラブハウスに呼ばれていたのでしょう?」

「えっ? 今日クラブハウスに? あっ、そういえば!」


 昨日の試合の後、監督に言われたのを忘れていた。

 そうだった……大事な話があるから、クラブハウスに行かないといけないのだ。

 危ない、危ない。


 そういえばオレ以外にも、数人のF.S.Vの選手が集まるはず。でも、いったい何の話だろう?


「とにかく行くわよ、コータ」

「あっ、待ってよ、エレナ!」


 オレは自主練を中断して、隣接するクラブハウスに向かうのであった。



 クラブハウスのミーティングルームにやってきた。

 既に二十人くらいの選手が集まっていた。


「おはよう、コータ君」

「ユリアンさん、おはようございます」


 その中にはユリアンさんもいた。他にも一軍のチームメイトも数人いる。

 それ以外は二軍の選手が多い。彼らとは最初の数ヶ月間、共に戦った仲間である。全員に挨拶をしておく。


『では、全員が揃ったところで、始めるぞ』


 F.S.Vの役員が司会者となり、ミーティングが開始となる。

 前方のスクリーンに映像が映し出されていく。


『ここに集まった諸君には、新チームとして新リーグ“UCLヤングリーグ”戦い挑んでもらう!』


 役員は映像で説明をしていく。


『UCLヤングリーグ! おお、いよいよか……』

『ああ。見せ場のチャンスだな……』

『オレたちも這い上がるための……』


 その説明にチームメイトがざわつく。

 彼らはクラブの中では若手の部類で、どちらかといえば控えの選手が多い。その瞳は野望に燃えてギラギラしていた。


「えっ、UCLヤングリーグ?」


 初めて聞く内容にオレは首を傾げる。

 でも他のチームメイトの反応から、オレも前に説明を受けているのかもしれない。

 今さら挙手して、役員さんに聞ける場の雰囲気ではない。


「あの……エレナ様……?」


 こんな時に頼りになるのは、同級生のエレナ様。

 隣の席に座っている特別アドバイザーに、オレは小声で訪ねる。


「UCLヤングリーグって……なんでしたっけ?」

「ちょっと、コータ……あなた、やっぱりまた忘れたの⁉」

「あはは……ごめんさい」

「仕方がないわね……」


 エレナはため息をついてから、小声で説明してくれる。


 それによると“UCLヤングリーグ”はクラブチームによる、サッカーのヨーロッパ選手権大会だという。

 ヨーロッパの各国にあるリーグの中で、18歳以下の若手のチームだけが参加できるリーグ戦。

 期間は来月の9月から、来年の5月までの9か月間。定期的にリーグ戦を行い、優勝チームを決めるのだという。


「ああ、そうか! あの時の話か」


 エレナの説明を聞いて思い出した。

 そういえば3ヶ月前の5月の末に、そんな話を役員から聞いた気がする。


 たしかF.S.Vはドイツの3部リーグで優勝したために、今季は参加する資格があるという。

 だからF.S.Vの1軍と2軍の中から、条件に合う年齢の選手で参加チームを形成する。

 その参加チーム……F.S.Vヤングチームに中に、オレの入る予定があるから準備しておけ。


 たしか、そう言われていたのだ。

 その後もバタバタしていたので、すっかり忘れていた。


「その様子なら思い出したみたいね、コータ?」

「あはは……ありがとう、エレナ」


 エレナのお蔭で全部思いだせた。

 なるほどF.S.Vヤングチームか……これは楽しみだな。

 ミーティングルームを改めて見回す。


 ここにいるのはF.S.Vの中でも、18歳以下の若手の選手ばかりである。

 ほとんど全員が一緒にプレイして、練習もしたことがある顔見知りばかり。

 F.S.Vヤングは今後のクラブを背負っていく、才能と未来があるフレッシュなチームになりそうだ。


『UCLヤングリーグは、ドイツ国内リーグと並行して行われる。これから1年間はかなりハードなスケジュールになるから、各自で覚悟しておくように!』


 役員から今後のスケジュールについて説明がある。

 ふむふむ、なるほど。

 国内の2部リーグは、基本的に金曜日や土曜日、日曜日、月曜日の週末近辺に開催されてきた。

 2部リーグは年間で34試合あるから、1週間に1試合のペースである。


 それに加えてUCLヤングリーグは、ひと月に2試合くらいのペースで開催されるという。

 更にヨーロッパ全土のホーム&アウェー方式で試合をするために、移動時間が今までの数倍となる。


 たしかに国内リーグとヤングリーグの掛け持ちは、かなり大変そうだった。


(でもヨーロッパ各地のクラブと戦えるなんて、本当に凄いな……)


 スケジュールを聞きながら、オレはワクワクしていた。

 今まではドイツ国内のクラブとしか、対戦したことはない。

 だが来月からは、それに加えて色んな国の人たちを戦える。


 ドイツにサッカー修行に来ているオレにしたら、これ以上の経験はないのだ。

 本当にヤングリーグの開幕が楽しみで仕方がない


『ミーティングは以上だ。気になる者は残って、個人的に面談をする』


 役員によるミーティングは終了する。

 だがヤングチームの皆は、まだざわついている。

 彼らも来月から参戦するUCLヤングリーグに、興奮している。はい上がるために必死なのだ。


「コータ君、説明は大丈夫だったなか?」

「あっ、ユリアンさん。はい。たぶん大丈夫です」


 ミーティングの後に、ユリアンさんが話かけてきた。忘れっぽいオレのことを、心配してくれていたらしい。


「特に私たちは1軍の試合に加えて、UCLヤングリーグだから大変だ。気を付けていこう」

「たしかにそうですね」


 ヤングチームの中で1軍の正規レギュラー選手なのは、今のところオレとユリアンさんしかいない。他の人は1軍の控えと2軍の選手である。

 またオレは最年少の14歳なので、スタミナのことを心配してくれたのだ。


「たぶん大丈夫だと思います。今から来月のUCLヤングリーグが楽しみです!」


 今のオレの職務のメインは、ドイツ国内のリーグ戦である。

 だが新たなヤングリーグに対して、オレは興奮していた。年代の近い未知なる強敵に心が踊っていたのだ。


「ヤングリーグか……よし、頑張るぞ!」


 こうしてオレは新たなるリーグ戦に挑戦することになった。

 ヨーロッパ各地のクラブと戦うことになったのだ。


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