エピソードその1:ヒョウマ君の家の秘密(前編)
最近はサッカーの試合が見れないので、サッカーのことを逆に考えて、ふと投稿してみました。よろしくお願いいたします。
これはオレが小学4年の春休みの時の話だ。
今日はヒョウマ君の家で、お泊り会の日。メンバーはオレとチームメイト数人である。
今宵は日本代表の試合が放送されるので、みんなでTV観戦してそのまま泊まらせてもらうのだ。
「こんにちは!」
オレだけひと足先に早く着いた。玄関でヒョウマ君のお母さんに挨拶をする。
「あら、コータ君、早いわね。こちらこそ、よろしく」
ヒョウマ君のお母さんはかなり美人さんだ。
何でも元はモデルの仕事をしていたという。三十歳を越えているのに、まだ二十代前半にしか見えない若々しさだ。
うちの年齢相当で庶民派の母親とは違う。
もしかしたらプロサッカー選手になると、キレイな女の人と出会うことが出来るのであろうか? もしもそうなら、オレも将来はプロ選手にならねば。
「ヒョウマは買い出しに行っているから、先に上がってちょうだい」
「おじゃまします!」
ヒョウマ君はみんなの分のジュースやお菓子を買い出し中だという。彼が帰って来るまで待たせてもらうとするか。
「コータ君たちの荷物は、二階のヒョウマの部屋に置いておいてね」
「えっ……今日はヒョウマ君の部屋に入れるんですか?」
オレはヒョウマ君の部屋に入ったことはない。この澤村家にはサッカーのTVの勉強会の時に、何度かお邪魔したことはある。
でもTVのあるリビング以外の部屋には入ったことがないのだ。
「あら、そうだったかしら? じゃあ、折角だから家の中を案内するわ」
「本当ですか? ありがとうございます、ヒョウマ君のママ」
ヒョウマ君が帰って来るまで少し時間がある。こうしてオレは家の中を案内してもらうことなったのだ。
◇
「まず、ここがヒョウマの部屋ね」
「うわー、ここが……」
最初に案内されたヒョウマ君の部屋は、かなり広かった。
畳にして十二畳以上はあり、庶民のオレの部屋の倍以上はあった。サッカー用品は何も置いてなく、大人っぽい部屋である。
「あっ、このポスターは?」
部屋の片隅に、サッカー選手のポスターを発見した。
張られていたのは世界トップクラスの選手のポスター。ヒョウマ君と同じようにFWの人だった。
「こんな一面があったなんて、意外だな……」
どちらかといえばヒョウマ君は、サッカーに関してミーハーな部分を見せない。
いつもクールにしていて、こんなポスターを張っているのはイメージがなかった。
「そのポスターは去年から張り出したのよ」
「去年ですか?」
「そうね……去年の全国大会の後かしら? サッカーに対する情熱を、急に燃やし始めた時期だったわ」
去年の全国大会か……それはオレたちが準々決勝で、横浜マリナーズに負けた年だ。
あの敗北はオレたちに大きな転換期となった。ヒョウマ君は個人主義から、チームに貢献するようになった時期である。
きっと彼の中でも心境の変化があって、ポスターを張ったのであろう。
「じゃあ、次の部屋を案内するわ。サッカー関係だと、こっちね」
お母さんの案内で、次の部屋に移動する。
サッカーに関係する部屋か……他にどんな部屋があるのかな。
「ここよ……今、電気をつけるから、ちょっと待ってね」
案内されたのは、一階の薄暗い部屋であった。雰囲気としては、室内用の車庫みたいな場所である。
「電気のスイッチは……あった、ここだわ」
「うわ……」
電気が付いて、部屋が明るくなった。目の前の光景にオレは思わず声を上げる。
「ここは……室内用の練習場ですか?」
「そうね。車庫と倉庫を繋げてリフォームしたのよ」
目の前に広がっていた練習場は圧巻であった。
車が三台は楽々に入る広さがある。天井もけっこう高くて、圧迫感はない。
「しかも、ここは人工芝か……」
練習場は全面人工芝が敷かれていた。ゴムチップもまかれており、小学生用のゴールも設置。これは完全にサッカー専用の空間である。
「ここは凄い家ですね……」
「やっぱり、ちょっと、ビックリするわよね。元々は普通の家だったのよ」
お母さんが練習場について説明してくれる。
この家は元々ヒョウマ君のお母さんの実家だという。
ヒョウマ君が二年生の夏休みに、ここに引っ越すことが決定。大々的にリフォームして、今の形になったという。
「練習場は主人が息子のために用意したのなの」
車庫を練習場にリフォームしたのは、ヒョウマ君の父親だという。自分で設計して、業者に依頼して改造。人工芝やゴールネットも、本物を用意したという。
「す、凄いお父さんですね……」
「よっぽど嬉しかったのかもね……ヒョウマがサッカーに本気で取り組みはじめて」
なるほど。父親というのは、そういうものなのかもしれない。我が家の父親も、オレのために色々と用意してくれた。
野呂家にも六畳だけどサッカー練習場がある。練習場といっても、部屋に絨毯を敷いただけの簡単な場所。ヒョウマ君の家ほど立派ではない。
でもオレにとっては大事な場所であった。三歳の時から毎日のように、あそこで自主練をしていた。
そう考えると家族の協力はありがたい。改めて両親に感謝である。
「ん……あれ? この穴は?」
天然芝が大きく削れた場所を見つけた。不思議とそこだけ消耗している。
この穴はいったい何だろう?
◇
読んで頂きありがとうございます。
後編は明日以降に投稿します。
◇
あと「面白い!」「続きが気になる!」と思った
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