未来へのエピローグ
「あっ、ヒョウマ君! 久しぶり!」
「相変わらず元気そうだな、コータ」
オレは久しぶりに再会した親友ヒョウマ君と、固い握手を交わす。
それにしても相変わらずヒョウマ君はカッコイイ。
40代になっても、スリムな体系を維持。
イタリア産の細身のスーツが、ビシッと決まっている。
「それを言うなら、コータ、お前の方が異常だぞ。40才を超えても、未だワールドクラスの現役バリバリ。普通はいないぞ、お前みたいが奴は」
「えー、そうかな? これでもボクも少しは衰えてきたんだよ!」
サッカー選手の肉体的なピークは、20代後半と言われている。
40才を過ぎたオレも、昔に比べて身体能力は下がっていた。
だが身体のケアは幼稚園時代から、一日たりとも欠かしたことはない。
そのお陰で普通の人より、身体能力の低下はかなり少なかった。
またオレのプレイスタイルは、身体能力に頼ったものではない。
積み重ねてきた基本技と戦術理解力。
あとは幼稚園のころから鍛えてきた、動体視力や反射神経たち。
何より頼りになる基礎の技の組み合わせ。
そんな武器があったからこそ、オレは今でも現役でサッカーが出来ていたのだ。
「それにヒョウマ君の方がカッコよかったよ。何しろ最高潮の時に、現役選手を電撃引退! その後は企業家として大成功で、世界のサッカー振興に多大な影響を与えているんだからね!」
ヒョウマ君は全盛期32歳の時に、現役選手として引退をしていた。
当時は世界中のファンから、引退を惜しまれていたものである。
当時オレも電話で聞いた時は、本当に驚いた。
でも、同時に納得もいっていた。
ヒョウマ君らしいカッコイイ引退の時期だと。
世界中の得点王の記録を塗り替えて、最高にドラマチックなタイミングでの引退。
澤村ヒョウマは伝説の男になったのだ。
「ところで、コータ。お前、最近のサッカーの調子はいいのか?」
「うん、そうだね。前と同じように楽しくサッカーしているよ!」
40才を過ぎてピークを、肉体的な過ぎていた。
だがサッカーに対する情熱は、昔よりも強くなっている。
何しろオレは前世の31歳で亡くなった。
だから32歳以降に出てきた選手は、前世でも知らない選手ばかり。
そんな世界中のスーパースターと、未だに戦える……そう、考えただけでも、モチベーションが急上昇。
サッカーオタクにはたまらない毎日を、今のオレは過ごしているのだ。
去年もヨーロッパで、すごい選手たちばかりと戦えた。
「去年といえば、ヒョウマ君。ゲードさんの、お葬式もあったね」
「ああ、あのゲルハルト爺さんか……大往生だったな」
ゲードさんは去年、亡くなった。
97歳という天寿を全うして、生まれ故郷のドイツで、静かに眠りについた。
世界中の大物サッカー関係者が、ゲードさんの冥福を祈るメッセージを発していた。
(ゲードさん……ゲルハルトさんか……)
オレは小学生の時から、ゲードさんにお世話になっていた
だが後でその正体を知って驚いた。
なんと、あのドイツの伝説のプレイヤーのゲルハルト・ノイヤーだったのだ。
(今のオレがあるのは、小学生の時にゲードさんに声をかけてもらったからだな……)
ゲードさんには、大人になってからも、オレはお世話になっていた。
あの人のお蔭で、世界中のサッカー関係者と、仲良くなれた気がする。
オレの人生のとって偉大な“導き手”のような存在だった。
本当に今でも感謝している。
とにかくサッカーボールのお蔭で、オレは最高の毎日を過ごしていた。
「相変わらず前向きだな、コータ」
「エヘヘヘ……ヒョウマ君にそう言われると照れるな」
オレの中で未だに澤村ヒョウマは、世界一カッコイイ男である。
プレイスタイルだけはなく、性格や生き方を含めて、ヒョウマ君は全てがカッコイイ。
だからヒョウマ君に褒められると、今でも最高の気分になれるのだ。
「そうか、コータ。とにかく今回は頼りにしているぞ。久しぶりの日本代表だが、大丈夫か?」
オレはサッカー選手としては現役を続けている。
だが日本代表としては32才の時に、自ら代表から引退していた。
ヒョウマ君と同じタイミングでの、代表からの身を引いた。
代表引退の発表の時は、多くの人にひき止められ。何しろ全盛期の円熟期に、オレは代表を引退したのだ。
たが、あれも若い世代に、日本代表の席を譲るため決断。今でも後悔はしていない。
だが今回は澤村ヒョウマ新監督……ヒョウマ君が日本代表の監督になった。その召集の打診を受けて、オレは約10年ぶりに日本代表復帰をしたのだ。
「頼むぞ、コータ。今回は日本サッカーの、久々の危機だからな」
「そうだね、ヒョウマ君。今回のワールドカップは、何としてでも結果を出さないとね……」
近年、日本サッカーは順調だった。
だが昨年の夏に、日本サッカー協会の大きな不祥事が発覚。
日本サッカー界は危機に陥っていたのだ。
「そのためのオレ様の代表監督の抜擢……コータ、お前の代表復帰という訳だ」
「そうだね。これもヒョウマ君のパパ……澤村ナオト新会長のお蔭だね」
不祥事を起こした前会長の代わりに、サッカー協会の会長に就任したのは、ヒョウマ君のお父さんであった。
〝澤村ナオト日本サッカー協会会長の誕生”
日本サッカー事態の腐敗を払しょくしようと、大改革をしようとしていた。
その一端として、40代前半という若さのヒョウマ君が、日本代表監督に大抜擢されたのだ。
「だがオレ様たちが現場に立っても、世界の強豪たちは強敵だぞ」
「うん、そうだね、ヒョウマ君……今回のワールドカップも強敵そろいだね」
20数年前に比べて日本サッカーのレベルは、はるかに向上している。
だが同時に世界のサッカーも、昔に比べて進化していた。
特に凄いのが新興勢力の中東勢力やオセアニア勢力、アジア各国や北米国の躍進。
20数年前からは想像できない、サッカー新興国が増えていたのだ。
本当にサッカーの世界は、何が変わるか想像もできない。
だからこそ面白んだけどね。
「ふん。それは全部、お前が活躍して、お前が活性化した地域ばかりだぞ、コータ」
「えっ、そうだったかな、ヒョウマ君?」
「ああ、そうだぞ。まったく相変わらず、物忘れが激しいな、お前は」
この20数年、オレは世界中のサッカーリーグを渡り歩いてきた。
その中でも本当に楽しい出会いがあった。
同時に、偶然にも世界中のサッカーの振興の手伝いを、オレは出来てきたのだ。
「それらの新興国に加えて、今回のワールドカップでは、ヨーロッパと南米の各国の復活ある」
「ヨーロッパと南米の各国か……本当にそうだね、ヒョウマ君」
新興国が台頭してきても、やはりサッカーの強豪国はヨーロッパと南米に集中していた。
今回のワールドカップでも、多くのスーパープレイヤーたちが台頭しているのだ。
「世界のサッカーのレベルは20年前に比べて、数倍だろうな。本当にいけるのか、コータ?」
「うん、ヒョウマ君……どうなるか、分からないけど、ボクは精いっぱい頑張るね!」
ワールドカップの厳しさは、オレ自身も知っていた。
どんなにスーパースターを揃えていても、予選リーグで敗退してしまう国もある。
あのセルビオ・ガルシアやレオナルド・リッチですら、ワールドカップは何度も悲劇を味わっていたのだ。
スーパーストライカーな全盛期ヒョウマ君を有する日本代表も、ワールドカップで優勝できたのは2回だけ。
オレたちが23歳と31歳の時のワールドカップである。
どんなスーパー選手を有していても、魔のワールドカップで勝ち進んでいくことは難しいのだ。
「それに今回は、あの子のデビューだから、大丈夫かな、ヒョウマ君?」
「あの子だと……ああ、“アイツ”か。たしかに小さな頃から次元が違ったが、だが本当にいけるのか、コータ?」
「うーん、どうかな……ボクとしては、あの子はけっこう上手い部類だと思うんだけど……」
今回の日本代表には、秘密兵器がいた。
その選手の日本代表歴は無し。
Jリーグや高校サッカーなど、日本での出場経験もなし。
海外での公式出場記録ですら、全くのゼロの無名の選手だった。
その選手は、試合は海外の野良試合とか、ビーチサッカー、ストリートサッカーを毎日のようにしていた経歴しかない。
そんな無名で無経歴な選手を、オレとヒョウマ君の推薦で、強引に日本代表のサプライズメンバーに入れたのだ。
◇
「失礼します。2人とも、そろそろ時間ですよ?」
その時である。
ちょうど、その秘密兵器の選手が、この監督室にやって来た。
かなり若い選手である。
年齢は代表の中でもダントツに若い16歳。
身体もそんなに大きくない青年だ。
「あっ、コータロー。わざわざ迎えにきてくれたんだね?」
「パパは時間を忘れちゃうから、迎えにきたんです。ヒョウマおじさんもパパと、あまり長話をしない下さい。今日はこれから大事な予選初戦が始まるんですから!」
オレとヒョウマ君は、ロッカールームの奥の監督室で話をしていた。
迎えに来たのは、オレのことを『パパ』と呼ぶ青年。
「いやー、コータロー。ごめん、ごめん。パパたち久しぶりだから、ついつい話し込んじゃったんだ!」
そう……40才を過ぎたオレには、子どもいたのだ。
今のところ三人の子どもがいて、目の前にいるのは16歳の長男のコータローである。
「相変わらず、コータローはしっかりしているな。コータに……父親とは正反対だな」
「ありがとうございます、ヒョウマおじさん。ご存知の通り、父はこの通りに、うっかり者なんで、ボクがしっかりしないといけなんでいす!」
オレに似ないで、コータローはしっかり者である。
息子は生まれてから、オレと一緒に世界中を旅して回っていた。
そのため大人びいているのだ。
「だが、コータロー。まだサッカーでは父を越えられていないだろ?」
「はい、そうですね、ヒョウマおじさん! プライベートではダメな父ですが、サッカー選手としては、世界最高の人です! でも野呂家の長男として、いつかボクも父超えなくてはいけなせん!」
コータローは幼い頃から、何回もヒョウマ君と会ったことがある。
野呂家と澤村家は、所属クラブと共に世界中と転々としていた。
そんな中でもオレたちは、家族ぐるみで付き合っていたのだ。
「では、スタメンのボクは先に行っています。パパも早く来てくださいね!」
長男コータローは真面目な性格である。オレとは大違いだ。
まだ早い時間前なのに、ひと足先にピッチへと向かう。
「あと、パパ。集合時間に遅刻したら、今度ママに言いつけますから」
「えっ、エレナに⁉ それは困る⁉」
コータローの母親はエレナ。
つまりオレの妻がエレナである。
なんと!
18年前、オレ、野呂コータはエレナ・ヴァスマイヤーと結婚していたのだ。
自分でも驚いていたが、ご縁とは不思議なものである。
まさか昔の自分は、あのエレナと結婚するとは、予想もしていなかったであろう。
でもヒョウマ君をはじめとする周りの皆は、オレたちの結婚に誰も驚いていなかった。
むしろ『エレナを待たせ過ぎだぞ、コータ!』と叱られてしまった。
ちなみにエレナは元気にしている。
今はFIFA、国際サッカー連盟の役員をしていた。
次期FIFA会長の有力候補であり、世界サッカーの振興のために頑張っている。
お互いサッカー関係で忙しい夫婦だけど、なるべく一緒に暮らせるようにしていた。
そのために世界中をサッカーと共に引っ越しながら、家族5人で楽しく暮らしているのだ。
「オレ様がコータローに会ったのは数年ぶりか。最近のあいつのプレイはどうなんだ、コータ?」
「うーん、どうかな? ボクとは毎日のように自主練しているから……普通かな?」
コータローは今までサッカーチームに入ったことがない。
だから、どのくらいのレベルなのオレも計り知れない。
でも、その代わりオレと、家の近所でサッカーの自主練はしてきた。
一年中、それこそ365日、毎日のように一緒に練習した。
あの子が2歳の頃から初めたから、今年でもう14年目になる。
ヒョウマ君に言われて気が付いた。そういえば……最近のコータローは上手くなってきた。
1対1の勝負で、オレも負けてしまう時もある。
自分が負けるのは悔しいけど、子供の成長は嬉しいものだ。これも親バカかな?
「なんだと⁉ コータローは、お前に1対1で勝つこともあるのか⁉」
「うん。そうだよ、ヒョウマ君。それがどうしたのかな?」
「はっはっは……大ありだぞ! 何しろ“あの野呂コータ”に1対1で勝てる16歳が、この世の中にいたんだぞ! これは予想以上の秘密兵器になったな!」
ヒョウマ君は何やら嬉しそうだった。
それは代表の監督としての顔。日本代表の新たなる時代を、直感した表情であった。
もしかしたらオレが思っている以上に、コータローは凄い選手なのかな?
とにかく父親として負けないようにしないとね。
「子供といえば、ヒョウマ君のところの、タイガ君は今回の代表にいないの?」
子どもの話をして、思い出したので尋ねてみる。
ヒョウマ君にも“タイガ”という、16歳の長男君がいたことを。
タイガ君は幼い時から、コータローのライバル的な存在だった。
「あいつか? タイガの奴は3年前に、一人で南米に武者修行の旅に出てから、音信不通だ。ボロボロになったサッカーボールだけが、年に一度郵送で来るから、生きてはいるだろうな」
「そっか……それは、帰って来るのが楽しみだね!」
タイガ君はお父さんに似て、小さい頃からサッカーがメチャ上手かった子である。
プレイスタイルもヒョウマ君とよく似ていた。
あと、うちのコータローと同じくらいのレベル、だったような気がした。
「そういえば、ヒョウマ君。タイガ君のママ……葵は元気にしている?」
「お前の妹か? ああ、相変わらず元気だぞ」
タイガ君のパパはヒョウマ君。
タイガ君のママは葵。
オレの妹は葵。
ヒョウマ君の妻は葵。つまり……そういうことだ。
これにはさすがのオレも驚いた。
オレがエレナと結婚した後に、この二人も急接近して結婚したのである。
葵いわく『エレナとの勝負に敗れた。でも澤村さんと結婚したら、更にお兄ちゃんの精神的な近くにいれる。だから私の実質的な勝利』だという。
その理論と理由は、オレにはよく分からない。
だが『野呂コータ不可侵条約』という秘密組織内で、壮絶な戦いがあったことだけは噂で聞いたことがある。
もちろんオレは恐ろしくて、今まで触れないようにしてきた。
「そういえばこの前、葵は新聞に載っていたね、ヒョウマ君?」
「MAYAとのコラボレーションの仕事のことか? あいつの仕事には、ダンナのオレ様もノータッチだ」
葵の今の仕事は、ハリウッドでクリエイター業である。
何でもエクササイズと歌を融合した、新しい内容だという。
だからマヤ……世界の歌女王ことMAYAと葵は、一緒に仕事をよくしていた。
そういえばMAYAこと、マヤも元気にしている。
今でも毎年のように、世界中に大ヒットする曲を発表。
さらに世界中の難病の撲滅のために、地道な活動を展開。ノーベル平和賞の候補にも挙がっていた。
そんな忙しい中で、マヤは独身を貫いていた。
これから結婚する予定もないという。
とある雑誌のインタビューで、彼女は答えていた『私の魂は想い人に、すでに捧げている。だから結婚という形、無意味。つまり私が実質的に勝利者』と。
そういえば、そんなマヤから、オレはある歌を贈られた。
その意味を……あまり深くは考えないようにしている。
とにかくエレナも葵、マヤの三人は、今でも仲良く遊んでいる!
全員が幸せにしていたのだ。
あと幸せといえば、エレナの兄のユリアンさんも元気にしていた。
サッカー選手を現役引退した後は、家の稼業……F.S.Vのオーナークラブになっている。
F.S.Vは相変わらず強いチーム。オレも世界クラブ選手権などでは、何度も苦戦してきた。さすがはF.S.Vだ。
ちなみにユリアンさんは独身貴族である。
このまま結婚せずにいたら、ヴァスマイヤー家とF.S.Vの跡継ぎはどうなるのであろうか?
ヴァスマイヤー家の毎年恒例のクリスマスパーティー会場では、なぜかオレに跡継ぎの話が来ていた。なにか嫌な予感がする。
まあ、あまり考えないようにしよう。
あとユリアンさんと仲良しのレオナルドさんも元気だ。
世界中の名門クラブを移り渡り、現役を引退したレオナルド・リッチ。今ではユベトスFCの本拠地のトリノの街で、実業家となっていた。
そのかたわらで慈善事業にも力を入れている。
世界中の恵まれない子どもたちのために、サッカー振興事業に力を入れていた。
レオナルドさんのSNSには、いつも世界中の子どもたちのサッカーと笑顔で溢れている。
あと独身貴族同士で、仲良しのユリアンさんとのツーショット写真も多い。
最後。思い出深いのはセルビオ君。
セルビオ・ガルシアはオレと同じ数少ない現役選手である。
未だに世界最高峰のヨーロッパリーグで活躍していた。
40歳を過ぎたというのに、現役バリバリで活躍している。相変わらずの化け物っぷりだ。
彼とクラブ戦で対戦する機会は、今でも多い。
セルビオ君は今でもプライベートラテン系な軽いノリ。
でも試合になった時の野生の気迫は昔以上。そんな彼との対戦はいつも驚きと喜びの連続だ。
ちなみにスーパープレイヤーのセルビオ君は女性にモテていた。ハリウッド女優やモデルさんと噂が上がりまくり。
今では4回結婚して、4回離婚して、世界的な週刊誌を賑わせている。
「おい、コータ。話を戻すぞ」
そんな思い出に浸かっていたオレに、ヒョウマ君が声をかけてきた。
「今回のワールドカップで結果を出さなければ、日本サッカーは大きく後退する。絶対に優勝するぞ!」
「うん、そうだね、ヒョウマ君!」
日本サッカーは創設以来の窮地に陥っていた。
今回のワールドカップでは、絶対に成績を出さないと危険なのだ。
だがオレは少しも怖くはない。
何故なら、あのヒョウマ君が日本代表の新監督。
更に日本サッカー協会の新会長は澤村ナオト。
これ以上の頼もしいバックアップはない。
難しい話は彼らに任せて、オレは試合だけに集中できるのだ。
あっ⁉
そろそろ、急がないと遅刻しちゃう。
日本代表メンバーの皆に合流しよう!
◇
「みなさん、はじめまして! 野呂コータと申します! 目標は今回のワールドカップで優勝! 約10年ぶりの代表復帰ですが、初心に返って頑張らせてもらいます!」
合流したオレは、元気よく現代表メンバーに挨拶をする。
こちらを見つめてくる皆の顔つきは真剣だった。
うちの息子コータローをはじめとして、才能ある選手ばかり。
新時代のサムライブルーの若武者ばかりであった。
(若い選手のこのギラギラした顔……なんか懐かしいな。そして頼もしいな!)
今の日本サッカーは窮地に陥っている。
だがこの顔を見て安心した。
日本のサッカーの未来は絶対に明るい……と。
そんな若い世代の中で、オレに出来ることは一生懸命にプレイすることだけ。
昔と同じように、サッカーボールを追いかけることだけだ。
「よし、みんな! 今日の試合、頑張っていこう!」
こうしてオレは新たなる道へ挑戦する。
自分のサッカーライフを、最後の瞬間まで、満喫していくのであった。
◇
◇
野呂コータというサッカー選手がいた。
サッカーに携わる者で、その日本人を知らない者は誰もいない。
野呂コータは生涯現役を貫き通し、数々の逸話を残していた。
日本ばかりではなく世界中の国で、サッカーの普及と活性化に尽力していた。
この者によって救われた国や機関は多く、この選手に勇気をもらった者は数え切れない。
だが野呂コータは一度たりとも自分の功績を誇ったことはない。
なぜならその目は常に一点だけを見つめていたから。
サッカーボールという、世界中を魅了する場所だけを……
◇
「さあ、いくよ! みんな!」
そして世界のどこかで、今日も響き渡る。
野呂コータがボールを追いかける音が。
満面の笑みでプレイする輝きが。
◇
素人おっさん、転生サッカーライフを満喫する 【完】