表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
素人おっさん、転生サッカーライフを満喫する【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【五輪編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

151/157

第150話:決勝戦の後に

 オリンピックスタジアムに、試合終了のホイッスルが鳴り響く。

 満員の観客は、轟音のような大歓声を上げている。


「3対2……ボクたちは勝てたのか……?」


 だが倒れ込んでいたオレは、実感が湧かなかった。


 最後のヒョウマ君のへのパスは、無我夢中で出した。

 まるで映画を見ているかのような、得点シーン。


 本当にオレたちは勝つことが出来たのか?

 ようやく立ち上がったけど、未だに実感がない。


「やったなぁああ! コータ!」

「ナイス、パスだったなぁ!」


 だが勝利は現実であった。

 その証拠に日本代表の皆が、オレに向かって走り込んできた。


 勝利に歓喜して、大興奮して抱きついてきたのだ。


「痛てて……みなさん、ありがとうございます……でも、そんなに叩いたら、痛いです……」


 日本代表のみんなは全力で、オレのことを叩きてきた。

 代表の中でも最年少なので、いじられキャラなのはいつものこと。

 だが今日の叩きは、尋常ではない破壊力。


 それだけ代表のみんなが、優勝の歓喜に大興奮しているのだ。

 この痛みこそ現実の証拠である。


「というか……祝い叩きするなら、ボクよりも、ヒョウマ君が……」


 最後の決勝点を見事に決めたのは、FWのヒョウマ君。

 オレがしたことといえば、無我夢中でセルビオ君のマークを振り切り、パスを出しただけである。


「何言っているんだ、コータ? あのセルビオ・ガルシアを抜き去って、神業のようなパスを出したんだぞ、お前は!」

「間違いなく今大会のベストプレイだったぞ、コータは!」

「仲間のオレたちでも、見惚れてしまったパスだったぞ!」


 代表のみんなは、オレのことを褒め称えてくれる。

 セルビオ君を抜き去ったラストプレイを、特に絶賛してくれた。

 教科書通りの初級技で、あのセルビオ・ガルシアを抜けたことに、誰もが驚いていたのだ。


(そうか……あのドリブルとパスのことか……ボクも無我夢中だったから、あまり覚えていないや……)


 覚醒したセルビオ君に追い込まれて、オレは窮地きゅうちに陥っていた。


 現状で使える未来の技も全て出し切ったが、セルビオ君には通じないでいた。

 あまりにも身体能力と天賦てんぶの才能に、差がありすぎたのだ。


(教科書通りの基本技か……)


 そんな窮地に出てきたのが、あの基礎技であった。

 何の変哲もなく、世界中サッカー選手が知っている技。


 大きな大会で使う選手はほとんどいない、初級技だったのだ。


(初心忘れるべからず……か)


 だがそんな基本技に、オレは助けられた。

 3歳の頃から毎日のように練習してきた技で、オレは窮地を脱することができた。


(オレの武器は“判断力と反射神経”と“視野の広さ”だけじゃなかったんだな……)


 こうして考えると、いつも自分の窮地を救ってくれたのは、サッカーの基本技であった。

 華麗なテクニックでも、この時代の人が知らない未来の技でもない……幼い頃から積んできた膨大な基礎の技なのだ。


 今まで自分でも気がつかなかった。

 どうしてもサッカーは華麗なテクニックや、スーパーゴールが注目される。


 でも、どんな大舞台でも最後に大事なのは、基本技の積み重ね。

 サッカーの難しさと面白さを、改めて実感するのであった。


「コータ、ナイスパスだったな」


 そんな時、ヒョウマ君が一人で近寄ってきた。

 さっきまでいた日本代表のみんなは、監督やコーチの方に駆けていている。


「うん、ヒョウマ君もナイスシュートだったね!」


 最後の決勝点は、本当にナイスシュートだった。

 難しい角度からのパスだったのにも関わらず、全身のバネを使って蹴り込んでいた。

 ヒョウマ君にしか出来ない、ファンタスティックなゴールだったのだ。


「そういえば、ヒョウマ君。ボクの最後のパス……あれは、ちょっと厳しかったけど、よくタイミングを合わせられたね?」


 オレが出したパスは基礎技だったが、、受けてシュートする側から見たら、かなり難易度が高かった。

 更に代表チームでも、一度の練習したこともない連携プレイだった。

 それなのにヒョウマ君は、見事にタイミングを合わせてくれたのだ。


「タイミング? コータからのパスは、小学2年生の時から見ていたからな……別チームだったこの4年間も、毎日のようにイメージトレーニングしていた」

「えっ⁉ この4年間、ボクとの連携のイメージトレーニングを⁉」


 ヒョウマ君の言葉に、自分の耳を疑う。

 何故ならオレもこの4年間、同じことをしていた。


 イタリアで活躍するヒョウマ君の映像を毎回入手。

 成長していくヒョウマ君に、パスをだすイメージトレーニング。これを毎日のように積んできた。


 そしてヒョウマ君も、同じイメージトレーニングをしてきたのだ。


「なんだ、コータもか……」

「うん、そうだね……そういえば、小学生の時からは、ボクたちは似たもの同士だったね……」


 生まれや育ちは違えども、オレとヒョウマ君はいつもサッカーボールを追いかけていた。


 性格はまるで違うけど、サッカーのことだけは互いに譲れない、似たもの同士。


 1対1で勝負してきた回数は、もはや数えることもできない。

 通算対戦は2000戦以上であろう。


 そして小学6年生の時は……あの時は、本音をぶつけ合い、喧嘩のようにサッカーで勝負をした。


 それほどまでにオレたち2人は、サッカーに関して全身全霊で挑んできたのだ。


「互いにずっと意識してきて、不思議な感じだね、ヒョウマ君」

「当たり前だぞ、コータ。前にも言ったがオレ様の最大のライバルは、お前だ。ヨーロッパで活躍するバロンドール受賞選手でもなく、野呂コータだ」

「そんな、ヒョウマ君、恥ずかしいよ……でも、ボクも同じだよ! ボクの生涯のライバルはヒョウマ君だよ!」


 互いに意識したのは、初めて出会った時。

 小学2年の夏のことだった。


 互いにヨーロッパでプレイしてきても、その時の想いは変わっていなかった。

 4年間も違うチームにいても、想いだけは常に一緒にプレイしてきたのだ。



「おい、コータ! 澤村! そろそろサポートの席に、挨拶にいくぞ!」


 子どものように喜んでいた代表のみんなが、こちらに戻ってきた。

 スタジアムにいる観客席に、全選手で挨拶に行く時間がやってきたのだ。


 日本代表の応援団も、ずっとオレたちのことを応援してきてくれた。

 チームが調子悪い時や監督解任騒動の時も、オレたちのことを信じて応援してくれた。

 そんな日本サッカーを心から愛してくれる皆のところに、感謝を述べていくのだ。


「じゃあ、行こう、ヒョウマ君!」

「ああ、そうだな、コータ」


 こうしてオレたちは観客席に挨拶に駆けていく。

 まずは日本のサポートのみんなにお礼を言って回る。

 リベリーロ組の皆や、サッカー部のみんなもいた。


「ナイスパスだったな、コータ!」

「澤村も最高だったぜ!」

「リベリーロ弘前の誇りだぜ、お前は!」

「タマ学園サッカー部、バンザイだぜ!」


 そんな応援席の皆は、“日本代表の14番”……オレのユニフォームを着て応援してくれていた。

 所属やチームがバラバラ。

 でも同志となり肩を組んで、一体となって大喜びしていた。


「お兄ちゃん! お兄ちゃん、おめでとう!」

「コータ! よくやったな!」

「コーちゃん! 本当におめでとう!」


 観客席にいた葵と両親にも、軽く挨拶できた。

 家に帰れるのは、あと2日後の予定。

 家族にはその時に、ゆっくり話が出来るであろう。


『ドイツのみなさん、ありがとうございました! あとヨーロッパから来ていただいた皆さんも、ありがとうございました!』


 日本のサポータの後は、世界各国から来た観客席にも挨拶にいく。

 特に多いのはドイツからのF.S.Vサポート団。

 わざわざヨーロッパから来てくれたみんなにも、心からお礼を言ってまわる。


「コータ! コータ! おめでとう、コータ!」


 その中でもひと際興奮しているのはエレナであった。

 あまりにも興奮し過ぎて、オレに抱きつこうとしていた。


 だが観客席とピッチの間は、かなりの段差があり危険。

 ユリアンさんたちドイツ代表の選手に止められていた。


 オレたちは明後日まで、選手村に滞在している。

 明日の朝の朝食会場で、エレナやユリアンさんたちはゆっくり話せるであろう。


「では、日本代表のみなさん。こちらに移動お願いします!」


 挨拶が終わったら、会場スタッフから指示を受ける。

 オリンピックで優勝したチームは色々と忙しい。 


 観客席に挨拶した後は、金メダルト授与セレモニーもある。

 その後は世界各国のマスコミ陣相手に、各選手がインタビューで答えていく時間。


 選手村に戻るのは夜遅く。

 かなり過密なスケジュールである。


 満身創痍な決勝戦の後に、信じられないくらいのハードスケジュールだった。


 だが文句を言うチームメイトは、誰一人いなかった。

 誰もが優勝の興奮で、モチベーションが最大になっていたのだ。


 日本サッカー史上初の金メダル……その歓喜の余韻に、誰もが浸っていたのである。



『ナイスゲームだったな、コータ。サワムラ』


 そんなハードスケジュールの合間。

 試合終了の後、セルビオ君と少しだけ話ができた。


『うん、こちらこそありがとう、セルビオ君!』

『オレ様からも、今日だけは言わせてもらうぞ……ナイスゲーム、セルビオ』


 優勝の興奮の坩堝るつぼと化していたピッチの上で、三人で二言三言だけ会話を交わした。


 セルビオ君とオレはユニフォーム交換をして、健闘をたたえ合った。


『今回はオレたちの負けだ、コータ。だが2年後は、オレたちスペイン代表が勝たせてもらう』


 ユニフォーム交換をした後に、セルビオ君はそんなことを言っていきた。


 2年後……?

 一体なんの試合のことであろうか?


「コータ、2年後はオーストラリア大会だぞ」

「オーストラリア大会……あっそうか、オーストラリア・ワールドカップのことか!」


 ヒョウマ君の言葉で思い出す。

 2年後にはサッカーの世界最大の大会……ワールドカップが開催。


 セルビオ君は国同士で、また戦おうと約束してくれたのだ。


『でも、セルビオ君……ボクは……』


 今世のセルビオ・ガルシアなら間違いなく、W杯のスペイン代表にも選ばれるであろう。

 19歳となった2年後は、更に凄まじいストライカーに成長しているに違いない。


 それに比べてオレはどうなるか分からない。

 年齢制限のない日本代表の席は、オリンピックの何倍も厳しい。


 オレがワールドカップ日本代表に選ばれる可能性は、無いかもしれないのだ。


『うん……2年後に、また戦おうね、セルビオ君!』


 だがオレは約束した。

 自分も必ず日本代表に選ばれることを。

 

 ワールドカップの舞台で再会することを、セルビオ君に宣言する。


「コータも言うようになったな。日本代表に選ばれる宣言するとはな」

「ちょっとヒョウマ君……恥ずかしいから、誰にも言わないでよね……」


「そういうところは相変わらず、コータのままだな」

「えー、そうかな?」


「ああ、小学生の時から成長しないままだ」

「そんな、酷いよ、ヒョウマ君! はっはっは……」


 オレたちは子どものように笑い合う。

 2年後のことはどうなるか、誰にも分からない。


 でも確実に言えることは、一つだけある。


“サッカーは最高だ”


 その想いだけは、この場にいる全員で共感していたのだった。



 こうして決勝戦の夜は、いろんなことがあって更けていく。

 そして翌日がやってくる。


 8月23日。

 長きにわたってドラマを生んできたオリンピック……その閉会式がやってきたのだった。

 この日はオリンピックの最後のセレモニーが行われる。


 全競技を終えて次の開催地へとバトンを渡す、閉会式が行われるのだ。


『ニッポン!!』


 そんな閉会式の真っ最中。

 オレたちが入場する番となる。


 開催地としておおとりで、最後にスタジアムに入場行進していく。


「「「ニッポン! ニッポン!」」」


 超満員のオリンピックスタジアムから、大歓声が飛んでくる。

 サッカーの決勝戦と同じ位の熱量である。


 これは凄いな……。

 緊張してまた、手足が一緒にならないように、気をつけないと。


「コータ、そんなに真面目に行進しなくてもいいんだぞ!」

「閉会式はお祭りだからな!」

「一緒に写真を撮ろうぜ!」


 なんと真面目に行進をしていたのは、オレ一人だけだった。

 他の全選手は写真を撮ったり、日の丸をふったり、肩を組み合ったり歩いている。


 そういえばオリンピックの閉会式は、世界各国でお祭りな雰囲気だった。

 真面目に行進しなくてもOKなのだ。

 緊張のあまりすっかり忘れていた。


 オレもみんなと同じようにリラックスして行進していく。


 閉会式のセレモニーは進んでいき、お祭り雰囲気は加速していく。

 次回開催地へのオリンピック旗の授与式が行われ、盛大な花火が上がる。


 スタジアムの中央ステージでは、世界各国の祭りを融合した踊りが、光と音の饗宴をしている。


 そんな中でスタジアムの中央には、世界各国の選手と関係者が勢ぞろいしていた。

 誰もが閉会式に興奮しており、楽しそうに騒いでいる。


 区別の整列も無くなり、他国の選手と写真撮影タイムが始まっていた。

 大阪オリンピックもあと十数分で閉幕。

 誰もがあと少しで閉幕するオリンピックを、最後まで楽しもうとしていた。


 こうして大阪オリンピックは最後の瞬間まで、笑顔で満ちていくのであった。



 そして閉会式の翌日となる。

 オリンピック全日程は無事に終わった。


 この日は全選手が選手村を旅立つ日。


 エレナやユリアンさん、レオナルドさんたちとの別れの日がやってきたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ