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第148話:VS スペイン無敵王子

 オリンピックサッカーの決勝戦が始まるまで、あと数時間。

 ひと気のない選手村の公園の中。

 オレたちの前に、セルビオ・ガルシアが現れた。


『ガルシア君⁉ どうして、こんなところに? あと、出来ればボクのボールを、返してもらっていいかな?』


 突然のことにオレは混乱していた。


 ガルシア君が選手村にいるのは、オリンピック選手だからであろう。

 だが、何故オレのボールを奪い取ったのか?

 それにあのスピードで突進してくるのは、かなり危険だった。


 今は大事な決勝戦の直前。

 大ごとにならないように、スペイン語で丁寧にお願いをする。


『ヘーイ、カモン!』


 それに対してセルビオ君は、英語と指のジェスチャーを返してきた。


 意味は“ボールを返して欲しかったら、実力で奪いに来い”

 小学生にも通じる挑発である。


『えっ、ガルシア君? なんで、こんなことを……?』


 オレは更に混乱してしまう。

 ここは警備の厳しい選手村の中。

 

 それに今はオリンピックサッカーの決勝戦の直前。

 これから対戦する国の選手が、騒ぎを起こしたら大変なことになる。


 でもなんでガルシア君は、こんな子供じみた真似をしてくるのであろうか?

 それにスペイン語ではなく、なんで英語で?


「コータ、こいつは5年前の再現をしているぞ」

「えっ、ヒョウマ君? 5年前の? あっ、そういうことか!」


 ヒョウマ君の説明に思い出す。

 オレたちは5年前の小学生の年代の世界大会、U-12ワールドカップで対戦していた。


 その試合の数日前のアップグラウンド。

 今と同じように、セルビオ君にボールを奪われてしまった。


 だから当時と同じように、セルビオ君は英語で挑発してきたのだ。


『ヘーイ、カモン!』


 セルビオ君は再度、英語で挑発してきた。

 その口元には、子どものような笑みが浮かんでいる。

 その反応から、どうやらヒョウマ君の推測は当たっていたのであろう。


 更に指を二本立ててきた。

『悔しかったら2人がかりでもいいぞ。ボールを奪いにこい』という挑発的な意志が込められていた。


 これも5年前の再現の挑発である。


(悔しい……でも、どうしよう……)


 オレは動けずにいた。 

 ここでセルビオ君の挑発に乗るのは、あまり良策ではない。

 

 もしもボールの奪い合いがエキサイトしたら、誰かが聞きつけて来るかもしれない。

 サッカーのボールの奪い合いは激しい。周りから見たら喧嘩にも見えてしまう激しさ。


 選手村の警備に通報でもされたら、大問題に発展してしまうかもしれない。

 特にオレたちは数時間後に、決勝戦を控えている。

 サッカー全体のイメージダウンだけは、絶対にしたくなかった。


(どうすれば……)


 色んな想いが交差してしまう。

 5年間の最初と同じように、オレは足が動かずにいたのだ。


(でも……負けたくない……サッカーに関してだけは……あのセルビオ・ガルシアが相手でも!)


 だが今回のオレは違っていた。

 自らの内の中に、熱い闘志が燃え上がってくる。


『いけ! コータ! セルビオ・ガルシアから、自分の力でボールを奪い返せ!』と、心の奥の魂が叫んでいる。


「ふん。どうする、コータ? ここはオレ様からいくか?」


 隣のヒョウマ君も、オレと同じ想いだった。

 セルビオ君からボールを奪い返そうとしている。


「今回はボクが先に行かせてもらっていいかな、ヒョウマ君?」


 全身の血がたぎるのを抑えながら、オレはセルビオ君の前に進む。

 5年前の先にヒョウマ君が、セルビオ君に勝負を挑んでいった。


 だが今回はオレから先に行きたい。


 いつまでもヒョウマ君に守ってもらってばかりではいられない。


 本当の友とは仲良しのことではない。

 同じ高みにいられる存在だけが、友として高め合えるのだ。


「ああ。任せたぞ、コータ」


 オレの想いを察してくれたヒョウマ君は、一歩後ろに下がる。

 信頼しきった顔で、オレの戦いを見守ってくるのだ。


『へえ、今回はコータから先に遊んでくれるのかい?』


 こちらの行動を見て、セルビオ君の表情が変わる。

 先ほどまでは陽気で悪戯っぽい、子どものようセルビオ君。

 だが今はピッチ上の戦士の顔に変貌。


 ヨーロッパでも最強と名高い超名門クラブ“レアロ・マドリード”のセルビオ・ガルシアの顔になっていた。


『でも、コータ……キミ一人で、オレを止められるのかな?』


 凄まじいプレッシャーが飛んでくる。

 殺気のような圧力が、ヤバイくらいに突き刺さってくる。


 ドイツ時代でも経験したことがない、恐ろしいまでの圧力。

 オレは思わず後ずさりしそうになる。


『ボクはヒョウマ君のためにも、ここで負ける訳にいかないんだから!』


 オレは怯まなかった。

 逆にセルビオ・ガルシアをにらみ付ける。


 ヒョウマ君はオレを信じて、送り出してくれた。

 その想いに応えるために、ここで退くわけにはいかないのだ。


『この感じは……? やっぱりコータはいいね! ここまでオレを興奮させてくれるのは、同年代でキミだけだよ!』


 セルビオ君は野獣のような笑みを、口元に浮べる。

 ボールをもったまま、こちらにゆっくりと近づいてくる。


 一見すると隙だらけだが、よく見るとどこにも罠だらけ。

 オレが足を踏み出した瞬間、高速フェイントで抜かれてしまうであろう。


(絶対に負けられない……)


 オレも覚悟を決めていた。


 今は大事な決勝戦の直前。

 ここでセルビオ君に無様に負けてしまったら、そのショックは大きいであろう。

 下手したら試合に悪影響を及ぼす可能性もある。


 だからオレは負ける訳にはいかない。

 たとえ相手が未来のスーパースターでも、ここは絶対に負けられないのだ。


(全神経を集中させろ、野呂コータ……勝負は一瞬だ……)


 互いに選手村では、騒ぎを起こしたくない。

 この対決は一瞬で終わらせたい。


 そのため双方とも初っ端から全力でいくのだ。


(まだだ……まだ動くな、オレよ……)


 オレたちは動かなった。

 睨み合ったまま不動の構えをしている。


 いや、動きたくても動けないのだ。

 少しでも下手に動いたら、そこで勝負がついてしまう。


 そんなギリギリの攻防を互いに繰り出していたのだ。

 

『いくよぉおお、コータぁあ!』


 そんな中、先に動いたのは相手。

 セルビオ君はトップスピードで突っ込んできた。


 凄まじい加速力。

 ゼロから一気にトップスピードに到達していたのだ。


 普通の人間には反応できないドリブルであった。


「そこだぁあ!」


 だがオレは反応していた。

 全神経を集中させて、相手の動きについていけていたのだ。


『これに反応できるとは、コータぁ! だが!』


 セルビオ君は更に加速していく。

 まさかあそこから更に上のギアスピードがあったのか⁉

 予想もしていなかった。


 セルビオ君の身体が視界から消えていく。

 実際には消えてはいなが、オレにはそう見えていた。


 あまりに常識外れのスピードに、オレの身体が付いていかなったのだ。


「でも!!」


 オレは諦めなかった。

 無我夢中で足を動かす。


 それはボールがあるべき場所。

 オレの身体はついていけていなかった。


 だがオレの動体視力と反射神経は、ボールを確かにとらえていたのだ。



 勝負は一瞬でついた。


 セルビオ君の足元にあったボールは、コロコロとどこかに転がっていった。


 オレはボールを奪うことができなかった。


 セルビオ君もボールを奪われることはなかった。


 こうなったら勝負はどうなるのであろうか?


『はっはっは……引き分けか。こうなるとは考えてもいなかったよ、コータ』

『えっ、引き分け? そうか……そうかもしれないね、セルビオ君』


 勝負は引き分けであった。

 どちらも勝者でもなく、敗者でもない。


『じゃあ、また後で、遊ぼうぜ、コータ。それにサワムラもな。本当の決着はその時に』


 そう言い残して、セルビオ君は立ち去っていった。

 先ほどの野獣のようなプレッシャーは解かれ、天真爛漫てんしんらんまんな笑顔に戻っていた。


 だが真剣な表情で、挑戦状を叩きつけてきた。

 決勝戦で日本を倒すと宣言してくる。


『うん……そうだね、セルビオ君。決勝の場で!』

『今度はオレ様もいるぞ!』

 

 オレたちも負けずに、挑戦状を送り返す。

 決勝戦には引き分けはない。


 必ずどちらかが勝者となり、敗者となるのだ。


「必ず、勝とうね……ヒョウマ君!」

「ああ、当たり前だ、コータ!」


 こうしてオリンピック決勝戦の舞台へ、オレたちは向かうのであった。


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